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東京地方裁判所 平成8年(行ウ)35号・平6年(行ウ)72号 判決

平成六年(行ウ)第七二号 中労委救済申立棄却命令取消請求事件(甲事件)

平成八年(行ウ)第三五号 労働委員会命令取消請求事件(乙事件)

甲事件原告 中島秀明

甲事件原告 大矢勝

甲事件原告 国鉄労働組合近畿地方本部

右代表者執行委員長 松尾幸次郎

乙事件原告 国鉄労働組合岡山地方本部

右代表者執行委員長 則武政之

乙事件原告 柴田敏夫

右各事件原告ら訴訟代理人弁護士 宮里邦雄

同 岡田和樹

甲事件原告ら訴訟代理人弁護士 石川元也

同 河村武信

同 三上孝孜

同 豊川義明

同 関戸一考

同 岩田研二郎

同 梅田章二

同 杉本吉史

乙事件原告ら訴訟代理人弁護士 石田正也

同 水谷賢

同 井上健三

各事件被告 中央労働委員会

右代表者会長 花見忠

右各事件被告指定代理人 西田典之

同 伊藤治

同 松野明広

同 瀬野康夫

各事件参加人 西日本旅客鉄道株式会社

右代表者代表取締役 井手正敬

甲事件参加人訴訟代理人弁護士 天野実

乙事件参加人訴訟代理人弁護士 河村英紀

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は参加によって生じた訴訟費用を含めて原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

(甲事件)

被告が中労委昭和六三年(不再)第六六号事件について平成五年一二月一五日付けで発した命令を取り消す。

(乙事件)

被告が中労委平成二年(不再)第一一号事件について平成七年一一月一日付けで発した命令を取り消す。

第二事案の概要

日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)の改革として、国鉄から旅客鉄道事業、貨物鉄道事業を承継する株式会社として承継法人(改革法の用語によった。)が設立されるに当たり、設立委員によってその職員の採用が行われたが、国鉄の職員で承継法人の職員となる意思を表示した者のうち、甲事件原告中島秀明(以下「原告中島」という。)、同大矢勝(以下「原告大矢」という。)及び乙事件原告柴田敏夫(以下「原告柴田」という。)が採用されなかったため、甲事件原告らが大阪府地方労働委員会(以下「大阪地労委」という。)に対し、乙事件原告らが岡山県地方労働委員会(以下「岡山地労委」という。)に対し、それぞれ救済申立てをし、大阪地労委及び岡山地労委はそれぞれ救済命令を発した。

そこで、甲事件及び乙事件参加人(以下「参加人」という。会社組織等を示す場合「参加人西日本会社」という場合もある。)が被告に対しそれぞれ再審査申立てをしたところ、被告は、それぞれ、大阪地労委及び岡山地労委の各命令を取り消し、原告らの救済申立てを棄却する各命令を発した。

本件は、原告らが被告の右各命令の取消しを求める行政事件訴訟である。

一  法令等の内容(原則として法文どおりの表記をした。)

1  日本国有鉄道改革法(昭和六十一年十二月四日法律第八十七号。以下、法令の条文中に引用される場合を除き、「改革法」という。)

第一章 総則

(趣旨)

第一条

この法律は、日本国有鉄道による鉄道事業その他の事業の経営が破綻し、現行の公共企業体による全国一元的経営体制の下においてはその事業の適切かつ健全な運営を確保することが困難となっている事態に対処して、これらの事業に関し、輸送需要の動向に的確に対応し得る新たな経営体制を実現し、その下において我が国の基幹的輸送機関として果たすべき機能を効率的に発揮させることが、国民生活及び国民経済の安定及び向上を図る上で緊要な課題であることにかんがみ、これに即応した効率的な経営体制を確立するための日本国有鉄道の経営形態の抜本的な改革(以下「日本国有鉄道の改革」という。)に関する基本的な事項について定めるものとする。

(改革の実施時期)

第五条

日本国有鉄道の改革は、昭和六十二年四月一日に実施するものとする。

第二章 日本国有鉄道の改革に関する基本方針

(旅客鉄道事業の分割及び民営化)

第六条第一項

国は、日本国有鉄道が経営している旅客鉄道事業について、主要都市を連絡する中距離の幹線輸送並びに大都市圏及び地方主要都市圏における輸送その他の地域輸送の分野において果たすべき役割にかんがみ、その役割を担うにふさわしい適正な経営規模の下において旅客輸送需要の動向に的確に対応した効率的な輸送が提供されるようその事業の経営を分割するとともに、その事業が明確な経営責任の下において自主的に運営されるようその経営組織を株式会社とするものとする。

第六条第二項

国は、旅客鉄道株式会社(前項の規定により旅客鉄道事業を経営する株式会社をいう。)として、次の各号に掲げる株式会社(以下「旅客会社」という。)を設立し、それぞれ、主として当該各号に定める地方において日本国有鉄道が経営している旅客鉄道事業を当該旅客会社に引き継がせるものとする。

一  北海道旅客鉄道株式会杜 北海道

二  東日本旅客鉄道株式会社 東北及び関東

三  東海旅客鉄道株式会社 東海

四  西日本旅客鉄道株式会社 北陸、近畿及び中国

五  四国旅客鉄道株式会社 四国

六  九州旅客鉄道株式会社 九州

(貨物鉄道事業の分離及び民営化)

第八条第一項

国は、日本国有鉄道が経営している貨物鉄道事業について、主として長距離の輸送及び大量の輸送の分野において果たすべき役割にかんがみ、一体的かつ適正な経営管理体制の下において貨物輸送需要の動向に的確に対応した効率的な輸送が提供されるようその経営を旅客鉄道事業の経営と分離するとともに、その事業が明確な経営責任の下において自主的に運営されるようその経営組織を株式会社とするものとする。

第八条第二項

国は、前項の規定により貨物鉄道事業を経営する株式会社として、日本貨物鉄道株式会社(以下「貨物会社」という。)を設立し、日本国有鉄道が経営している貨物鉄道事業を貨物会社に引き継がせるものとする。

(日本国有鉄道清算事業団への移行)

第十五条

国は、日本国有鉄道が承継法人に事業等を引き継いだときは、日本国有鉄道を日本国有鉄道清算事業団(以下「事業団」という。)に移行させ、承継法人に承継されない資産、債務等を処理するための業務等を行わせるほか、臨時に、その職員の再就職の促進を図るための業務を行わせるものとする。

(職員の再就職の促進のための特別の措置)

第十七条

国は、日本国有鉄道の改革の実施に伴い一時に多数の日本国有鉄道の職員が再就職を必要とすることとなることにかんがみ、これらの者に関し、再就職の機会の確保及び再就職の援助等のための特別の措置を講ずるものとする。

第三章 日本国有鉄道の事業等の引継ぎ等

(事業等の引継ぎ並びに権利及び義務の承継等に関する計画)

第十九条第一項

運輸大臣は、日本国有鉄道の事業等の承継法人への適正かつ円滑な引継ぎを図るため、閣議の決定を経て、その事業等の引継ぎ並びに権利及び義務の承継等に関する基本計画(以下「基本計画」という。)を定めなければならない。

第十九条第二項

基本計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。

一  承継法人に引き継がせる事業等の種類及び範囲に関する基本的な事項

二  承継法人に承継させる資産、債務並びにその他の権利及び義務に関する基本的な事項

三  日本国有鉄道の職員のうち承継法人の職員となるものの総数及び承継法人ごとの数

四  その他承継法人への事業等の適正かつ円滑な引継ぎに関する基本的な事項

第十九条第三項

運輸大臣は、基本計画を定めたときは、日本国有鉄道に対し、承継法人ごとに、その事業等の引継ぎ並びに権利及び義務の承継に関する実施計画(以下「実施計画」という。)を作成すべきことを指示しなければならない。

第十九条第四項

実施計画は、政令で定めるところにより、次に掲げる事項(中略)について記載するものとする。

一  当該承継法人に引き継がせる事業等の種類及び範囲

二  当該承継法人に承継させる資産

三  当該承継法人に承継させる国鉄長期債務その他の債務

四  前二号に掲げるもののほか、当該承継法人に承継させる権利及び義務

五  前各号に掲げるもののほか、当該承継法人への事業等の引継ぎに関し必要な事項

第十九条第五項

日本国有鉄道は、第三項の規定による指示があつたときは、基本計画に従い実施計画を作成し、運輸大臣の認可を受けなければならない。

(以下略)

(事業等の引継ぎ)

第二十一条

第十九条第五項の認可を受けた実施計画(中略。以下「承継計画」という。)において定められた日本国有鉄道の事業等は、承継法人の成立の時(中略)において、それぞれ、承継法人に引き継がれるものとする。

(権利及び義務の承継)

第二十二条

承継法人は、それぞれ、承継法人の成立の時において、日本国有鉄道の権利及び義務(中略)のうち承継計画において定められたものを、承継計画において定めるところに従い承継する。

(承継法人の職員)

第二十三条第一項

承継法人の設立委員(当該承継法人が第十一条第一項の規定により運輸大臣が指定する法人である場合にあっては、当該承継法人。以下「設立委員等」という。)は、日本国有鉄道を通じ、その職員に対し、それぞれの承継法人の職員の労働条件及び職員の採用の基準を提示して、職員の募集を行うものとする。

第二十三条第二項

日本国有鉄道は、前項の規定によりその職員に対し労働条件及び採用の基準が提示されたときは、承継法人の職員となることに関する日本国有鉄道の職員の意思を確認し、承継法人別に、その職員となる意思を表示した者の中から当該承継法人に係る同項の採用の基準に従い、その職員となるべき者を選定し、その名簿を作成して設立委員等に提出するものとする。

第二十三条第三項

前項の名簿に記載された日本国有鉄道の職員のうち、設立委員等から採用する旨の通知を受けた者であつて附則第二項の規定の施行の際現に日本国有鉄道の職員であるものは、承継法人の成立の時において、当該承継法人の職員として採用される。

第二十三条第四項

第一項の規定により提示する労働条件の内容となるべき事項、同項の規定による提示の方法、第二項の規定による職員の意思の確認の方法その他前三項の規定の実施に関し必要な事項は、運輸省令で定める。

第二十三条第五項

承継法人(第十一条第一項の規定により運輸大臣が指定する法人を除く。)の職員の採用について、当該承継法人の設立委員がした行為及び当該承継法人の設立委員に対してなされた行為は、それぞれ、当該承継法人がした行為及び当該承継法人に対してなされた行為とする。

第二十三条第六項

第三項の規定により日本国有鉄道の職員が承継法人の職員となる場合には、その者に対しては、国家公務員等退職手当法(昭和二十八年法律第百八十二号)に基づく退職手当は、支給しない。

第二十三条第七項

承継法人は、前項の規定の適用を受けた承継法人の職員の退職に際し、退職手当を支給しようとするときは、その者の日本国有鉄道の職員としての引き続いた在職期間を当該承継法人の職員としての在職期間とみなして取り扱うべきものとする。

2 日本国有鉄道改革法施行規則(昭和六十一年十二月四日運輸省令第四十一号。以下「改革法施行規則」という。)

(労働条件の内容となるべき事項)

第九条

法第二十三条第一項の規定により提示する労働条件の内容となるべき事項は、次に掲げるものとする。ただし、第五号から第十一号までに掲げる事項については、同項に規定する設立委員等がこれらに関する定めをしない場合においては、この限りでない。

一  就業の場所及び従事すべき業務に関する事項

二  始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに職員を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項

三  賃金の決定、計算及び文払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項

四  退職に関する事項

(以下略)

(提示の方法)

第十条

法第二十三条第一項の規定による提示は、それぞれの承継法人の職員の労働条件及び職員の採用の基準を記載した書面を日本国有鉄道の各作業場の見やすい場所に常時提示し、若しくは備え付け、又は日本国有鉄道の職員に交付することにより行うものとする。

(職員の意思の確認の方法)

第十一条

法第二十三条第二項の規定による職員の意思の確認は、書面により行うものとする。

(名簿の記載事項等)

第十二条第一項

法第二十三条第二項の名簿には、次に掲げる事項を記載するものとする。

一  氏名

二  生年月日

三  所属する本社の部局、附属機関又は地方機関の名称

第十二条第二項

前項の名簿には、当該名簿に記載した職員の選定に関し判断の基礎とした資料を添付するものとする。

3 旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律(昭和六十一年十二月四日法律第八十八号。以下「鉄道会社法」という。)

附則

(設立委員)

第二条第一項

運輸大臣は、それぞれの会社ごとに設立委員を命じ、当該会社の設立に関して発起人の職務を行わせる。

第二条第二項

設立委員は、前項及び日本国有鉄道改革法(昭和六十一年十二月四日法律第八十七号。以下「改革法」という。)第二十三条に定めるもののほか、当該会杜がその成立の時において事業を円滑に開始するために必要な業務を行うことができる。

4 日本国有鉄道清算事業団法(昭和六十一年十二月四日法律第九十号。以下「清算事業団法」という。)

(目的)

第一条第一項

日本国有鉄道清算事業団は、日本国有鉄道改革法(昭和六十一年法律第八十七号。以下「改革法」という。)に定める日本国有鉄道の改革の実施に伴い、旅客鉄道株式会社等による日本国有鉄道からの事業等の引継ぎ並びにその権利及び義務の承継等の後において、日本国有鉄道の長期借入金及び鉄道債券に係る債務(以下「国鉄長期債務」という。)その他の債務の償還、日本国有鉄道の土地その他の資産の処分等を適切に行い、もつて改革法に基づく施策の円滑な遂行に資することを目的とする。

第一条第二項

日本国有鉄道清算事業団は、前項に定めるもののほか、臨時に、その職員のうち再就職を必要とする者についての再就職の促進を図るための業務を行うことを目的とする。

第四章 業務

(業務の範囲)

第二十六条第一項

事業団は、第一条第一項の目的を達成するため、次の業務を行う。

(前略)

四  前三号に掲げるもののほか、日本国有鉄道の改革の実施に伴い事業団に帰属した権利及び義務の行使及び履行のために必要な業務を行うこと。

(中略)

六  前各号に掲げるもののほか、第一条第一項の目的を達成するため必要な業務を行うこと。

第二十六条第三項

事業団は、前二項に規定する業務のほか、第一条第二項の目的を達成するため、臨時に、その職員のうち再就職を必要とする者についての再就職の促進のために必要な業務を行う。

附則

(事業団への移行)

第二条

日本国有鉄道は、改革法附則第二項の規定の施行の時において、事業団となるものとする。この場合において、他の法令の適用については、政令で定めるところにより、事業団を特別の法律により特別の設立行為をもって設立された法人又はこれに類する法人とみなす。

(職員の再就職の促進に関する業務の実施)

第七条

事業団は、第二十六条第三項に規定する業務については、日本国有鉄道退職希望職員及び日本国有鉄道清算事業団職員の再就職の促進に関する特別措置法(昭和六十一年法律第九十一号)の定めるところにより行う。

二 前提となる事実(争いのない事実のほか、証拠によって認定した事実を含む。)

1 当事者等

(一) 参加人西日本会社は、後記の経緯で、昭和六二年四月一日、改革法及び鉄道会社法に基づき、国鉄が経営していた旅客鉄道事業のうち、主として北陸、近畿及び中国地方における事業を承継して設立された株式会社であり、肩書地に本社を置き、その従業員数は後記甲事件初審審問終結時約五万一五〇〇人である。

(二) 日本国有鉄道清算事業団(以下「清算事業団」という。)は、国鉄から承継法人(改革法一一条二項に規定する旅客鉄道株式会社等一一の法人をいう。以下同じ。)に承継されない資産、債務等の処理業務等及び承継法人に採用されなかった国鉄職員の再就職の促進を図るための業務を行うことを目的として、改革法及び清算事業団法に基づき、昭和六二年四月一日に成立した法人であり、その従業員数は後記甲事件初審審問終結時約八〇〇〇人である。

(三) 甲事件原告国鉄労働組合近畿地方本部(以下「原告国労近畿地方本部」という。)は、昭和六二年三月三一日までは国鉄の、同年四月一日以降は承継法人、清算事業団の職員等で組織する国鉄労働組合(以下「国労」という。)の下部組織で、近畿地方を中心とする会社に勤務する者を主たる構成員とする労働組合であり、その組合員数は後記甲事件初審審問終結時約四八四〇人である。

なお、原告国労近畿地方本部は、参加人西日本会社設立に伴い、国鉄当時の国労大阪地方本部、同南近畿地方本部及び同福知山地方本部のほぼすべての組織を統合したものである。

(四) 原告中島は、昭和三四年四月国鉄に入社し、昭和三八年三月から大阪鉄道管理局(以下「大鉄局」という。)宮原電車区電車運転士として勤務しており、昭和六一年六月当時国労大阪地方本部梅田支部宮原電車区分会副委員長であった。

原告大矢は、昭和三六年三月国鉄に入社し、昭和四〇年九月から大鉄局宮原電車区電車運転士として勤務しており、昭和六一年六月当時国労大阪地方本部梅田支部宮原電車区分会執行委員であった。

田岡良勝(以下「田岡」という。)は、昭和四三年一〇月から大鉄局宮原電車区電車検査係として勤務しており、昭和六一年六月当時国労大阪地方本部梅田支部副執行委員長であった。

原告中島、同大矢及び田岡(以上三名を以下「原告中島ら三名」という。)は、参加人西日本会社に採用されず、昭和六二年四月一日以降清算事業団関西雇用対策部大阪雇用対策支所に所属したが、平成二年四月二日に清算事業団からの離職を余儀なくされた。

原告中島ら三名は、原告国労近畿地方本部とともに、昭和六二年九月一日、大阪府地方労働委員会(以下「大阪地労委」という。)に救済を申し立てたが、田岡及び原告国労近畿地方本部は、昭和六三年九月三〇日、田岡に関する申立て部分を取り下げた。

(五) 乙事件原告国労岡山地方本部(以下「原告国労岡山地方本部」という。)は、昭和六二年三月三一日までは国鉄の、同年四月一日以降は承継法人、清算事業団の職員等で組織する国労の下部組織で、参加人西日本会社の事業地域のうち主として岡山県内の職場、同県内の清算事業団の地方組織等に勤務する職員によって組織される労働組合であり、その組合員数は後記乙事件再審査審問終結時約七〇〇人である。

(六) 原告柴田は、昭和三四年四月に国鉄に入社して以来、主として岡山電力区において変電設備の保守、保全業務に従事してきており、後記のとおり、昭和五八年一〇月から昭和六一年九月まで原告国労岡山地方本部の執行副委員長、書記長を務めた。原告柴田は、参加人西日本会社に採用されず、昭和六二年四月一日以降清算事業団岡山雇用対策支部岡山雇用対策支所に所属したが、平成二年四月二日に清算事業団からの離職を余儀なくされた。(争いのない事実、甲事件の乙第三号証、第四号証、弁論の全趣旨)

2 命令の存在

(一) 甲事件

(1)  甲事件原告らは、大阪地労委に対し、参加人西日本会社が労働組合法七条に違反したとして同参加人を被申立人として救済を申し立て(大阪地労委昭和六二年(不)第八二号事件)、大阪地労委は昭和六三年一一月二八日、下記のとおりの救済命令を発した(以下「甲事件初審命令」という。

1 被申立人は、申立人中島秀明及び同大矢勝を、昭和六二年四月一日付けで被申立人の職員として採用したものとして取り扱うとともに、同人らに対し、同日以降同人らが受けるはずであった賃金相当額(既に申立外日本国有鉄道清算事業団から支払われた金額を除く)及びこれに年率五分を乗じた金額を支払わなければならない。

2 被申立人は、申立人らに対し、下記の文書を速やかに手交しなければならない。

昭和 年 月 日

国鉄労働組合近畿地方本部

執行委員長 瀬戸 章 殿

中島秀明殿

大矢勝殿

西日本旅客鉄道株式会社

代表取締役 角田達郎

当社が、貴組合員中島秀明及び同大矢勝の各氏を昭和六二年四月一日付けで採用しなかったことは、大阪府地方労働委員会において、労働組合法第七条第一号及び第三号に該当する不当労働行為であると認められましたので、今後このような行為を繰り返さないようにいたします。

(2)  参加人西日本会社は、甲事件初審命令につき被告に再審査の申立てをし(中労委昭和六三年(不再)第六六号事件)、被告は平成五年一二月一五日、「初審命令を取り消し、再審査被申立人の救済申立てを棄却する。」との命令を発した(以下「甲事件本件命令」という。)。

(二) 乙事件

(1)  乙事件原告らは、岡山地労委に対し、参加人西日本会社が労働組合法七条に違反したとして同参加人を被申立人として救済を申し立て(岡山地労委昭和六二年(不)第五号事件)、岡山地労委は平成二年一月一二日、下記のとおりの救済命令を発した(以下「乙事件初審命令」という。)。

1 被申立人西日本旅客鉄道株式会社は、申立人柴田敏夫を昭和六二年四月一日をもって被申立人の社員として採用したものとして取り扱わなければならない。

2 被申立人西日本旅客鉄道株式会社は、申立人柴田敏夫に対し、昭和六二年四月一日以降、就労させるまでの間、同人が被申立人の社員として採用されていたならば得たであろう賃金相当額と申立外日本国有鉄道清算事業団において実際に支払われた賃金額との差額に年五分の割合による金員を加算して支払わなければならない。

3 被申立人西日本旅客鉄道株式会社は、申立人柴田敏夫の採用に伴う勤務場所については、同人が旧日本国有鉄道において本務として就労していた職務に相当する職務に就かせなければならない。

4 被申立人西日本旅客鉄道株式会社は、申立人柴田敏夫の上記職務就労に伴う諸問題についての協議に、誠意をもって応じなければならない。

5 被申立人西日本旅客鉄道株式会社は、申立人国鉄労働組合岡山地方本部及び申立人柴田敏夫に対し、本件命令後速やかに、次の文書を手交しなければならない。

平成 年 月 日

国鉄労働組合岡山地方本部

執行委員長 柴田敏夫 殿

柴田敏夫殿

西日本旅客鉄道株式会社

代表取締役社長 角田達郎

当社が、貴組合員柴田敏夫氏を昭和六二年四月一日付けで採用しなかったことは、岡山県地方労働委員会において、労働組合法第七条第一号及び第三号に該当する不当労働行為であると認定されましたので、今後このような行為を繰り返さないようにいたします。

(2)  参加人西日本会社は、乙事件初審命令につき被告に再審査の申立てをし(中労委平成二年(不再)第一一号事件)、被告は平成七年一一月一日、「初審命令を取り消し、再審査被申立人らの本件各救済申立てを棄却する。」との命令を発した(以下「乙事件本件命令」という。また、甲事件本件命令及び乙事件本件命令を併せて「本件各命令」という。)。

3 国鉄における労働組合の結成状況

国鉄当時には、国鉄の職員等で組織する労働組合としては、昭和二一年二月に結成された国労、昭和二六年五月に結成された国鉄動力車労働組合(以下「動労」という。)、昭和四三年一〇月に結成された鉄道労働組合(以下「鉄労」という。)、昭和四六年四月に結成された全国鉄施設労働組合(以下「全施労」という。)、昭和四九年三月に結成された全国鉄動力車労働組合(以下「全動労」という。)、昭和六一年四月に結成された真国鉄労働組合(以下「真国労」という。)、同年一二月に全施労、真国労等を統合して結成された日本鉄道労働組合(以下「日鉄労」という。)等があったが、このうち動労、鉄労、日鉄労等は、昭和六二年二月に全日本鉄道労働組合総連合会(以下「鉄道労連」という。)を結成した。また、昭和六二年二月、国労を脱退した者らにより日本鉄道産業労働組合総連合が結成された。

(争いのない事実、甲事件の乙第六四号証、第二七七号証、乙事件の乙第三六号証、第八五号証)

4 国鉄改革の経緯

(一) 国鉄は、昭和三九年度に欠損を生じて以来、経営悪化の一途をたどり、昭和五五年度までの間に数次にわたって経営再建計画を実施したが、事態は好転せず、昭和五七年度末には約一八兆円の累積債務を抱えるに至った。

昭和五六年三月に発足した第二次臨時行政調査会(以下「臨調」という。)は、昭和五七年七月三〇日、「行政改革に関する第三次答申-基本答申-」(以下「臨調第三次答申」という。)を政府に提出した。この答申では、(1)  国鉄の分割・民営化、(2)  再建に取り組むための推進機関(国鉄再建監理委員会)の設置、(3)  新経営形態移行までの間緊急に講ずべき措置(職場規律の確立、新規採用の停止等一一項目の実施等)が提言された。

その後、政府は、同年九月二四日、五年以内に国鉄改革の実現を図ること等を内容とする「今後における行政改革の具体化方策について」を、また、職場規律の確立等を内容とする「日本国有鉄道の事業の再建を図るために当面緊急に講ずべき対策について」を、それぞれ閣議決定した。さらに、政府は、同日、「国鉄の経営は、未曾有の危機的状況にあり、一刻の猶予も許されない非常の事態に立ち至っている。今やその事業の再建は国家的課題であり、政府は、総力を結集してこれに取り組む所存である。」との声明を発表した。

これに伴って、運輸省に国鉄再建緊急対策推進本部が、国鉄本社内に緊急対策実施推進本部がそれぞれ設置された。

(争いのない事実、甲事件の乙第五〇八号証、第五一一号証、乙事件の乙第三八二号証)

(二) 昭和五八年五月一三日、日本国有鉄道の経営する事業の再建の推進に関する臨時措置法(昭和五十八年五月二十日法律第五十号)が成立し、これに基づいて設置された日本国有鉄道再建監理委員会(以下「監理委員会」という。)が設置されたが、同委員会は、同年八月二日、政府に対し、「日本国有鉄道の経営する事業の運営の改善のために緊急に講ずべき措置の基本的実施方針について」と題する第一次緊急提言を提出した。同提言は、国鉄における職場規律の確立、私鉄並みの生産性の達成、効率的な要員配置とするための国鉄職員の多能的運用の必要性、赤字ローカル線の廃止等をその内容とした。

また、同委員会は、昭和五九年八月一〇日、政府に対し、右と同表題の第二次緊急提言を提出した。同提言は、国鉄について分割・民営化の方向で再建の具体策を検討する必要があるとし、生産性及び要員配置を私鉄並みとすること、これを実現するためには国鉄職員の多能的運用が必要であること、地方交通線廃止等をその内容とした。

(争いのない事実、甲事件の乙第五〇四号証、第五〇八号証、乙事件の乙第三八二号証)

(三) 昭和六〇年六月二五日、国鉄総裁の交代があり、杉浦喬也総裁(以下「杉浦総裁」という。)が就任した。前総裁の辞任と同時に副総裁、技師長、常務理事三名等も退任した。

(争いのない事実)

(四) 監理委員会は、昭和六〇年七月二六日、国鉄経営が破綻した原因は、公社制度及び全国一元的組織運営という経営形態そのものに内在する構造的な点にあるとする「国鉄改革に関する意見-鉄道の未来を拓くために-」と題する最終答申(以下「監理委員会答申」という。)を政府に提出した。同答申は、国鉄改革の具体的方法について、(1)  国鉄の旅客鉄道部門を北海道、東日本、東海、西日本、四国、九州の六旅客鉄道会社に分割するとともに、新幹線は別主体が一括保有してこれを旅客鉄道会社に貸し付け、研究所等を独立させる、(2)  昭和六二年度における旅客鉄道事業を遂行するための適正要員規模を一五万八〇〇〇人とみて、これにバス事業、貨物部門、研究所等で必要な二万五〇〇〇人(うち貨物部門は一万五〇〇〇人弱)を加えて、全体の適正要員規模を一八万三〇〇〇人と推計し、さらに、六旅客鉄道会社の適正要員に二割程度の約三万二〇〇〇人を上乗せして、新事業体発足時の要員規模を二一万五〇〇〇人とする、(3)  同年四月時点で見込まれる約九万三〇〇〇人の余剰人員のうち、右適正要員に上乗せした約三万二〇〇〇人を除く約六万一〇〇〇人については、新事業体移行前に約二万人の希望退職を募集し、残りの約四万一〇〇〇人を再就職のための対策を必要とする職員として国鉄の清算法人的組織の「旧国鉄」に所属させ、三年間で転職させる、(4)  貨物部門については、全国一元的な経営体制が適切であると考えられるが、昭和六〇年一一月までに実行可能な具体案を作成する、(5)  国鉄事業の分割・民営化は昭和六二年四月一日に実施する、などというものであった。

(争いのない事実、甲事件の乙第五一一号証、乙事件の乙第三八五号証)

(五) 国鉄は、監理委員会答申を踏まえ、昭和六〇年一〇月九日、右答申に沿う分割・民営化を前提として職員八万六〇〇〇人の削減方針を発表し、国鉄の各労働組合に提案した。

政府は、同月一一日、右答申に沿った「国鉄改革のための基本的方針」を閣議決定した。また、政府は、同年一二月一三日には、各省庁が昭和六一年度に職員採用数の一〇パーセント以上を、昭和六二年度から昭和六三年度当初までは職員採用数の一定割合を下回らない数以上を、それぞれ国鉄から採用すること、特殊法人、地方公共団体、一般産業界に国鉄職員の採用を要請することなどを内容とする「国鉄余剰人員雇用対策の基本方針について」を、それぞれ閣議決定し、内閣官房長官は、同日、政府として公的部門に三万人の雇用の場を確保すると発表した。

(争いのない事実、甲事件の乙第七八号証、第七九号証、第五〇八号証、第五七三号証、第五七五号証、第五七六号証、乙事件の乙第三八二号証、第四四五号証、第四四七号証)

(六) 政府は、昭和六一年二月一二日に、(1) 日本国有鉄道の経営する事業の運営の改善のために昭和六一年度において緊急に講ずべき特別措置に関する法律(以下「六一年緊急措置法」という。)の法案を、同年三月三日に(2)改革法、(3)鉄道会社法、(4) 新幹線鉄道保有機構法、(5) 清算事業団法、(6) 日本国有鉄道退職希望職員及び日本国有鉄道清算事業団職員の再就職の促進に関する特別措置法(以下「再就職促進法」という。)の各法案を、同月一八日に(7)鉄道事業法、(8)日本国有鉄道改革法等施行法、(9) 地方税法及び国有資産等所在市町村交付金及び納付金に関する法律の一部を改正する法律(以下、(2) ないし(9) を併せて「国鉄改革関連八法」という。)の各法案を、それぞれ第一〇四回国会に提出した。

このうち、六一年緊急措置法は昭和六一年五月二一日に成立し、同月三〇日に公布(昭和六十一年五月三十日法律第七十六号)、施行された。一方、国鉄改革関連八法は、衆議院の解散によって廃案となったが、同年九月一一日に第一〇七回国会に再提出され、同年一一月二八日に成立し、同年一二月四日(地方税法及び国有資産等所在市町村交付金及び納付金に関する法律の一部を改正する法律については同月五日)に公布された(新幹線鉄道保有機構法は昭和六十一年十二月四日法律第八十九号、再就職促進法は同日法律第九十一号、鉄道事業法は同日法律第九十二号、日本国有鉄道改革法等施行法は同日法律第九十三号、地方税法及び国有資産等所在市町村交付金及び納付金に関する法律の一部を改正する法律は昭和六十一年十二月五日法律第九十四号)。

(争いのない事実、甲事件の乙第五〇八号証、第五一〇号証、乙事件の乙第三八二号証)

5 改革法等の成立後採用通知の交付に至るまでの経緯

(一) 国鉄改革関連八法は、右のとおり成立、公布されたが、このうち改革法、鉄道会社法、清算事業団法の関係する規定の内容は前記のとおりである。

また、再就職促進法は、国の任命権者は、清算事業団職員をその職員として採用するよう努めること(一六条)、国は、特殊法人、地方公共団体、主要な事業主団体に対し、清算事業団職員を採用するよう要請すること(一七条ないし一九条)、承継法人は、労働者を雇い入れる場合には清算事業団職員を優先的に雇い入れるようにすべきこと(二〇条)等を定めている。

(二)(1)  昭和六一年一一月二五日、参議院日本国有鉄道改革に関する特別委員会(以下「参議院特別委員会」という。)において、橋本運輸大臣は、次のように述べた。

ア 「採用基準の中に労働組合に加入をしているとかしていないとか、どの労働組合に所属しているか、こういうことを私は取り上げてはならないと思います。これは労働組合法七条の規定からも明らかだと思いますが、どうでしょうか。また新規事業体は、これは民間企業ですから、このことを考慮いたしますと、国有鉄道法に基づく過去の労働処分の有無を基準とすること、こういうことは事実上所属労働組合との関係も明らかになってくるんですが、こういうものを私は基準としてはいけないというふうに考えますが、この点運輸大臣はいかがでしょうか。」との質問に対し、「あくまでもこの基準というものは設立委員などがお決めになるものでありますけれども、私はその内容について、所属する労働組合によって差別が行われるようなものであってはならないと思います。ただ、今委員がもう一歩深めて御質問をいただきましたので申し上げるとすれば、その採用基準の中に例えば勤務成績というものを取り上げられることも、それはあり得ると思います。そして、その中における処分歴等も判断要素の一つになることも、それはあり得るかもしれません。しかし、仮にそうした場合でありましても、その職員の採用手続の過程におきまして、いわゆる労働処分というものを具体的に明示するような形で勤務成績をお示しをするようなことはあり得ないと思いますし、あってはならないと思います。」と答弁した。

イ 「改革法二三条の二項によると、設立委員から採用の基準及び労働条件の提示を受けて国鉄は承継法人の職員となるべき者を選定することになっています。そこでお尋ねするんですが、設立委員が国鉄に選定を依頼する形になりますが、その理由は何でしょうか。また、この場合に国鉄の法律上の立場、資格はどのようなものですか。」との質問に対し、「承継法人の職員の具体的な選定作業は設立委員などの示す採用の基準に従って国鉄当局が行うわけでありますが、この国鉄当局の立場と申しますものは、設立委員などの採用事務を補助するものとしての立場でございます。法律上の考え方で申しますならば、民法に照らして言えば準委任に近いものでありますから、どちらかといえば代行と考えるべきではなかろうかと考えております。」と答弁した。(争いのない事実、甲事件の乙第一五三号証)

(2)  昭和六一年一一月二八日、参議院特別委員会は、国鉄改革関連八法の法案採決に際し、附帯決議を行った(以下「参議院附帯決議」という。)。同決議の本件に関連する事項は次のとおりである。

「政府は、本国鉄改革関連八法案の施行に当たり、次の事項について配慮すべきである。

九  国鉄改革の実施に当たっては、国鉄職員の雇用と生活の安定のため、次の諸点について十分配慮すること。

(一)  各旅客鉄道株式会社等における職員の採用基準及び選定方法については、客観的かつ公正なものとするよう配慮するとともに、本人の希望を尊重し、所属労働組合等による差別等が行われることのないよう特段の留意をすること。」

(争いのない事実、甲事件の乙第一一七号証、乙事件の乙第三七号証)

(三)  国鉄は、国鉄改革関連八法の成立を受けて、各承継法人の発足に向けて、その移行のための準備を円滑かつ確実に推進するために、本社に副総裁を長とする移行推進委員会を設け、また、同委員会の指揮の下、各承継法人ごとに設立準備室を設置した。

なお、国鉄において採用の基準に基づいて採用候補者名簿を作成するなどの業務は、本社職員局が行った。

(争いのない事実)

(四)  昭和六一年一二月四日、橋本運輸大臣は、鉄道会社法附則二条一項に規定する設立委員として、改革法六条二項に規定する六の旅客鉄道会社及び日本貨物鉄道株式会社(これら七法人を併せて、以下「鉄道会社」という。また、日本貨物鉄道株式会社を、以下「貨物会社」という。)に共通する者(以下「共通設立委員」という。)として一六人を、各会社に独自の者(以下「会社設立委員」という。)として二人ないし五人をそれぞれ任命した。関連する設立委員の構成は次のとおりである。

(1)  共通設立委員

斉藤英四郎(経済団体連合会会長)

五島 昇(日本商工会議所会頭)

日向方斉(関西経済連合会会長)

片桐典徳(日本民営鉄道協会会長)

松澤卓二(国鉄監査委員会委員長)

亀井正夫(国鉄再建監理委員会委員長)

住田正二(国鉄再建監理委員会委員)

関 英夫(雇用促進事業団理事長)

瀬島龍三(元臨時行政改革推進審議会委員)

工藤敦夫(内閣法制次長)

吉野良彦(大蔵事務次官)

永光洋一(運輸事務次官)

加藤 孝(労働事務次官)

花岡圭三(自治事務次官)

鈴木俊一(東京都知事)

杉浦喬也(国鉄総裁)

(2)  参加人西日本会社設立委員

中西陽一(石川県知事)

岸 昌(大阪府知事)

(争いのない事実、甲事件の乙第五〇八号証、第五九八号証、乙事件の乙第三八二号証、第四七二号証)

(五)  改革法の定めるところに沿って、昭和六一年一二月一一日、鉄道会社の第一回設立委員会が開催され、新たに新会社に採用される職員の労働条件及び採用の基準が検討され、採用の基準については原案どおり決定されたが、労働条件については基本的な考え方のみを決定し、同年一二月一九日に決定されることとなった。

参加人西日本会社に関して決定された採用の基準は、次のとおりである。「1 昭和六一年度末において年齢満五五歳未満であること。(医師を除く。)

2 職務遂行に支障のない健康状態であること。

なお、心身の故障により長期にわたって休養中の職員については、回復の見込みがあり、長期的にみて職務遂行に支障がないと判断される健康状態であること。

3 日本国有鉄道在職中の勤務の状況からみて、当社の業務にふさわしい者であること。

なお、勤務の状況については、職務に対する知識技能及び適性、日常の勤務に関する実績等を、日本国有鉄道における既存の資料に基づき、総合的かつ公正に判断すること。

4 「退職前提の休職」(日本国有鉄道就業規則(昭和六〇年六月総裁達第一二号)第六二条(3) ア)を発令されていないこと。

5 「退職を希望する職員である旨の認定」(日本国有鉄道の経営する事業の運営の改善のために昭和六一年度において緊急に講ずべき特別措置に関する法律(昭和六一年法律第七六号)第四条第一項)を受けていないこと。

6 日本国有鉄道において再就職の斡旋を受け、再就職先から昭和六五年度当初までの間に採用を予定する旨の通知を受けていないこと。

* なお、日本国有鉄道本社及び本社附属機関に所属する職員並びに全国的な運用を行っている職員からの採用のほか、当社が事業を運営する地域内の業務を担当する地方機関に所属する職員からの採用を優先的に考慮するものとする。

また、広域異動の募集に応じて既に転勤した職員及び北海道又は九州内の地方機関に所属する職員からの採用については、特段の配慮をするものとする。」

(争いのない事実、甲事件の乙第二七六号証、第六〇〇号証、乙事件の乙第三〇号証、第五八号証、第二二七号証、第三三一号証)

(六)  昭和六一年一二月一六日、政府は改革法一九条一項に基づき、「日本国有鉄道の事業等の引継ぎ並びに権利及び義務の承継等に関する基本計画」(以下「基本計画」という。)を閣議決定し、この中で国鉄職員のうち承継法人の職員となる者の総数及び承継法人ごとの数を定めた。それによると、承継法人全体の職員数は、監理委員会答申と同じ二一万五〇〇〇人であったが、参加人西日本会社の場合、同答申では五万三〇〇〇人とされていたのに対し、基本計画では五万三四〇〇人とされた。

(争いのない事実、甲事件の乙第五一一号証、第六〇五号証、乙事件の乙第四七七号証)

(七)  昭和六一年一二月一九日、鉄道会社合同の第二回設立委員会が開催され、鉄道会社における職員の就業の場所、従事すべき業務など労働条件の細部が決定され、前記採用の基準とともに国鉄に提示された。この労働条件において、有給休暇については、付与日数の算定基礎となる在職期間に国鉄での在職期間を含めること、付与の条件を過去一年間の出勤率八割以上とすることとされ、退職手当については、改革法二三条七項に基づき、退職手当の算定基礎となる在職期間に国鉄での在職期間を含めることとされた。

なお、改革法等施行法二九条一項は、国鉄職員であった者の懲戒処分の取扱いについて、「旧国鉄法第三十一条の規定により受けた懲戒処分及び改革法附則第二項の規定の施行前の事案に係る懲戒処分については、なお従前の例による。この場合において、同項の規定の施行後に懲戒処分を行うこととなるときは、清算事業団の代表者又はその委任を受けた者が懲戒処分を行うものとする。」と定めている。

(争いのない事実、甲事件の乙第二七七号証、第五九九号証、乙事件の乙第三三二号証)

(八)  昭和六一年一二月二四日、国鉄は、右採用の基準に該当しないことが明白な者を除く職員約二三万〇四〇〇人に対し、承継法人の労働条件と採用の基準を記載した書面及び承継法人の職員となる意思を表明する意思確認書の用紙を配付し、昭和六二年一月七日正午までに提出するよう示達した。

意思確認書の用紙は、国鉄総裁あてになっており、「私は、次の承継法人の職員となる意思を表明します。」との記載及び「この意思確認書は、希望順位欄に記入した承継法人に対する就職申込書を兼ねます。」との注記があり、第五希望までの承継法人名を記入する欄が設けられており、「記入要領」と題する書面には、「第六希望以下もある場合には、第五希望の下の欄に(中略)記入して下さい。」と記載されていた。

昭和六二年一月七日までに意思確認書を提出した国鉄職員は二二万七六〇〇人で、そのうち承継法人希望者数は二一万九三四〇人であり、就職申込数(第二希望以下の複数の承継法人名を記載している者を含めた総数)は、延べ五二万五七二〇人であった。このうち、参加人西日本会社への就職申込数は八万〇一五〇人であった。

基本計画上の要員数及び就職申込数の承継法人別内訳は、次のとおりである。

承継法人 基本計画 就職申込総数

北海道旅客鉄道株式会社 一万三〇〇〇人 二万三七一〇人

東日本旅客鉄道株式会社 八万九五四〇人 一一万三三五〇人

東海旅客鉄道株式会杜 二万五二〇〇人 七万一六三〇人

西日本旅客鉄道株式会社 五万三四〇〇人 八万〇一五〇人

四国旅客鉄道株式会社 四九〇〇人 一万〇八三〇人

九州旅客鉄道株式会社 一万五〇〇〇人 二万九二七〇人

日本貨物鉄道株式会社 一万二五〇〇人 九万四四〇〇人

新幹線鉄道保有機構 六〇人 三万七七九〇人

鉄道通信株式会社 五七〇人 三万一六二〇人

鉄道情報システム株式会社 二八〇人 二万三三三〇人

財団法人鉄道総合技術研究所 五五〇人 九六四〇人

総計 二一万五〇〇〇人 五二万五七二〇人

(争いのない事実、甲事件の乙第二五七号証、第五〇八号証、第六〇一号証、第六〇二号証、乙事件の乙第三一号証、第三八二号証、第四七三号証、第四七四号証)

(九)  国鉄は、主として職員管理調書により職員の勤務状況を把握し、承継法人の職員となるべき者(以下「採用候補者」という。)の具体的な選定作業については、各鉄道管理局の人事課長等が同調書を主たる資料として行った。特に、前記採用の基準三項の「日本国有鉄道在職中の勤務の状況からみて、当社の業務にふさわしい者であること」の運用として、一定の重い処分、すなわち、昭和五八年四月一日以降に停職六か月以上の処分又は二回以上の停職処分を受けた者は、明らかに承継法人の業務にふさわしくない者として、採用候補者名簿の登載者数が基本計画に示された人数を下回る場合であっても、同名簿に登載しないという方針の下に、承継法人別に採用候補者名簿を作成した。国鉄は、昭和六二年二月七日、これを各設立委員に提出した。

基本計画の要員数、採用候補者名簿に記載された者の数及びその差の承継法人別内訳は次のとおりである。

承継法人 基本計画 名簿記載者数 差

北海道旅客鉄道株式会社 一万三〇〇〇人 一万三〇〇〇人 〇

東日本旅客鉄道株式会社 八万九五四〇人 八万四三四三人 五一九七

東海旅客鉄道株式会社 二万五二〇〇人 二万一九四一人 三二五九

西日本旅客鉄道株式会社 五万三四〇〇人 五万二九四三人 四五七

四国旅客鉄道株式会社 四九〇〇人 四六一〇人 二九〇

九州旅客鉄道株式会社 一万五〇〇〇人 一万五〇〇〇人 〇

日本貨物鉄道株式会社 一万二五〇〇人 一万二二八九人 二一一

新幹線鉄道保有機構 六〇人 六〇人 〇

鉄道通信株式会社 五七〇人 五七〇人 〇

鉄道情報システム株式会社 二八〇人 二八〇人 〇

財団法人鉄道総合技術研究所 五五〇人 五五〇人 〇

総計 二一万五〇〇〇人 二〇万五五八六人 九四一四

なお、国鉄は、採用候補者名簿を提出するに当たり、改革法施行規則一二条二項の「名簿に記載した職員の選定に関し判断の基礎とした資料」として、各人ごとの職員管理調書の内容を要約した資料を添付した。

(争いのない事実、甲事件の乙第二五七号証、第二七八号証、第五〇八号証、第六二六号証・一〇八頁から一一〇頁まで、乙事件の乙第一〇八号証、第三三三号証、第三五九号証・一二頁・一三頁、第三六一号証・三三頁、第三七五号証・六一頁・一八七頁・二四三頁、第三七六号証・二四頁、第三八二号証)

(一〇)  昭和六二年二月一二日、鉄道会社合同の第三回設立委員会が開催され、国鉄から、「新会社の職員となるべき者の選定にあたっての考え方」として、「在職中の勤務の状況からみて、明らかに新会社の業務にふさわしくないと判断される者については、名簿記載数が基本計画に示された数を下回る場合においても名簿に記載しなかった。派遣経験者、直営売店経験者、復帰前提休職者など多方面の分野を経験した者については、最大限名簿に記載した。」と、また、「選定作業結果」として、「北海道、九州にあっては、希望者数が採用予定数を大きく上回る状況の中での選定となったが、一方、東日本旅客鉄道株式会社、東海旅客鉄道株式会社、西日本旅客鉄道株式会社、四国旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社においては、希望退職及び公的部門の一括選択の進展もあり、同名簿記載数が基本計画で示された数を下回る結果となった。なお、いずれの会社においても、会社の業務の円滑な運営を行っていくために必要な要員は確保されている。」と報告した。

同委員会において、各鉄道会社の採用候補者名簿登載者全員を当該鉄道会社に採用することが決定された。

(争いのない事実、甲事件の乙第二五七号証、第二七八号証、乙事件の乙第三三三号証)

(一一)  昭和六二年二月一六日以降、各鉄道会社の設立委員会は、採用を決定した者(以下「採用予定者」という。)に対し、国鉄を通じて、各設立委員会委員長斎藤英四郎名で、同月一二日付けの採用通知を交付した。これには、「あなたを昭和六二年四月一日付けで採用することに決定いたしましたので通知します。なお、辞退の申し出がない限り、採用されることについて承諾があったものとみなします。」と記載されていた。

採用通知を受けた職員のうち同年三月二八日までに採用を辞退した職員は、承継法人全体で四九三八人、参加人西日本会社において一四〇〇人であった。

(争いのない事実、甲事件の乙第一二二号証、第二一四号証、第二三二号証、第二七九号証、乙事件の乙第四七五号証)

(一二)  昭和六二年三月四日、国鉄は、改革法一九条五項に基づき、「国鉄の事業等の引継ぎ並びに権利及び義務の承継に関する実施計画」(以下「実施計画」という。)を運輸大臣に提出した。同月二〇日、運輸大臣はこの実施計画を認可した。

それによると、国鉄の事業及び業務の大部分は承継法人が引き継ぎ、国鉄資産の大半、長期債務の相当部分を帳簿価により承継し、残りの資産及び債務は清算事業団が引き継ぎ、鉄道会社の設立時に発行する株式は、すべて国鉄が引き受け、これは同年四月一日以降清算事業団に帰属することとされた。

(争いのない事実、甲事件の乙第一九七号証、第二五三号証、乙事件の乙第一〇一号証、第一〇四号証、第四七八号証)

(一三)  昭和六二年三月上旬、国鉄は、退職者の補充等とともに、新事業体移行に向けて昭和六一年一一月のダイヤ改正で定められた要員体制を前提に、承継法人への職員の採用者決定を踏まえた人事異動を行った。この異動においては、各旅客会社に上乗せして採用された余剰人員を有効活用するために、本務である運転系統から事業部等他業務への配属発令が同時に行われた。

(争いのない事実)

(一四)  昭和六二年三月一六日以降、前記の採用予定者は、各設立委員会委員長名の通知書を国鉄を通じて交付された。そこには、「昭和六二年四月一日付で、あなたの所属、勤務箇所、職名等については、下記のとおりとなります。」として、所属、勤務箇所、職名、等級、賃金が記載されていたが、その内容は、(一三)の異動後の勤務箇所、職名等を承継法人の組織機構の名称に読み替えたものであった。

(争いのない事実、甲事件の乙第一二三号証、第一二四号証)

(一五)  昭和六二年三月一七日、鉄道会社合同の第四回設立委員会が開催され、各鉄道会社の定款の案、取締役及び監査役の候補者並びに創立総会の日程等が決定された。

同月二三日から二五日にかけて、各鉄道会社の創立総会が開催され(参加人西日本会社にあっては同月二四日)、設立委員会の右決定のとおり、役員の選任等が行われた。それによると、各鉄道会杜の代表取締役及び非常勤役員には国鉄出身者以外の者が多く選任されたが、常勤役員の大半には国鉄の役員又は管理職であった者が選任された。このうち、参加人西日本会社の役員名等は次のとおりであり、常勤役員一五人のうち一一人が国鉄の役員又は管理職であった者である。

参加人西日本会社における役職 氏名 国鉄当時の役職名(国鉄出身者以外の場合にはその当時の所属等)

代表取締役会長 村井 勉 アサヒビール会長

代表取締役社長 角田達郎 元海上保安庁長官

副社長総合企画本部長 井手 正敬 国鉄総裁室長、広報部長

常務取締役鉄道事業本部長 草木陽一 国鉄大阪鉄道局長

常務取締役近畿圏運行本部長 白川俊一 国鉄大阪鉄道局次長

常務取締役建設工事部長 伊藤 博 国鉄下関工事事務所長

常務取締役 佐藤龍太郎 帝国石油顧問

取締役金沢支社長 梅原利之 国鉄金沢鉄道管理局長

取締役鉄道事業本部営業本部長 本田勇一郎 国鉄総裁室文書課長

取締役人事部長 南谷昌二郎 国鉄職員局労働課長

取締役関連事業本部長 岡田 圭司 国鉄車両局機械課長

取締役鉄道事業本部車両部長 井澤 勝 国鉄車両局管理課長

取締役 小金澤章吾 住友銀行赤坂支店長

取締役鉄道事業本部営業本部大阪中央営業支店長 石原甲子夫 国鉄大阪ターミナルホテル常務取締役(元京都駅長)

取締役(非常勤) 秋田博正 正興産業取締役社長

取締役(非常勤) 池田一郎 大和銀行相談役

取締役(非常勤) 原谷敬吾 北陸電力代表取締役会長

取締役(非常勤) 深野和夫 山陰合同銀行取締役頭取

取締役(非常勤) 宮道大五 三和銀行相談役

取締役(非常勤) 山根寛作 中国電力取締役常任相談役

監査役 猪俣為久 国鉄米子鉄道管理局長

監査役(非常勤) 古田敬三 ロイヤルホテル取締役相談役

(争いのない事実、甲事件の乙第一三〇号証、第二一一号証、第二一二号証、第二二八号証、第二八〇号証から第二八二号証まで、第五〇八号証、乙事件の乙第一〇二号証、第二三二号証、第二三三号証、第三三四号証、第三八二号証)

(一六)  昭和六二年四月一日、承継法人及び清算事業団が発足し、実施計画に基づき、国鉄の行っていた事業の大部分は六旅客鉄道会社等の承継法人に引き継がれ、残余の資産、債務の処理業務及び承継法人に採用されなかった職員の再就職の促進を図るための業務が清算事業団に移行した。

なお、承継法人に採用された者は、退職届を提出して、同年三月三一日に国鉄を退職している。

(争いのない事実、弁論の全趣旨)

6 国鉄における労使関係等

(一)  ここで前記のとおり臨調の審議の過程で国鉄の分割民営化の考え方が高まってきたころにさかのぼって国鉄の各労働組合の対応、動きを見てみると、昭和五七年初めころ、国鉄が、ブルートレインの検査係に対して乗務手当を支給していた問題(いわゆる「ヤミ手当」支給問題)等、国鉄の職場規律に乱れがあることがマスコミによって報道され、あるいは臨調、監理委員会等から同様の指摘がされたことから、このような国鉄の職場規律が問題とされた。

昭和五七年三月四日、運輸大臣は、国鉄に対し、「国鉄の再建のためには、国鉄の労使関係を健全化し、職場規律の確立を図ることが必須の条件である」として、「ヤミ手当、悪慣行全般について実態調査を行う等総点検を実施し、調査結果に基づき厳正な措置を講ずること」を指示した。これを受けて、国鉄は同月五日、全国の各機関の長に対し、職場規律の総点検及び是正を指示し、さらに、同月一〇日、いわゆるヤミ協定、勤務時間中の組合活動、リボン・ワッペンの着用、呼名点呼、安全帽の着用、突発休等の三一項目、現場協議制度の運用実態等一四項目等、約六〇項目にわたる職場規律の総点検(以下「総点検」という。)を同月末日までに実施するよう指示した。

これに対し、国労、動労、全施労及び全動労は、同月九日、国鉄再建問題四組合共闘会議を結成し、総点検に抗議した。

(争いのない事実、甲事件の乙第七八号証、第二八三号証・一〇頁、第五一四号証から第五一九号証まで、第五三五号証、乙事件の甲第六号証、乙第三八八号証から第四〇八号証まで)

(二)  国鉄と各組合との間には、昭和四三年に締結した「現場協議に関する協約」があり、国労は、同協約に基づき、職場における諸問題を、国労の分会と現場の責任者との間で協議していた。しかし、昭和五七年七月一九日、国鉄は前記職場規律の総点検の結果現場協議制には開催時間が長時間にわたるなど多くの問題があるとして、国労、全動労、動労、鉄労及び全施労(動労、鉄労及び全施労の三労組を、以下「動労ら」という。)に対して、協議対象の明確化や開催回数、時間等の制限を内容とする同協約の改定案を提示し、同年一一月三〇日までに交渉がまとまらなければ同協約を破棄すると通告した。

右改定案を受け入れた動労らについては、同日同協約が改定された。一方、国労は、同改定案は現場協議を制限するものであるとして反対したため、同協約は結局妥結に至らず、同年一二月一日失効した。また、全動労についても同協約は妥結に至らず、失効した。

(争いのない事実、甲事件の乙第七八号証、第二八三号証・一〇頁・一一頁、第五五七号証、乙事件の乙第一二二号証)

(三)  国鉄は、昭和五七年以降昭和六〇年九月までの間、毎年二回八次にわたって職場規律の総点検を実施し、その結果、ヤミ手当等の慣行は徐々に解消されたが、是正されない項目も見られ、特にワッペンの着用の禁止については、昭和六〇年四月から八月まで及び昭和六一年四月ころ、国労が分割民営化に反対する運動の中で着用闘争を行ったこともあって、所期の目的を達成することができなかった。

また、国鉄は、臨調答申等に対応して、各組合に対し、議員兼職制度の廃止、無料乗車証制度の変更等を提示して実施したほか、それまでの労使間の慣行及び協定が大幅に変更された。

(争いのない事実、甲事件の乙第五三五号証から第五四二号証まで、乙事件の乙第四〇九号証から第四一六号証まで)

(四)  国鉄においては、昭和五九年二月のダイヤ改正等に伴う合理化により、同年四月一日現在で約二万四五〇〇人の余剰人員が生じた。

国鉄は、昭和五九年六月五日、退職制度の見直し、休職制度の改定・拡充、派遣制度の拡充という三項目を含む余剰人員調整策を発表し、同年七月一〇日、その細目を各組合に提示した。これに対し、動労らは、当初国鉄の提案内容に批判的であったものの、昭和五九年一〇月九日に休職制度及び派遣制度に関する協定を、また、昭和六〇年四月に退職制度に関する協定を締結した。

しかし、国労は、国鉄の提案が事実上の首切りにつながるとして反対した。

これに対し国鉄は、昭和五九年一〇月一一日、国労に対し、昭和四六年三月二日に国労との間で締結された「雇用の安定等に関する協約」(以下「雇用安定協約」という。)を、昭和六〇年一月一一日をもって破棄する旨通知した。雇用安定協約とは、昭和五〇年七月一日に締結された協約であり、「機械化、近代化及び合理化等の実施に当たっては、<1> 雇用の安定を確保するとともに、労働条件の維持改善を図る。<2> 本人の意に反する免職及び降職は行わない。<3> 必要な転換教育等を行う。」という内容であった。しかし、国労と国鉄は、公共企業体等労働委員会(以下「公労委」という。)の仲裁裁定に基づき、昭和六〇年四月九日、「職員の派遣の取扱いに関する協定」、「職員の申出による休職の取扱いに関する協定」及び「特別退職に関する協定」を締結し、雇用安定協約についても、有効期間を同年一一月三〇日までとする「覚書」を締結して、余剰人員対策をめぐる問題の一応の決着を見た。

(争いのない事実、甲事件の乙第七八号証、第八〇号証、第二八三号証・一一頁以下、第五〇八号証、第五五七号証、第五六〇号証、第五六二号証から第五六四号証まで、第五六七号証、第五六八号証、第六一二号証から第六一四号証まで、乙事件の乙第一二二号証、第一二五号証、第三八二号証、第四三〇号証から第四三三号証まで、第四四二号証、第四八四号証から第四八六号証まで)

(五)  ところが、国労組合員は、国鉄が派遣、休職などを事実上強要しているとして、全国各地で「やめない、休まない、出向かない」と書いた壁新聞を掲示したりして、いわゆる「三ない運動」を展開した。そこで、国鉄は、昭和六〇年五月二五日、国労に対し、このような指導を中止するよう申し入れたが、国労は、「三ない運動」を指示していないとの態度を取った。しかし、国鉄は、国労に対し、同年一〇月二四日付けの文書で、その後も国労の地方本部大会などにおいて「三ない運動」を進める方針が採られているとして、協定締結当事者として「三ない運動」の中止を指導せず、余剰人員調整策に非協力な態度が続くなら雇用安定協約を再締結するということにはならないと述べた。国労は、同年一一月一九日から開催された拡大中央委員会において、前記(四)の三つの協定による派遣等のための募集行為を妨げないこと及び本人の自由な意思表示を妨げない旨を決定した。

同年一一月三〇日、国鉄は、国労組合員が職場で右三つの協定に定めているように対応していないとして、国労に対し、「雇用安定協約の継続締結はできない。」旨を通告し、これにより、同年一二月一日以降同協約は国労との間では失効した。

なお、国鉄は、動労らとの間で同年一二月一日以降も雇用安定に関する協約を継続した。

(争いのない事実、甲事件の乙第七八号証、第五四二号証、第五六二号証から第五六五号証まで、第五六九号証、第五七〇号証、第六二六号証・五七頁以下、乙事件の乙第一二二号証、第一二五号証、第四一六号証、第四四三号証、第四四四号証)

(六)  昭和六〇年一二月一一日、国鉄は、昭和六一年度の転職希望者を把握するため、全職員を対象に国の機関及び地方自治体等への転職希望に関する進路希望アンケート調査を実施すると発表した。国労は、同月一三日、「調査には組織的に対処し、一二月一七日までアンケート用紙の提出はしないこと。」との闘争指令を発出し、また、同月二五日、「組合員は、アンケート用紙に、「私は分割・民営化に反対です。引き続き国鉄で働くことを希望します。」と必ず記載する。」旨の闘争指令を発出した。この結果、多くの国労組合員は、希望順位欄を空白にしたまま、右のような文言を記載して、これを提出した。

(争いのない事実、甲事件の乙第七八号証、第五七七号証、第五七八号証、乙事件の乙第一二二号証、第一二五号証、第四五一号証、第四五二号証)

(七)  昭和六一年一月一三日、国鉄は、各組合に対し、労使共同宣言(以下「第一次労使共同宣言」という。)の案を示して、同意するよう要請した。その内容は、「国鉄改革が成し遂げられるまでの間、労使は、信頼関係を基礎として、以下の項目について一致協力して取り組むことを宣言する。」として、(1)  安全輸送の確保、安全で便利な輸送の提供が国鉄労使に対する国民の信頼の基盤であり、労使は諸法規を遵守し、全力を挙げてこれを実現する、(2)  リボン・ワッペンの不着用、氏名札の着用等定められた服装を整える、(3)  必要な合理化は、労使が一致協力して積極的に推進し、鉄道事業の再生、強化を図っていくための新しい事業運営の体制を確立することとする、(4)  余剰人員対策について、派遣制度、退職勧奨等を積極的に推進するなどの項目が挙げられていた。同日動労らは、同宣言に調印した。

これに対し、国労は、提案の仕方が唐突であるなどとしてこれを受け取らず、同月一六日、同提案が、労働運動、ストライキ権を否認し、労働組合に事実上分割民営化の容認を求めるもので拒否するほかない、との見解を発表し、締結を拒否した。

(争いのない事実、甲事件の乙第七九号証、第八一号証、第八二号証、第五〇八号証、乙事件の乙第九三号証、第九四号証、第一二二号証、第一二三号証、第三八二号証)

(八)  昭和六一年三月五日、国鉄は、前記総点検の成果を取りまとめること及び人事管理を徹底すること並びに職場における管理体制を確立することを目的に、職員の勤務状況、意識、意欲に焦点を当てた「職員管理調書」を作成するよう通達し、管理職を除き同年四月二日現在の一般職員約二五万人を対象にこれを実施した。

職員管理調書の調査対象期間は昭和五八年四月一日から昭和六一年三月三一日までの三年間とし、調査項目は、「基本事項」、「特記事項」、「評定事項」の三つに区分された。「特記事項」には、一般処分及び労働処分の内容・回数並びに表彰の種類・回数、派遣の実績等の項目がある。また、「評定事項」には、業務知識、技能等のほかに、職場の秩序を乱す行為(点呼妨害、体操不参加、管理者への暴言等を含む。)の有無、リボン、ワッペン、氏名札、安全帽、あごひも、ネクタイ等について、指導された服装をしているか、指導されたらそれに従うか否か、勤務時間中の組合活動の有無、「現状認識」の項目では、国鉄の厳しい現状を認識し、業務に取り組んでいるか否か等の項目がある。

また、国鉄は、昭和六一年一〇月一六日の全国ブロック別総務部長会議において、職員管理調書の内容を充実させて同月末までにデータを最新のもの(同月一日現在までの内容を盛り込む。)とするよう指示し、実施した。

(争いのない事実、甲事件の乙第八四号証から第八七号証まで、第二八三号証・一八頁から二一頁まで、乙事件の乙第三五号証、第三二二号証)

(九)  昭和六一年三月四日、国鉄は、各組合に対し、今後国鉄改革により生ずる余剰人員の雇用の場が地域的に偏在するため、雇用の場に見合った職員配置を行う必要があるので、第一陣として、北海道から約二五〇〇人の職員を東京、名古屋地区中心に、九州から約九〇〇人の職員を大阪地区中心に、広域異動させたいと提案した。これに対し、動労らは同年三月一四日、第一陣の広域異動について了解し、国鉄は、同年三月二〇日から広域異動の募集を開始した。さらに、国鉄は、同年八月一一日に第二陣の広域異動(目標三四〇〇人)を各組合に提案し、動労らとの了解の下に同年八月二五日から募集を開始した。

国労は、広域異動に関して団体交渉を開催するよう求め、広域異動の一方的実施に抗議して、ワッペン着用闘争を実施した。

同年五月一日、国鉄は、北海道及び九州の職員三四六人に対し、東京、大阪等への広域異動を行い、その後、同年一二月までの間に、合計三八一八人の職員の広域異動を行った。そのうち、国労組合員は五六一人であり、動労組合員は一七九一人、鉄労組合員は六五三人、全施労組合員は六九人であった。

なお、大阪地区には主として九州から一〇二七人が転入した。それらの者は、主に運転系統の現業機関に配属され、それに伴いその配属先現場の国労組合員が後記人活センターに担務指定されるなどの人事異動が行われたこともあった。

(争いのない事実、甲事件の乙第七八号証・七五一頁以下、第二八三号証・二三頁から二五頁まで、第三一五号証から第三二〇号証まで、第三三八号証から第三四二号証まで、第五八八号証から第五九四号証まで、乙事件の乙第一二二号証、第一二五号証、第四六二号証から第四六八号証まで)

(一〇)  国鉄は、前記のとおり、昭和六一年五月に六一年緊急措置法が成立したことから、同法に基づき二万人を目標に希望退職の募集を同年六月三〇日から開始した。希望退職に応募した職員は、最終的に三万九〇九二人にのぼり、昭和六二年三月末日までに全員退職した。

(争いのない事実、甲事件の乙第二三〇号証、第二三一号証、第三二九号証)

(一一)  昭和六一年六月二四日、国鉄は、現在三万八〇〇〇人が余剰人員で、そのうち約一万六五〇〇人が派遣・休職の調整策に応じており、現存する余剰人員は約二万一五〇〇人であるが、余剰人員は今後さらに増加することが予想されるので、余剰人員を集中的に配置して有効活用を図っていく、そのため、同年七月から新たに全国統一的に人材活用センターを設置する旨発表し、同月一日、国鉄は、全国一〇一〇箇所に人材活用センター(以下「人活センター」という。)を設置した。そして、人活センターにつき、「所要を上回る人数が膨大なものになると、短期間のローテーションを組んで運用を行っていくことは業務運営上煩瑣であり、効率的な運用を阻害しかねないため、有効な活用方を図る必要性から、当分の間、継続した安定的な運用に努めることとする。」として、従来採っていた余剰人員のプール方式やローテーション方式を変更した。

昭和六一年一一月一日当時の人材活用センターの設置個所は一五四七箇所、同センターに担務指定された職員は、一般職員一万八八八二人、管理職員二一八八人の合計二万一〇七〇人であり、その約八〇パーセントを国労組合員が占めていた。

岡山鉄道管理局管内においては、昭和六一年一〇月三〇日現在、人活センターは三八箇所設置され、これらの人活センターに担務指定された者の総数は三七五人で、これを組合別に見ると、国労が二八九人(七七パーセント)、動労らが八一人(二二パーセント)、その他が五人(一パーセント)であった。

国鉄は、分割民営化直前の昭和六二年三月上旬に実施した人事異動において人活センターへの担務指定を解き、同時に人活センターを廃止した。

なお、大鉄局関係の人材活用センターにおける仕事は、竹細工作り、コンコースのモップかけ、銘板磨き及び草むしりなどであり、ほとんど一日中何も仕事がなく待機伏態にあることもしばしばあった。

(争いのない事実、甲事件の乙第八九号証から第九一号証まで、第九七号証、第二二六号証、第二八三号証・二二頁以下、第三二一号証から第三二八号証まで、第五九六号証、乙事件の乙第一二二号証、第一五二号証から第一五八号証まで、第四七〇号証、弁論の全趣旨)

(一二)  国鉄においては、電車の運転や検査の業務を行うためには、それぞれ車種別の資格が必要とされていたために、別の車種の資格を取得するための転換教育が随時行われていた。昭和六一年七月一九日、国鉄は、「職員多能化教育の実施について」と題し、「職員が現在有する職務に関する知識、技能に加えて、より広く他系統の職務を遂行しうる能力を身につけること」を目的に職員に多能化教育を実施するよう各総局長及び各鉄道管理局長あてに指示した。

(争いのない事実、甲事件の乙第二八五号証・一頁から五頁まで、第五〇五号証)

(一三)  昭和六一年七月一八日、動労ら及び真国労の四組合は、国鉄改革労働組合協議会(以下「改革労協」という。)を結成し、同月三〇日には国鉄と改革労協は、国鉄改革労使協議会を設置した。同年八月二七日、国鉄と改革労協は、「今後の鉄道事業のあり方についての合意事項(第二次労使共同宣言)」に調印した。その内容は、(1)  鉄道事業のあるべき方向として、民営・分割による国鉄改革を基本とするほかはない、(2)  改革労協は、鉄道事業の健全な経営が定着するまでは争議権の行使を自粛する、(3)  今後の鉄道事業は、その健全な発展を遂げるためには、業務遂行に必要な知識と技能に優れていることはもちろん、企業人としての自覚を有し、向上心と意欲にあふれる職員により担われるべきであり、この考え方に立ち、今後労使それぞれの立場において職員の指導を徹底する、などというものであった。

同日、国労は、「国鉄改革、再建の必要性を十分認識しているが、同時にその過程で職員の雇用を完全に確保することが最大の使命であると考えている。」旨の見解を発表し、第二次労使共同宣言の締結に応じなかった。

昭和六一年七月二八日、国鉄は、昭和五〇年のいわゆるスト権ストに関し、国労及び動労を相手取って提訴していた総額約二〇二億円の損害賠償請求訴訟のうち、動労に対する訴えを取り下げる方針を明らかにした。

その際、国鉄は、「動労は、五七年一二月以来ストライキを行わず、また「労使共同宣言」において、国鉄改革が実現するまでの間ストライキ等、違法行為を行わないと宣言し、さらに「第二次労使共同宣言」において、新事業体移行後スト権が付与された場合においても、健全経営が定着するまでは、その行使を自粛することを明言しました。また、動労は、五七年以来、職場規律の是正、合理化・余剰人員対策の促進など国鉄の諸施策に積極的に協力をしてきており、さらに「第二次労使共同宣言」において、「民営・分割」による国鉄改革に賛成し、これに向かって一致協力して尽力する旨約束いたしました。(中略)したがって、これらの情勢に鑑み、動労については「二〇二億円訴訟」を取り下げ、これまで動労がとってきた労使協調路線を将来にわたって定着させる礎としたいと思います。」旨の総裁談話を発表した。

同年九月三日、国鉄は、動労に対する右訴えを取り下げた。

(争いのない事実、甲事件の乙第七九号証、第八三号証、第一七八号証、第五〇八号証、乙事件の乙第九五号証、第一一九号証、第三八二号証)

(一四)  国労は、臨調答申において国鉄の分割民営化の方針が発表された昭和五七年ころから、一貫して国鉄の分割民営化に反対したほか、余剰人員調整策、広域異動の提案に反対して、断続的にストライキ、順法闘争を行い、また、就業時間中にワッペンや国労バッジを着用することがあった。

国鉄は、国労組合員について、(1)  昭和五九年八月四日、昭和五八年五月一三日に国鉄再建監理委員会設置法の法制化に反対して行ったストライキ(二九分間)に参加したこと及び余剰人員対策問題の解決を目指して、昭和五九年七月六日、同月七日に行われた順法闘争に参加したことを理由に、停職三人を含む二六〇〇人の処分を、(2)  昭和五九年九月八日に、同じく同年七月六日、同月七日に行われた順法闘争に参加したことを理由に、解雇一人を含む一六八〇人の処分を、(3)  昭和五九年一一月二四日に、余剰人員調整策及び国鉄の分割・民営化に反対して同年八月一〇日に行ったストライキ(二時間)に参加したことを理由に、停職一六人を含む約二万三三〇〇人の処分を、(4)  昭和六〇年九月一一日に、国鉄分割・民営化に反対して行ったワッペン着用及び氏名札の未着用を理由に約五万九二〇〇人の処分を、(5)  昭和六〇年一〇月五日に、監理委員会答申に抗議し、国鉄分割・民営化阻止を掲げて同年八月五日に行ったストライキ(一時間)及び年金法改悪反対を掲げて同年三月一九日に行ったストライキ(二九分)に参加したこと等を理由に停職一四人を含む約六万四一三〇人の処分を、(6)  昭和六一年五月三〇日に、国鉄分割・民営化反対のワッペンを着用したことを理由に約二万九〇〇〇人の処分をそれぞれ行った。

なお、動労がストライキ等の闘争を実施したのは昭和五七年一二月までであり、それに関する処分が昭和五八年三月に行われて以降、動労の指令による組合活動で処分通告を受けた動労組合員はいない。

(争いのない事実、甲事件の乙第七八号証、乙事件の乙第一三〇号証、弁論の全趣旨)

(一五)  国労は、昭和六一年七月二二日から開催した定期大会(千葉大会)において、「雇用確保と組織維持のため、現実的に大胆な対応を行う。」との執行部提案に対して修正案が提出されるなど意見が対立し、同年九月二四日に予定されていた中央闘争委員会は、労使共同宣言の締結などの方針を提案しようとした執行部に反対する組合員の行動もあって、開催されなかったが、同月三〇日に開催された中央闘争委員会においては、労使共同宣言締結の意思を明らかにした「当面する情勢に対する緊急方針」が決定された。

しかし、同年一〇月九日から開催された臨時大会(修善寺大会)において、この緊急方針は否決され、「分割・民営化は九万人の首切りを意味し、労使共同宣言は、労組自身が当局とともに選別・差別・合理化を推進することだ。」として、従来どおり分割・民営化反対の立場を維持することを決定した。

(争いのない事実、甲事件の乙第五七九号証から第五八六号証まで)

7 組合別組織人員の推移

(一)  監理委員会答申を受けて、政府及び国鉄による分割民営化が推進される状況の下で、これに反対する闘争方針の変更をめぐって国労の組織内部に意見の対立が見られるようになり、また、昭和六一年四月国労からの脱退者により真国労が結成されたこともあって、国労の組合員数は、昭和六一年四月一日当時約一六万五〇〇〇人(組織率六八・六パーセント)であったところが、同年七月以降毎月一万名以上が国労から脱退し、昭和六二年二月一日当時には六万二一六五人(組織率二七・三パーセント)となった。

昭和六一年一〇月一日から昭和六二年四月一日にかけての全国における組合別組織人員の推移は、別紙「全国における組合別組織人員の推移」のとおりである。

(争いのない事実、甲事件の乙第六四号証、乙事件の乙第一四八号証から第一五〇号証まで)

(二)  昭和六一年一〇月一日から昭和六二年四月一日にかけての原告国労岡山地方本部の職場における組合別組織人員の推移は、別紙「国労岡山地方本部の職場における組合別組織人員の推移」のとおりである。

(乙事件の乙第一四八号証から第一五〇号証まで)

8 本件転換教育の実施と原告中島ら三名に対する処分及び不採用

(一)  昭和六一年六月当時、大鉄局においては、要員の合理化が進み、また、前記広域異動による転入者一三〇名余りを全員電車(以下「EC」という。)関係職場に受け入れたこともあって、運転関係職場の要員実態は、次のとおりであった。

EC関係では、電車運転士(以下「運転士」という。)の所要員九二二名に対し実在員一〇八四名と、一六二名の余剰人員があり、また、機関車(以下「EL」という。)関係では、電気機関士の所要員五三五名に対し実在員六四四名と、一〇九名の余剰人員があった。それらの余剰人員については、余剰人員のローテーション化により調整を行っていた。

大鉄局の高槻電車区、宮原電車区及び向日町運転所(以下「三電車区」という。)においては、前記広域異動により、運転士として六九名(動労組合員六六名、鉄労組合員三名)、検査係として二九名(動労組合員二六名、国労組合員二名、鉄労組合員一名)の計九八名を受け入れ、同人らにECの資格を取得させるための転換教育を順次行い、配属した。

なお、前記のとおり、国鉄が昭和六一年七月一日からの実施を提案した人活センターについて、大鉄局の運転関係職場の職員は、同センターに担務指定されることは、余剰人員として固定化されることになるのではないかと危ぐしていた。

(争いのない事実、甲事件の乙第一三九号証、第三五八号証、第三五九号証、第四二〇号証、第六二八号証・六三頁から六五頁まで、甲事件の証人人見美喜男の証言・第一四回口頭弁論調書三六項)

(二)  昭和六一年六月、大鉄局は、動力車乗務員(機関士、電気機関士、気動車運転士)を対象として、運転士への転換教育(以下「ELからECへの転換教育」という。)を、同月三〇日から関西鉄道学園で実施すると発表し、「募集期間 六月一三日から六月一七日まで」、入学者は「勤務成績等を考慮のうえ、面接を実施して決定する。」、同学園での同教育終了後の扱いは、「電車区へ兼務発令を行い、実務見習いを実施する。実務試験合格後、兼務発令を解除する。なお、必要により転勤発令を行う」等の内容の「多車種教育の実施について」と題する文書を関係職場に配付した。この教育の受講者三〇名は、実際には、国労組合員を含む応募者の中から現場長が推せんして決定したが、決定された受講者は全員動労組合員であった。

なお、大鉄局における職務内容の変更を伴う教育は、各年度ごとに大鉄局が国労大阪地方本部に説明を行った上で作成する年間の関西鉄道学園教育実施計画(以下「年間教育計画」という。)に基づいて実施されていた。

前記ELからECへの転換教育は、年間教育計画にはなかったものであるが、昭和六二年三月までの間に六回にわたり、国労組合員を含め一六〇名余りを対象に行われ、同教育終了者は、順次三電車区などに配属された。同年三月までに高槻電車区に三七名、宮原電車区に四二名、向日町運転所に四名の計八三名(動労組合員六五名、鉄労組合員一四名、鉄産労組合員三名、全動労一名)が三電車区のEC職場に配属された。

(争いのない事実、甲事件の乙第四一号証、第六〇号証、第一三八号証、第二八六号証・二〇頁から二二頁まで、第三〇九号証、第三一〇号証、第三三〇号証、甲事件の証人人見美喜男の証言・第一四回口頭弁論調書六八項)

(三)  昭和六一年六月二三日夕方、大鉄局運転車両部総務課補佐小谷正宏(以下「小谷補佐」という。)らは、国労大阪地方本部に対し、「多車種教育の実施について」と題する大鉄局名の次の文書を手交し、その内容を説明した。

「ECからELへの転換教育を次により実施する。

1 実施時期 七月一日以降準備出来次第

2 対象区所及び対象職名

高槻、宮原各電車区及び向日町運転所(EC)の電車運転士及び車両検査係

3 人員 若干名

4 実施場所 吹田機関区

5 その他 (1)  転換教育期間中は吹田機関区に兼務発令とし、教育終了後、兼務を解除する。

(2)  教育を受ける者の指定については、別途本人に通知し説明する。」

これに対して、国労大阪地方本部は、右大鉄局の提案する教育(以下「本件転換教育」という。)が年間教育計画になかったこともあって、(1)  従来の労使間の経緯からみて団体交渉で協議すべきであること、(2)  本件転換教育を必要とする要員の運用計画等を明らかにすべきであること、(3)  対象者を募集せず、一方的に指定した理由は何か、(4)  対象職場を三電車区に限定した理由は何か、(5)  実施場所を関西鉄道学園でなく、吹田機関区とする理由は何かなどの点について主張ないし質問した。小谷補佐は、本件転換教育は多車種教育であって、管理運営事項に当たるので団体交渉を行うつもりはなく、受講者の人選などは当局の権限で行うことができると回答した。

(争いのない事実、甲事件の乙第三八号証、第二八六号証・二二頁・二三頁、第六二四号証・二五八頁から二六二頁まで、甲事件の証人人見美喜男の証言・第一四回口頭弁論調書六七項)

(四)  昭和六一年六月二四日、三電車区の管理職は、同電車区に本件転換教育の内容を記載した文書を掲示するとともに、所属するECの名運転士二七名(原告中島、同大矢を含む。)と検査係二八名(田岡を含む。)に対し、前記「多車種教育の実施について」と題する文書並びに「吹田機関区兼務を命ずる。(七月一日付け)」と記載された大鉄局長名の発令通知書及び次の内容の「教育案内」と題する文書を交付して、本件転換教育受講の業務命令を発した(原告中島に対しては六月二七日)。

「1 集合日時及び集合場所

昭和六一年七月一日 八時五〇分(時間厳守)吹田機関区会議室

2 教育期間等

机上教育及び場所 七月一日から七月二二日 吹田機関区会議室

実務見習期間及び場所 七月二三日から九月一九日 別途

実務試験及び場所 九月二二日から九月二四日 別途

実務試験合格後の扱い 兼務を解除する。

※教育期間は都合により変更する場合がある。

3 教材等 教育期間中必要な教材は整える。

4 携行品 (1)  制服、制帽、キ章、認印

(2)  教育に必要な事務用品等は、各自準備すること。

5 教育期間中の取り扱い

(1)  吹田機関区兼務発令となる。(八時五〇分から一七時二五分)(以下略)」

(右は運転士の例であるが、検査係の場合、担務見習期間が七月二三日から八月二五日までとされ、実務試験及び場所の定めはないなどの違いがある。)

なお、本件転換教育の受講対象者は、三電車区の五五名と新幹線からの運転士二名、検査係三名の計六〇名であった。また、三電車区の五五名は全動労組合員二名を除いて全員が国労組合員であり、新幹線からの五名は国労組合員であった。

また、大鉄局は、本件転換教育終了後も更にECからELへの転換教育を行うこととし、その受講対象者として、第二回は姫路など大阪より西の地域から、第三回は大阪環状線を中心とした電車区から指名して行った。

(争いのない事実、甲事件の乙第三九号証、第四〇号証、第二八六号証・二四頁、第三三一号証、第四六四号証)

(五)  本件転換教育の受講を命ぜられた原告中島ら国労組合員は、所属長に対して、「募集をしないで指名したのはなぜか。」、「指名した選考基準を明確にしてほしい。」、「過員の多いELへの転換教育の必要性があるのか。」、「学園でやらずに、吹田機関区という現場でなぜやるのか。」、「教育終了後は現場に戻れて、電車運転士の仕事を続けられるのか。」などと質問と抗議を行った。これに対し所属長は、「業務命令を拒否すると大変なことになります。」、「私見として、人選基準をいうなら七名とも身体が丈夫なところです。」、「上局が決めたことで、詳しい説明は吹田機関区で聞いてもらうより仕方がありません。」などと回答した。

そこで、原告中島ら本件転換教育受講対象の国労組合員は、国労大阪地方本部に対し、本件転換教育の中止を求める取組みを要請した。

(甲事件の乙第二八六号証・二四頁・二五頁、第四六四号証、第六一九号証)

(六)  昭和六一年六月二五日、国労大阪地方本部は、大鉄局に対し、教育終了後も運転士又は検査係の本務に復帰(以下「現職復帰」という。)できるかどうかなどに関して団体交渉をすること及び協議が整うまで本件転換教育を一方的に実施しないことを申し入れた。

同月二八日、大鉄局は、国労大阪地方本部に対し、本件転換教育は幅広い技術、資格を修得するための転換教育であり、当局の責任において実施できるものであって、「団体交渉として取り扱う事項ではないと考えるが、具体的労働条件について問題提起があればその内容により、労使間のルールに基づき取り扱うこととなる。」旨回答し、国労大阪地方本部の申入れ事項に関して、「多車種教育の一環として実施したものである。」、「当局が適任と判断して指定したものである。」、「需給状況、場所等を勘案して計画したものである。」、「多車種教育の一環として今回現場で実施することとしたものである。」、「教育終了後は兼務を解除することになる。」などの見解を文書で回答した。

同月二九日、国労大阪地方本部は、大鉄局に対し、本件転換教育は団体交渉の結論を待って実施するよう要請し、同月三〇日、公労委近畿地方調停委員会(以下「近畿地調委」という。)に、本件転換教育に関するあっせんを申請した。しかし、大鉄局は、同日のあっせんにおいて、あっせん案の提示を受けることはできないと述べたため、あっせんは不調に終わった。

(争いのない事実、甲事件の乙第四二号証から第四六号証まで、第二八六号証・二五頁・二六頁、甲事件の証人人見美喜男の証言・第一四回口頭弁論調書六一項から六三項まで)

(七)  昭和六一年六月三〇日、本件転換教育受講対象の国労組合員五三名は、大阪地方裁判所(以下「大阪地裁」という。)に、「転換教育」を目的とした吹田機関区への兼務発令の効力を停止するよう求める仮処分を申請した。同日、大阪地裁裁判官は、大鉄局及び国労大阪地方本部に対し、話合いを行うよう示唆した。

そこで、同日夜、大鉄局と国労大阪地方本部とは話合いを行った。席上国労大阪地方本部は、本件転換教育の一方的実施を中止すること、兼務解除の趣旨として受講終了者を、現職復帰後に運転士又は検査係の本来業務に戻すことについての約束を求めた。これに対して、大鉄局は、本件転換教育は管理運営事項であって当局の責任で行うものであり、また、本件転換教育終了後の兼務解除の趣旨は現職復帰であるが、現職復帰後に配転をしない約束はできないとして兼務解除を示す文書を交付することもあって、話合いは物別れに終わった。

(争いのない事実、甲事件の乙第一一一号証、第二八六号証・二六頁から二八頁まで、第二八八号証・一八頁から二〇頁まで)

(八)  昭和六一年六月三〇日夜、国労大阪地方本部は、執行委員会において、団体交渉が持たれないまま本件転換教育が実施されることは問題であるが、受講者は業務命令を拒否することなく吹田機関区に行き、国労大阪地方本部の派遣する執行委員の指示に従い、吹田機関区の責任者に本件転換教育の問題点や教育期間中の労働条件などについて釈明・解明を求めるなど適宜必要な行動を取り、納得のいく説明のあるまでは授業を受けないことを決定し、受講者に対して、同年七月一日午前八時に岸辺駅に集合するよう電話で指示した。

(甲事件の乙第二八六号証・二八頁から三〇頁まで、第二八八号証・二一頁、第四六四号証、第六二八号証・七二頁から七五頁まで・一八一頁・一八二頁、第六二九号証・一九四頁・一九五頁、甲事件の証人人見美喜男の証言・第一四回口頭弁論調書七九項から八一項まで)

(九)  国鉄における職員の教育訓練に関する就業規則等の定めは、次のとおりであった。

(1)  就業規則

「(教育訓練の目的)

第一〇七条 教育訓練は、(中略)全職員を対象として必要に応じ、あらゆる機会と場所を活用して行う。

(教育訓練の方法)

第一〇八条 教育訓練の方法は、職場において日常の業務を通じて行う職場内教育、教育訓練を専門に担当する機関において行う教育機関教育(中略)とする。

(教育訓練の実施方等)

第一〇九条 前条に規定する教育訓練の実施方等については、職員管理規程、職場内教育基準規程、教育機関教育基準規程(中略)の定めるところによる。」

(2)  職員管理規程

「(教育機関の教育)

第二四条 中央鉄道学園、鉄道学園及び高等看護学園(以下これらを「教育機関」という。)において行なう教育訓練は、次の各号に掲げるとおりとする。

(1)  正規教育(中略)

(2)  転換教育

機器、設備等の更改又は他の職種への転換により、職務の内容又は作業方式が著しく変更される場合に行なうもの

(3)  再教育(後略)」

(3)  職場内教育基準規程

「(職場内教育の種類)

第四条 職場内教育の種類は、次の各号に掲げるとおりとする。

(1)  職場訓練

(2)  講習会

(3) (後略)

(計画及び実施)

第九条 講習会は、次の各号に掲げる者が、それぞれ当該各号に定める職員について、計画し、及び実施するものとする。

(1) 、(2) (略)

(3)  本社附属機関の長、地方機関の長(総局長を除く。)、総局の地方機関の長及び鉄道管理局の地方機関の長

当該機関に所属する職員

(後略)

第一〇条 講習会の対象者、講習期間、講習科目及び講習時間数の決定は、前条に規定する者が行なうものとする。ただし、転換教育のための講習会を実施する場合は、教育機関教育基準規程第三三条の規定を準用するものとする。」

(4)  教育機関教育基準規程

「(転換教育)

第三三条 転換教育の課程、科、修業時数、教育目的又は教育職種、教育対象及び実施学園は、別表第4のとおりとする。

(後略)」

(争いのない事実、甲事件の乙第四七号証から第四九号証まで、第一〇九号証、第二八六号証・一頁から三頁まで)

(一〇)  国鉄と国労の間には、昭和四二年一二月一五日に締結された「近代化、機械化及び合理化等に伴う事前協議に関する協定」があり、それは次のように定めていた。

「日本国有鉄道と国鉄労働組合は、国鉄の近代化、機械化及び合理化等に関し、事前協議について、次のとおり協定する。

1 (略)

2 近代化、機械化及び合理化等の事前協議の対象事項は、次の各号に掲げる事項とする。

(1) から(3) まで(略)

(4)  転換養成等の計画概要

(5)  (略)

3 前項の事前協議の結果、労働条件に関する事項は、団体交渉を行うこととし、意見の一致を期するようにする。

4 この協定の取扱いについて、地方において問題が生じた場合には、中央にて協議する。」

また、昭和四六年二月一九日、国鉄と国労は、「職員の教育、養成の計画概要については事前に説明し、組合側の意見を尊重する。」旨の条項がある確認事項を調印した。

(争いのない事実、甲事件の乙第五四号証、第五六号証、第二八六号証・七頁から九頁まで)

(一一)  昭和六一年六月中旬、大鉄局の指示を受けた吹田機関区は、本件転換教育の教室として、旧現業事務所九号の建物の一階の一室を開講式等の会場及び検査係の教室(以下「検査教室」という。)に、旧更衣所三号の建物の二階を運転士の教室(以下「運転教室」という。)に充て、また、検査教室の隣室を講師の控室(以下「講師室」という。)に充てることとし、さらに、同年七月一日には吹田機関区構内入口に「転換教育講習会々場」と記載した立て看板を設け、受付を準備した。また、三電車区において、受講者が所属長らに抗議、質問をしていたことから、吹田機関区においても混乱が予測されるとして、同日には、吹田機関区の区長井上憲一(以下「井上区長」という。)、同機関区の首席助役古川久一(以下「古川首席助役」という。)ら本件転換教育担当の管理職(以下においては、井上区長、古川首席助役及び本件転換教育担当の管理職を併せて「吹田機関区の管理職」という。)のほかに、三電車区から助役らの応援を求め、受付周辺に待機することとした。

(争いのない事実、甲事件の乙第六一六号証、第六二三号証)

(一二)  昭和六一年七月一日の経緯は、次のとおりであった。

(1)  午前八時過ぎから、本件転換教育受講対象者の国労組合員及び国労大阪地方本部執行委員、支部・分会役員ら約七〇名は、岸辺駅において集会を開催した。国労大阪地方本部役員らは、経過報告及び前夜決定した方針を説明し、現場責任者として国労大阪地方本部執行委員人見美喜男(以下「人見執行委員」という。)らを派遣するので、同人らの指揮に従って行動するよう指示した。

なお、新幹線からの受講者五名は、あらかじめ国労新幹線協議会と国鉄新幹線当局の間において本件転換教育に関する合意がされていたことから、前記集会に参加せず、後記(3) から(11)並びに(一三)から(一八)までの行動にも加わっていないほか、高槻電車区の検査係であった国労組合員一名も右集会及び右行動に加わっていない(以下、新幹線からの受講者五名と右国労組合員一名を併せて、「新幹線受講者ら」という。)。また、受講対象の全動労の組合員二名(運転士)は、同じく国労組合員五二名(新幹線受講者らを除く運転士二五名及び検査係二七名。以下「国労受講者」という。)による後記(4) から(11)まで並びに(一三)から(一八)までの行動に加わっている(以下においては、国労受講者五二名と全動労組合員受講者二名を併せて「国労受講者ら」という。)。

(2)  他方、大鉄局は、受講者らが岸辺駅で集会を開いているとの情報を得て、小谷補佐ら総務課等の職員数名(以下「大鉄局の職員」という。)を吹田機関区に派遣した。

(3)  岸辺駅で集会に参加した受講者らは、組合旗を先頭にしてハンドマイクでシュプレヒコールを行いながら吹田機関区に向い、午前八時四五分ころ到着した。

国労受講者は、入口の立て看板が「講習会」となっていること、受付周辺にヘルメットを着用した吹田機関区の管理職、三電車区から派遣された助役(以下「三電車区の管理職」という。)、講師ら約一五名のほかに、大鉄局の職員が待機しているのを見て、これは教育の場にふさわしくないなどと抗議し、数名を除いて氏名の申告と氏名札の受領をすることなく、国労大阪地方本部の役員らとともに開講式が予定されていた検査教室に入った。

(4)  午前八時五〇分過ぎ、検査教室において、井上区長らは、「関係者以外は教室から退室しなさい。受講者は着席しなさい。」と再三指示した。しかし、人見執行委員らの国労大阪地方本部役員を中心に、原告中島ら三名を含むその他の受講者も着席しないまま、井上区長らに対し、「人選基準を明確にせよ。」、「教育終了後の身分はどうなるのか。」、「EL転換教育の必要性があるのか。」、「電車区では吹田機関区で聞いてくれと言われた。納得できるよう説明せよ。」などと質問し、井上区長らは、「知らない。権限がない。」などと答えた。午前九時ころから、人見執行委員ら国労大阪地方本部役員が、「講習会場となっている看板を書き換えろ。」、「団交をしろ。」などと求め、井上区長らが、「要求されている事項はこの場にふさわしくない。」と説明していたところ、午前九時一五分過ぎころ、国労受講者らは、人見執行委員の指示により、教室から前庭に出て、原告中島らがり-ダーとなって、「我々は講習に来たのではない。表の看板を外せ。」などとシュプレヒコールを行った。

(5)  井上区長らは、人見執行委員ら国労大阪地方本部役員と立て看板の記載について折衝し、午前九時五五分ころ、「転換教育会場」と書き換えると人見執行委員に説明した。午前一〇時ころから人見執行委員は、国労受講者らが集まっていた前庭において、「看板は書き換える。受講者は教室に入って納得のいく説明を受け、納得したらやれよ。長い闘いが始まった。」と説明し、午前一〇時五分ころ、国労受講者らは教室に入った。

午前一〇時一〇分から、講師はオリエンテーションを開始し、呼名点呼を行い、受講者の出欠を確認し、吹田機関区の管理職及び講師らは、午前一〇時三〇分ころから開講式を行おうとした。そのとき原告中島は、「看板は書き換えられたが、現地で聞いてほしいと言われた詳しい説明がなされていない。責任をもって質問に答えてほしい。」と述べて、転換教育の目的、必要性、労働条件に関連して通勤費の変更措置、定期健康診断の扱い、食事代の補助について説明を求め、また、大鉄局の職員や三電車区の管理職などによる監視は教育環境としてふさわしくないので、教育に関係がない管理職を帰してほしいと要求した。これに対し、井上区長らは、「上局の方針に基づくもので答える権限がない。」「労働条件に関しては検討する」、「教育をするよう指示され、それを実行するだけで、それ以上答えられない。」などと述べた。さらに、国労受講者らがこれらに関連して口々に質問、抗議を行ったため、井上区長らは、午後から開講式を行うと述べて休憩に入った。

(6)  なお、午前一〇時三〇分ころ、検査教室と市道をはさんだ道路脇に、大鉄局が要請して出動した鉄道公安職員がマイクロバス二台で到着した。

午前一一時三〇分ころ、人見執行委員は、検査教室外で、「なんで公安がいるんや。」と大声で抗議し、教室内の国労受講者らも抗議した。そこで、大鉄局の職員と人見執行委員は、話し合いを行い、「組合役員等と鉄道公安職員は引き上げる」ことを合意し、午前一一時五〇分ころ、鉄道公安職員は引き上げた。

(7)  午後一時三〇分ころ、井上区長らは、開講式を行うため、検査教室に赴いたが、国労受講者らは、「我々の質問に答えよ。」、「一方的に実施するな。」、「納得すれば開講式に応ずる。」などと口々に発言した。井上区長は、「静かにせよ。もう答えることはない。」と述べ、午後一時四〇分過ぎに開講を宣言し、自己紹介と吹田機関区の助役を紹介して、約五分で開講式の終了を宣言した。午後一時四六分ころ、講師は、「一四時二〇分までに運転士は運転教室に、検査係は検査教室にそれぞれ入るよう、各教室に入らない場合は職場放棄とみなす。」旨通告し、井上区長らの管理職は退室した。

(8)  午後二時二〇分、検査教室に受講者全員が入っていたため(新幹線の運転士二名は運転教室に移った。以後、同じ。)、講師が、運転士は二階の運転教室に、検査係は一階の検査教室に入るよう指示し、井上区長は「業務命令だ。」と通告した。しかし、国労受講者らは、「開講式は終わっていない。」、「一方的な開講式である。」などと述べて、指示に従わなかった。

このとき、検査教室に入っていた人見執行委員は、講師に対し、「二階の教室へ行けという資格があるのか。」と述べた。

(9)  午後三時五分から午後三時二五分までの休憩の後、井上区長は、検査教室において、「この教室は検査教室である。名前を呼ばれた人は運転教室に行きなさい。」と述べ、運転士の氏名を読み上げ、講師とともに、「運転教室に行きなさい。行かない場合はボイコットと認める。」と通告したが、国労受講者らは指示に従わなかった。そこで、講師は、運転士が在室のままの検査教室において、午後四時一〇分までの七時限として、検査関係のカリキュラム等の説明を行ったが、途中で国労受講者らからいろいろな質問がなされた。

午後四時二〇分から午後五時五分までの八時限の授業も、検査教室に運転士が在室したまま不完全に行われた。

(10) 午後五時五分から検査教室において、古川首席助役が通勤手当、定期健康診断の取扱い等の説明を行った後、井上区長は、「本日は正当な授業と認めない。明日以降運転士と検査係に分かれて授業を受けること、出務表は各教室に置いてあるので、制服を着用し、授業を受けること」を指示した。

(11) 午後五時三五分ころから午後五時五〇分過ぎころまで国労受講者らは、吹田機関区給水塔前で集会を開催した。吹田機関区の管理職は、「施設内の集会は許可していない。直ちに中止して退去するよう」との趣旨の指示を行った。集会において、田岡は、前記(七)の仮処分申請事件の原告団長としてあいさつし、また、人見執行委員は、国労受講者らに対し、「納得のいく説明のあるまで運転・検修に分かれる必要はない。これほど教育を受けるに程遠い態度をとり続ける当局に黙っていることはない。(明日も)反省と釈明を求めること」を指示した。

(争いのない事実、甲事件の乙第一一〇号証、第二八八号証、第二九〇号証、第四六四号証、第四七〇号証、第四七六号証、第四八二号証、第四八八号証、第四八九号証、第四九二号証、第五〇〇号証、第五〇一号証、第五〇七号証、第六一七号証、第六一八号証、第六二〇号証、第六二一号証、第六二三号証、第六二九号証、甲事件の証人人見美喜男の証言・第一四回口頭弁論調書八一項から一一三項まで、弁論の全趣旨)

(一三)  昭和六一年七月二日の経緯は、次のとおりであった。

(1)  午前八時五〇分、新幹線の運転士二名は運転教室に入ったが、それ以外の受講者全員が検査教室に入室していたため、点呼を取ろうとした講師は、運転士は運転教室に行くよう指示した。しかし、国労受講者らは、「区長と話がしたい。」と要求して応じなかった。そこで、午前九時ころ、講師は、呼名点呼ができないまま、授業を開始しようとしたところ、受講者は、「環境が悪い。」、「開講式は済んでいない。」、「なぜ学園に入れないのか。」などと口々に発言した。講師は、「授業が妨害されてできない。」、「授業のボイコットとみなす。」と述べて、退室しようとしたところ、約一〇名の受講者に取り囲まれて、さらに質問、抗議を受けた。

午前九時三分ころ、井上区長らの管理職は、検査教室に入り、講師を退室させた後、井上区長は、「運転士は二階へ行きなさい。授業をボイコットするのですか。」と述べ、さらに、「授業のボイコットとみなす。」と通告し、午前九時一一分ころ、井上区長らは講師室に戻った。

(2)  午前九時一五分ころ、教室から出て講師室前の前庭に集まった国労受講者らは、「教育を受けられる環境をつくれ。」、「局、現場の管理者は帰れ。」、「監視下の教育は受けられない。」とシュプレヒコールを行った。井上区長らは、「教室に入りなさい。現場長として命令します。」と再三にわたり指示した。

午前九時三〇分過ぎころ、田岡は、「局、現場の管理者が帰ったら入る。」と述べ、小谷補佐らが、「管理者はここから退出するので、運転士は二階の教室に入るよう」述べたところ、田岡は、「みんな教室へ入ろう。」と発言した。国労受講者らは、午前九時三五分ころ、検査教室に入り、午前九時四八分ころ、運転士は、運転教室に移動した。他方、大鉄局の職員、三電車区の管理職は、午前九時五〇分ころ、区長室で待機することとした。

(3)  午前九時五五分からの二時限以降八時限まで、国労受講者らは、それぞれ指定された運転教室、検査教室に入室したが、氏名札を着用せず、教材の受領印を捺印しなかった。

二時限目に、受講者は、運転教室で原告中島、同大矢外二名の、検査教室では田岡外二名のクラス代表を決定し、その後、各教室において講師から注意事項の徹底などが行われた。

三時限目には、各教室で授業が行われ、受講者から構内見学の希望が出されたので、講師は、制服、氏名札、保護帽の着用が前提条件であると説明した。

(4)  午後一時二五分からの五時限目には、運転教室において、暑いので扇風機を使用したところ、ホコリが舞い上がったため、水をまいたりして授業ができなかった。また、検査教室において、田岡は、後ろを向いたままで注意されても改めなかった。

七時限目には、各教室で受講者の自己紹介が行われた。

(5)  午後四時一〇分から午後四時二〇分の休憩時間中に、国労受講者らは、「教室が暑い。」、「教室前の市道工事の騒音がやかましい。」、「局、現場管理者が残っている。」など教育を受ける環境が悪いとして、区長室前に集まり、午後四時二五分ころから、井上区長や大鉄局の職員を取り囲んで抗議した。午後四時三〇分ころ、井上区長、小谷補佐は、田岡、原告中島を首席助役室に呼んで抗議を聞くとともに、服装を整えて授業を受けるよう説得したが、田岡らは納得しなかった。午後四時三五分過ぎころ、国労受講者らは、区長室前から各教室に戻った。結局、午後四時二〇分からの八時限目の授業は行われなかった。

(6)  午後五時一五分ころ、検査教室において、井上区長は、「制服を着用するよう注意したにもかかわらず従わなかった者については現認しているが、明日からの授業は制服、氏名札を着用せず、教科書の受領印を捺印しない者は授業を受ける意思がないことを確認する。」との警告文を掲示するとともに、口頭で通告した。同時刻ころに運転教室において、古川首席助役が同様のことを行ったところ、原告中島、同大矢らの受講者は、「我々は授業を受ける意思がある。」と述べて抗議した。

(争いのない事実、甲事件の乙第四六四号証、第四七一号証、第四七七号証、第四八三号証、第四八九号証、第四九〇号証から第四九二号証まで、第五〇〇号証、第五〇一号証、第五〇七号証、第六二三号証、第六二九号証)

(一四)  昭和六一年七月三日の経緯は、次のとおりであった。

(1)  午前八時三〇分ころ、検査教室の黒板に、「制服は着用する」、「氏名札は着用しない」、「受領印は捺印しない」と記載されていた。

(2)  午前八時五〇分ころ、国労受講者らは、制服は着用しているが、氏名札は未着用であり、また、国労の運転士らが検査教室に入室していた。講師は、国労の運転士らに出ていくよう指示したが、運転士らがこれに従わなかったため、点呼ができないまま、午前八時五五分ころ退室した。

(3)  午前八時五七分ころ、原告中島ら受講者一〇数名は、講師室前において、「井上区長あてに要望書がある。」と述べ、井上区長が、「所定の教室に戻りなさい。」と指示しても、教育環境について交渉するよう求め、「当局は誠意をもって回答せよ。」などとシュプレヒコールを行った。その間に受講者の小笠原教夫は、「1、一方的、不法・不当な強制転換教育をやめ、最低仮処分決定が出るまではいたずらに混乱を起こさず、教育を中止すること、2、教育を受ける環境を整えること」などを内容とする強制転換教育者一同名の要求書を読み上げた。

なお、午前九時五分ころ、国労大阪地方本部の執行委員波部鉄(以下「波部執行委員」という。)は、「話し合いをしよう。」と述べて、講師室に入ろうとしたが、吹田機関区の管理職らに入室を阻止された。

(4)  午前九時八分ころ、国労受講者らは検査教室に入った。検査教室において、講師は、運転士に、「所定の教室に行きなさい。」と述べ、「氏名札を着用しなさい、教科書の受領印を押しなさい。」と指示した。しかし、国労受講者らがこれに従わなかったため、講師は、「授業を受ける意思がないと認める。」と述べて退室した。

午前九時一四分ころ、井上区長は、検査教室において、運転士に、「指定された教室に戻りなさい。」と指示したが、国労受講者らは従わなかった。

午前九時二〇分ころ、検査教室に入室していた波部執行委員は、吹田機関区の管理職らに教室外に排除されたところで、「講師室で話をしよう。」と述べ、講師室に入ろうとして、吹田機関区の管理職らに阻止され、その際に、「交渉しろ。」、「授業を受ける環境を作れ。」と述べた。

(5)  午前九時五五分からの二時限目にも検査教室において、講師は、一時限目と同様のことを述べて退室し、午前一〇時一〇分ころ、井上区長は、「指定された教室に戻りなさい。戻らない者は職場離脱とみなす。」と通告した。

午前一〇時一三分ころ、国労受講者らは、「授業は受けられない。」などと述べて、検査教室から前庭などに出た。田岡は、講師室に赴いて、「生徒代表が区長と話をしたい。」と述べた。井上区長は、国労受講者らに「教室に戻りなさい。」と指示した。午前一〇時二三分ころ、国労受講者らは検査教室に入り、その後、午前一〇時三〇分ころまでに運転士は運転教室に移動した。

(6)  午前一〇時五〇分からの三時限目、午前一一時四五分からの四時限目及び午後一時二五分からの五時限目とも、各教室において、講師は、氏名札の着用、教科書の受領印の捺印を指示し、国労受講者らがこれに従わなかったため、「授業を受ける意思がないと認める。」と述べて退室した。また、井上区長は検査教室で、古川首席助役は運転教室で、同様の趣旨をそれぞれ述べた。

(7)  六時限目(午後二時二〇分開始)の午後二時二五分ころ、各教室において、井上区長、古川首席助役は、「授業を受ける意思があると認めた人は、名前を呼ぶので、教材を持って私について来てください。その他の人は、この教室で待機しなさい。」と述べ、新幹線受講者らを、別室で授業を行うために連れ出そうとした。国労受講者らは、「挑発ではないか。」などと抗議した。運転教室においては、新幹線受講者らが別室に行くことをちゅうちょしていたため、吹田機関区の管理職や小谷補佐が新幹線受講者らの席の脇に立って、退室を促したところ、原告中島、同大矢ら受講者は、小谷補佐らを取り囲んで抗議し、その際、原告大矢は、「本人はいやがっている。無理に連れて行くな。」、「人権侵害で訴えたる。小谷氏よう覚えとけよ。」と述べた。

午後二時三二分ころから、新幹線受講者らに対する授業が別室において行われ、同授業は同年七月七日の午前中まで続けられた。

(8)  午後三時二五分からの七時限目及び午後四時二〇分からの八時限目には、各教室において、井上区長、古川首席助役は、「再三にわたり通告しているように、氏名札を着用し、教材の受領印を捺印しないのであれば、このまま待機しなさい。」と述べた。その際、国労受講者らは、「授業を始めて下さい。」、「講師を連れてきてほしい。」、「人権侵害をするな。新幹線の乗務員をどこに連れて行ったのか。」などと発言した。

(9)  授業時間終了後の午後五時二〇分から各教室において、呼名点呼が行われたが、検査教室の受講者は返事をせず、運転教室の受講者は、「いる。」、「おるぞ。」などと返事をした。続いて、井上区長、古川首席助役は、「明日は制服を着用し定められた氏名札を付け、教材の受領印を捺印し教材を開いて授業ができる条件を整えなさい。本日は授業ができていないことを確認します。」と述べた。

(争いのない事実、甲事件の乙第三五四号証、第四六四号証、第四七二号証、第四七八号証、第四八四号証、第四八九号証、第四九二号証から第四九四号証まで、第五〇〇号証、第五〇一号証、第五〇七号証、第六一六号証、第六二三号証、第六二九号証)

(一五)  昭和六一年七月四日の経緯は、次のとおりであった。

(1)  午前八時五〇分ころ、国労受講者らは、制服は着用しているが氏名札は未着用のまま運転教室に入室していた。講師は、運転教室において、「呼名点呼の邪魔になるので検査係は所定の教室に戻りなさい。」と注意した。午前八時五八分ころ、検査係は検査教室に移動した。

(2)  午前九時からの一時限目には、運転教室において、古川首席助役は、「昨日から通告しているが氏名札の着用ができていない。直ちに着用して下さい。定められた服装・氏名札の着用、教材の受領印がなければ授業を受ける意思がないとみなします。この場で待機して下さい。」と述べて退室した。

午前九時七分ころ、原告中島は、講師室に赴き、前日国労大阪地方本部より指示されていたところに従い、「仮処分申請事件(前記(七))の審尋が七月七日に予定されているので、それを傍聴するため、年休を申し込みたい。」と述べたのに対し、古川首席助役は、勤務時間中であるので休憩時間に来るように述べて、教室に戻るよう指示した。また、検査教室において、午前九時ころ、講師は、「氏名札もないし、受領印も押していない状態では授業できない。」と述べて退室した。

午前九時一三分ころ、井上区長は、検査教室において、「氏名札が着用されておらず、教材の受領印も捺印されていないことは、授業を受ける条件を整えていないことになる。教育を受ける意思がないことを確認します。」と述べ、「九時四五分まで待機を命じます。」と指示した。

午前九時二〇分ころから午前九時四〇分ころまで、国労受講者らは、講師室前に集まった。

井上区長らの管理職は、「定められた教室に戻りなさい。」、「これは職場離脱である。」と再三注意したが、国労受講者らはこれに従わず、井上区長らの管理職に対し、口々に、「年休はいつ申し込むのか。」などと述べた。その間に、田岡は、井上区長に対し、「授業を受けるから講師を戻しなさい。」、「現場長はだれだ。」と述べ、原告中島は、井上区長に対し、「機関車の勉強をさせてくれ。」、「氏名札を付けないと仕事ができんのか。」と、また、宮原電車区の助役に対し、「何しにきたんだ。」、「お前らがこの場に送り込んだ。」と述べ、原告大矢は、井上区長に対し、「我々の言うことを真面目に聞け。」と、また、宮原電車区の助役に対し、「何しにきたんだ。」と述べ、その他の受講者も、三電車区の管理職に対し、「年休はどこに出したらええんや。」、「毎日こんなところにきて、早く帰りや。」、「帰れ。」などと述べた。午前九時四〇分ころ、国労受講者らは、それぞれの教室に入った。

午前九時四五分から同五五分までの休憩時間中に国労受講者らは、講師室で一斉に、同月七日の年休について申込簿に記入した。

(3)  午前九時五五分からの二時限目、午前一〇時五〇分からの三時限目及び午前一一時四五分からの四時限目とも検査教室において、井上区長は、「授業を受ける条件を整えていない。教育を受ける意思のないことを確認します。」、「一〇時四〇分まで待機を命じます。」と述べ、退室した。また、運転教室において、古川首席助役が同様の趣旨を述べたところ、原告中島ら五、六名の受講者は、「同じことを言うな。」、「授業を受ける意思はある。」、「講師を呼んで下さい。」、「当局が授業を放棄するのか。」、「氏名札が教育にどれだけ必要があるのか、説明しろ。」などと抗議した。

なお、休憩時間中の午後〇時三三分ころ、波部執行委員は、検査教室に入ろうとして、吹田機関区の管理職らに入室を阻止された。

(4)  午後の各時限とも、各教室において、井上区長及び古川首席助役は、午前と同様の趣旨を述べた。その間の午後三時二五分ころ、検査教室において、田岡は、「自分達は区長の配下ですが、ボーナスが五パーセント減っていたら説明してくれますか。」と質問し、井上区長は、「事務手続の内容は所属区所長が実施している。私には権限がありません。」、「ボーナスについては別に指示します。」と回答した。また、四時二五分ころ、田岡は、講師室前で、井上区長に対し、「学級代表です。年休はどうなっているのですか。」と質問し、井上区長は、「一七時五分に話します。すぐ帰りなさい。職場放棄と認めます。」と警告した。

(5)  午後四時三〇分ころから午後四時四〇分にかけて、国労受講者らは、講師室前に集まり、原告中島は、「非休である七月一二日や七月一九日の計画年休をとりやめて全員出動して授業を受けるから、七日に年休を認めてほしい。」という趣旨を述べ、他の受講者が、「年休を出せ。」と抗議し、原告大矢がリーダーとなって、「区長は年休を出せ。」、「現場当局は現場へ帰れ。」、「ボーナスのカット反対」とシュプレヒコールを行った。この間に、井上区長は、「教室に入りなさい。教室に入らなければ職場放棄とみなす。」と再三警告した。

(6)  午後五時五分ころ、各教室において、井上区長及び古川首席助役は、「これで八時限目を終わります。期末手当の支払いは、一七時二五分以降にそれぞれの箇所の現場管理者が渡します。」、「授業が遅れているため、七月七日に年休を申し込んでいる者全員に対し、時季変更権を行使します。七月七日は出勤しなさい。」、「七月七日から氏名札を着用し、教材の受領印を捺印して授業ができる条件を整えなさい。本日は、授業ができていないことを確認します。」との趣旨を述べた。

(7)  なお、同月五日(特別非番日)及び同月六日(公休日)は、当初から授業の予定は組まれていない。

(争いのない事実、甲事件の乙第四六四号証、第四七三号証、第四七九号証、第四八五号証、第四九五号証から第五〇一号証まで、第五〇七号証、第六二三号証、第六二九号証)

(一六)  昭和六一年七月七日の経緯は、次のとおりであった。

午前八時二五分ころから、国労受講者らは検査教室において集会を開き、国労大阪地方本部の波部執行委員は、現職復帰の確認がされ、道路工事の騒音問題の解決にめどがつくなど教育環境も一定の改善がみられたので、授業を受けるよう指示した。午前八時五〇分ころ、受講者は右指示に従い、氏名札を着用し、教材の受領印を捺印して、それぞれの教室に入った。

午前九時ころ、講師は授業を開始しようとして各教室に赴いた。しかし、検査教室において、田岡が、「我々は条件を整えた。しかし局等の管理者がいるので気が散る。」、「カリキュラムどおりの授業ではない。」などと発言したため、講師は、講師室に戻り、井上区長らと対応策を協議し、同区長は、午前九時一五分ころ、三電車区の管理職を区長室横の会議室に移動させた。

午前九時一七分ころ、田岡、原告中島、同大矢ら受講者約八名は、講師室前において、井上区長に対し、「我々は授業を受ける意思はあるが、管理者の監視のもとでは気が散って授業ができない。」と抗議した。それに対して、同区長は、「各教室で説明するので、各自の教室に戻りなさい。」と述べ、午前九時二二分ころ、右受講者らは各教室に戻った。また、同時刻ころ、大鉄局の職員も区長室横の会議室に移動した。

午前九時二五分ころ、井上区長、古川首席助役は、各教室において「授業を受ける条件を整えたので、授業を受ける意思があることを確認する。したがって、今から授業を開始します。」と述べた。その際、原告中島は、「我々は授業を受ける意思があるのに同じことを言うな。角が立つ。」と述べた。

午前九時三五分ころから各教室において授業が開始され、以後八時限まで正常に授業が行われた。

(争いのない事実、甲事件の乙第四六四号証、第四七四号証、第四八〇号証、第四八六号証、第五〇〇号証、第五〇一号証、第五〇七号証、第六二三号証、第六二九号証)

(一七)  以上の昭和六一年七月一日から七日までの吹田機関区における本件転換教育の実施過程において、前記(一二)から(一六)までの経緯のほかに、国労受講者らや国労大阪地方本部役員らは、井上区長や古川首席助役らの管理職の指示、通告、警告に従わないばかりでなく、吹田機関区の管理職及び三電車区の管理職らを取り囲んで、「あんたら何しにきとるんや。」、「管理者は帰れ。」、「お前ら帰れよ、今の姿を異常だと思っていないのか。」、「電車区は忙しいやろうがな、毎日こんな所にきて早く帰りや。」等と述べた受講者があった。また、国労受講者らは、ハンドマイクを管理職らの耳もとに寄せて大声で抗議したり、管理職らに接触して同人らの氏名札が外れたことがあった。そのほか、教室内に「不当な業務命令を撤回せよ」等の内容のビラが貼付されたことや、教室内の黒板に「講師を呼んで下さい、おとなしい私も怒るときは怒ります。」と書かれていたこともあった。

なお、井上区長が汗を拭くため口許に手を当てたことをとらえ、「区長、酒気を帯びているのか。」、「酒気を帯びて何が区長や。」と受講者が述べたところ、同区長は、発言者に息を吹きかけた上、「名誉のために発言するがなめたことを言うな。」、「きさまら、これは職場離脱だぞ。」と述べるなどのやりとりもあった。

(争いのない事実、甲事件の乙第二八八号証、第二九〇号証、第四七〇号証から第四七四号証まで、第四七六号証から第四八〇号証まで、第四八二号証から第四八六号証まで、第四八八号証から第五〇一号証まで、第五〇七号証、第六二三号証、第六二九号証)

(一八)  昭和六一年七月八日午後〇時一〇分過ぎころから午後一時一〇分過ぎころまで、吹田機関区グランドにおいて、国労大阪地方本部傘下の吹田支部、梅田支部、京都支部合同により強制転換教育、人活センターなどに抗議する集会が開催され、国労受講者らは午後〇時三三分ころからこれに参加した。この集会において、田岡は、受講者代表として、「一日から四日までの四日間はスト権スト以来の事実上のストライキをやってきた。制服を着れば氏名札を付けない、教材受領印を押さないことを理由に当局自ら授業をやらなかった。」などと、本件転換教育の経過を報告した。

なお、同月一七日、国労受講者五三名は、前記(七)の仮処分申請を取り下げた。

(争いのない事実、甲事件の乙第四七五号証、第四八一号証、第四八七号証、第五〇一号証、第五〇七号証、第六二三号証・一二五頁・一二六頁)

(一九)  このようにして、吹田機関区における本件転換教育(机上教育)は、当初の予定より三日遅れて、昭和六一年七月二五日に終了し、受講者全員は、「電気機関車(直流)の講習を終了したことを証する。」と記載された大鉄局長名の「修了証書」を手交された。

また、国鉄は、前記の質問や抗議行動中に受講者が職場を離脱したとして、国労受講者らのうち四二名の賃金から一時間二九分ないし三時間三〇分の賃金カットを行った。この賃金カットは、原告中島、同大矢に対しては、それぞれ三時間二三分であったが、向日町運転所の福井公道ら八名に対しては、三時間二五分以上であり、また、田岡に対しては、二時間二二分であった。

なお、大鉄局は、同月二六日付けで机上教育を終了した受講者に対し、「吹田機関区兼務を免ずる」との発令通知を行うと同時に、検査係には同年八月二八日まで、運転士には同年一〇月一日まで、それぞれ実務研修の兼務を発令し、実務研修を終了して実務試験に合格した受講者に対し、「実務研修兼務を免ずる」旨の発令を行った。

本件転換教育を終了した三電車区からの受講者五五名のうち、昭和六二年三月末までに死亡した一名及び退職した四名を除いた者の、同年四月一日の状況は次のとおりであった。

(1)  後記(二〇)の一〇・一処分に付されなかった検査係の一名は、昭和六一年一一月に国労を脱退し、新幹線に転勤し、鉄道会社に採用された。

(2)  国労を脱退して鉄産労に加盟した四名のうち検査係の二名は、国鉄の他の電車区及び保線区に希望転勤して参加人西日本会社に採用され、運転士の一名は参加人西日本会社に採用されて本件転換教育前の運転士の本務に就き、他の一名は運転士から電気機関士となって貨物会社に採用された。

(3)  後記(二〇)の一〇・一処分で停職六か月に付された原告中島ら三名は、後記の経緯により清算事業団職員となった。

(4)  その他の国労組合員四〇名のうち、三七名は参加人西日本会社に、三名は貨物会社に採用された。

参加人西日本会社に採用された国労組合員のうち、本件転換教育受講前の職場で本務に就いた者は六名で、三〇名は事業部又は開発部の兼務を発令され、残る一名は他の電車区に転勤して検査係の業務に就いた。

(5)  全動労組合員二名は、参加人西日本会社に採用され、事業部及び開発部の兼務となった。

(争いのない事実、甲事件の乙第二八号証から第三三号証まで、第一四六号証、第二九五号証・一九頁・二〇頁、第三三一号証)

(二〇)  昭和六一年一〇月一日、大鉄局は、前記(一二)ないし(一六)の抗議行動等に参加した国労受講者ら五四名に対し、「昭和六一年七月、吹田機関区において多車種教育を実施した際、同月一日から四日までの間及び同月七日、管理者の再三にわたる業務命令に従わず、勤務時間中、定められた講習室を離れたり、受講者の中心となって管理者等に抗議等を行うなど職場秩序を乱したうえ、同教育に多大な支障を与えたことは職員として著しく不都合であった」ことなどを理由として、停職六か月三名(原告中島ら三名)、停職四か月一〇名、停職三か月四〇名、停職一か月一名の懲戒処分(以下「一〇・一処分」という。)を行った。

なお、同時に大鉄局は、国労大阪地方本部執行委員上村隆志、同野坂昭生及び梅田支部執行委員長松尾幸二郎外一名に対し、本件転換教育期間中教室に入り、退去命令に従わず抗議したことを理由に戒告処分を行った。

国労大阪地方本部から派遣された人見執行委員及び波部執行委員は、当時国鉄に籍がなかったため、処分の対象となり得なかった。

また、国鉄においては、昭和五八年八月一日付けで、宮原操車場の職員に対し、「昭和五七年一二月三〇日、一三時二〇分ころ、勤務時間中、管理者に無断で職場を離脱し、以後の勤務を放棄したこと」を理由に停職六か月の処分に付した例や、昭和五八年一一月一日付けで、小田原保線区の職員に対し、「昭和五八年八月九日、〇時四五分ころ、小田原保線区真鶴保線支区において、前日管理者より災害に伴い予定の作業が実施できない場合は代替作業を実施すべき旨の指示が発せられていたにもかかわらず、夜間作業への出発に際し、作業監督者から指示された代替作業を不服とし、独断で作業を拒否、他の職員の制止を振り切り職場を離脱し勤務を放棄したことは職員として著しく不都合な行為である」ことを理由に停職三か月の処分に付した例がある。

(争いのない事実、甲事件の乙第九号証から第二六号証まで、第三七号証、第一一五号証、第二八六号証・三三頁・三四頁、第六二八号証・一九二

頁)

(二一)  昭和六一年一二月下旬、国鉄は、停職中の原告中島ら三名に対し、前記のとおり承継法人各社の労働条件、採用の基準及び意思確認書を送付した。昭和六二年一月上旬、原告中島は、第一希望を参加人西日本会社、第二希望を貨物会社と、また、原告大矢及び田岡は、第一希望を参加人西日本会社とのみ記載した意思確認書を、国鉄に提出した。

(争いのない事実、甲事件の乙第二九〇号証・二九頁、第二九三号証・一〇頁、第二九五号証・二一頁)

(二二)  昭和六二年一月一二日、国労大阪地方本部は、大鉄局に対し、「国鉄「改革」関連八法案の成立に伴う諸作業に対する団体交渉を求める申し入れ」と題する文書により、「現在、日本国有鉄道職員の身分を有する職員の「意思確認書」の記入した希望順位の第一位をもって承継法人等に承継すること。」等を求めて、団体交渉を開催するよう申し入れた。

(甲事件の乙第一八三号証)

(二三)  昭和六二年二月一六日、国鉄は、前記のとおり、鉄道会社への採用予定者に対し、設立委員長名の採用通知を交付したが、原告中島ら三名には通知がなかった。そこで、原告中島らは、所属長らに対しその理由を質問したが、所属長らは「分らない。」などと答えた。

(争いのない事実、甲事件の乙第二九〇号証・二九頁、第二九一号証・三八頁)

(二四)  昭和六二年二月二五日、国労大阪地方本部は、大鉄局に対し、「四月一日の新会社発足にいたるまでの諸要求」、「新会社移行時諸問題に関する要求」等の緊急要求について、団体交渉を開催するよう申し入れたが、大鉄局は、「団交で取り扱う事項ではない、責任ある対応ができない」として、申入書の受領を拒否した。そこで、国労大阪地方本部は、同月二七日、内容証明郵便をもって申入書を大鉄局に送付した。

大鉄局は、同年三月三日、「申入書の内容が改革法等に基づく手続により実施した内容、大鉄局長の権限外の事項であったり、現行諸規範等の範疇で当局の責任と権限において行い得る要員運用に関する要求であり、これらの要求については、団体交渉を行う考えはない」旨の見解を国労大阪地方本部に送付した。

(甲事件の乙第一八五号証、第一八七号証、第一八八号証)

(二五)  昭和六二年三月二六日、国鉄は、原告中島ら三名に対し、「昭和六一年法律第九〇号により清算事業団職員となる。昭和六一年法律第九一号により再就職を必要とする職員に指定する。関西雇用対策部勤務を命ずる。大阪雇用対策支所勤務を命ずる。(四月一日付け)」と記載した大鉄局長名の「事前通知書」を交付した。

(争いのない事実、甲事件の乙第一二五号証から第一二七号証まで)

9 原告柴田の不採用に至る経過とその後の状況

(一)  原告柴田は、昭和三四年四月に国鉄に入社したが、原告国労岡山地方本部における組合役員歴は次のとおりである。

すなわち、昭和四四年一〇月から昭和四五年一一月まで原告国労岡山地方本部副青年部長、昭和四六年九月から昭和四九年九月まで原告国労岡山地方本部岡山電力区分会執行委員、同年一〇月から昭和五〇年九月まで同分会副委員長、昭和五一年九月から昭和五三年一〇月まで原告国労岡山地方本部執行委員兼同地方本部第一支部書記長、同月から昭和五四年一〇月まで原告国労岡山地方本部第一支部副委員長、昭和五八年一〇月から昭和六〇年九月まで原告国労岡山地方本部執行副委員長、同月から昭和六一年九月まで原告国労岡山地方本部書記長であった。

なお、昭和五一年九月から昭和五三年一〇月まで及び昭和五八年一〇月から昭和六一年九月まで、原告柴田は公労法七条一項ただし書の許可(以下「専従許可」という。)を受け、組合の役員として組合の業務に専ら従事した。

(争いのない事実、乙事件の乙第五九号証、第一二七号証、第二五二号証、第三五一号証・四頁以下、第三五三号証・三三頁)

(二)  右のとおり、原告柴田は昭和五一年九月から昭和五三年一〇月まで原告国労岡山地方本部執行委員であったが、この間に公労法一七条で禁止されている争議行為を計画、指導し実施させたとして、日本国有鉄道法(以下「国鉄法」という。)三一条の規定により、三か月の停職処分を二回受けた。

(争いのない事実、乙事件の乙第五九号証、第七一号証)

(三)  原告柴田は、昭和五八年四月一日以降において、次の事由によりそれぞれの懲戒処分を受けた。なお、原告柴田は昭和五八年一〇月から昭和六〇年九月までの間、原告国労岡山地方本部の執行副委員長であったが、当時同地方本部の三役ポストに就いていた他の者はすべて国鉄に在籍していない者であった。

(1)  昭和五九年七月六日及び同月七日、原告国労岡山地方本部は順法闘争を実施し、この二日間に同闘争による影響として、旅客列車に合計一九五本、貨物列車に合計二五本の遅れが生じた。遅延時間は、旅客列車では最高四〇分、貨物列車では最高六五分であった。原告柴田は、同闘争を原告国労岡山地方本部執行副委員長として計画、指導し実施させたとして、国鉄法三一条の規定により停職三か月の処分を、同年八月四日に通告され、昭和六〇年一〇月一日に発令された。

(2)  昭和五九年八月一〇日、原告国労岡山地方本部は、前記八・一〇ストの一環として、二時間のストライキを実施した。同ストライキにより運行列車に遅延は生じなかったが、四四四人(施設及び電気関連の勤務者)の欠務者が出た。原告柴田は、同ストライキを原告国労岡山地方本部執行副委員長として計画、指導し実施させたとして、国鉄法三一条の規定により停職三か月の処分を、同年一一月二四日に通告され、昭和六一年三月三一日に発令された。

(3)  昭和六〇年三月一九日、原告国労岡山地方本部は、前記三・一九ストの一環として、二九分間のストライキを実施した。同ストライキにより運行列車に遅延は生じなかったが、一七〇人(施設及び電気関連の勤務者)の欠務者が出た。また、同年八月五日、原告国労岡山地方本部は、前記の八・五ストの一環として、始業時から一時間のストライキを実施した。原告柴田は、これらのストライキを原告国労岡山地方本部執行副委員長として計画、指導し実施させたとして、国鉄法三一条の規定により停職三か月の処分を、同年一〇月五日に通告され、昭和六一年七月一日に発令された。

(争いのない事実、乙事件の甲第一三号証から第一九号証まで、乙第五九号証、第七一号証、第一二六号証、第一四三号証から第一四六号証まで、第一七八号証、第二五二号証、第二九〇号証、第二九七号証、第三〇三号証、第三一一号証、第三五一号証・七九頁以下、第三五三号証・五頁以下、第三五五号証、乙事件原告柴田敏夫本人尋問五五項から一〇三項まで)

(四)  原告柴田は、原告国労岡山地方本部が昭和六〇年四月以降実施したワッペン着用闘争を指導し、多数の服装整正違反者を出したとして、昭和六一年三月及び同年六月に、国鉄法三一条の規定により戒告の処分を二回受けた。

(争いのない事実、乙事件の乙第五九号証、第七一号証、第三五五号証)

(五)  昭和六一年九月二日、原告柴田は、専従許可の期間が満了し、岡山電力区人活センターに担務指定された。

(争いのない事実、乙事件の乙第六〇号証から第六二号証まで、第三五一号証・二四頁以下、乙事件原告柴田敏夫本人尋問九項から一二項まで)

(六)  昭和六一年一二月二九日、原告柴田は、第一希望欄に「西日本旅客鉄道株式会社」と記入し、第二希望欄から第五希望欄までには記載せず、意思確認書を提出した。

(乙事件の乙第三一号証、第三五一号証・一〇頁以下)

(七)  昭和六二年一月ころ、国鉄本社から岡山鉄道管理局に、昭和五八年四月一日以降停職六か月以上の処分又は二回以上の停職処分を受けた者は採用候補者名簿に登載しないようにという指示がされた。

国鉄は、原告柴田は昭和五八年四月一日以降に三か月の停職処分を三回にわたって受けており、承継法人の業務にふさわしい者に該当しないとして、原告柴田を参加人西日本会社の採用候補者名簿に登載しなかった。

(争いのない事実、乙事件の乙第三五五号証・七三頁以下、第三五七号証・七八頁から八〇頁まで、第三五九号証・四三頁・四四頁、乙事件原告柴田敏夫本人尋問二二項から二四項まで)

(八)  昭和六二年二月一六日、原告柴田は、当時の箇所長である岡山電力区長から「新会社への採用通知書が来なかったので通知する。したがって、自動的に清算事業団ということになる。」との電話連絡を受けた。原告柴田は、不採用の理由及び根拠について尋ねたが、同区長は「分らない。」と答えた。

(乙事件の乙第六六号証、第三五一号証・一三頁以下、弁論の全趣旨)

(九)  昭和六二年二月二〇日、原告柴田は、岡山電力区苦情処理委員会に対し、不採用の理由及び根拠が不明である旨の苦情の申告を行った。これに対し、同委員会は、「設立委員会が決定したことで、権限外のことであり、当事者能力がない。」として却下した。

この決定に対して、同委員会の組合側委員は、上級機関である岡山地方苦情処理共同調整会議に対して異議の申立てを行ったが、同会議は、同年三月五日、「審議の結果、各側(注・使用者側と労働組合側)の意見が対立し、結論を得るには至らなかった。」との裁定を下した。なお、国鉄岡山鉄道管理局と原告国労岡山地方本部とが締結した協約により苦情処理は二審制とされていたため、原告柴田はこれ以上の異議の申立てをすることができなかった。

(争いのない事実、乙事件の乙第六三号証から第六五号証まで、第一〇七号証、第三五一号証・一七頁以下)

(一〇)  昭和六二年三月九日、原告柴田は、岡山電力区長から、同月一〇日付けで人材活用担務の指定を解くとの通知を受けた。

同月二七日、原告柴田は、岡山鉄道管理局長から、清算事業団岡山雇用対策支部岡山雇用対策支所の勤務を命ずる旨の通知(昭和六二年四月一日付け)を受け、同年四月一日以降同支所で勤務に就いた。

(争いのない事実、乙事件の乙第六〇号証から第六二号証まで、第三五一号証・二四頁以下)

三 主要な争点

1 国鉄が行った承継法人の職員の採用候補者の選定及び採用候補者名簿の作成の過程において組合差別的な取扱いがされたとした場合、設立委員は労働組合法七条一号にいう使用者として不当労働行為責任を負うか。

2 1の場合において、国鉄は組合差別的な募集条件を付加したか。

3 原告中島、同大矢及び同柴田が参加人会社に採用されなかったことは、国鉄による組合差別的な取扱いであるということができるか。

第三当事者の主張

一  甲事件及び乙事件の各原告(以下「原告ら」という。)の主張

1  改革法二三条における立法目的及び立法者意思

(一) 改革法が目的とした職員採用の実態

承継法人は移行にあたって、車両、線路、駅舎、通信施設などの施設、大部分の国鉄管理職、大部分の国鉄職員を引き継いで、料金表も時刻表も変更することなく、一日の中断もなしに国鉄の事業を続行した。正に実態的には鉄道事業の営業譲渡である。

国鉄再建監理委員会意見にも、「当委員会は、余剰人員の問題を一括して一つの方法で解決するのではなく、移行前に希望退職募集時によりできるだけその数を減らし、移行時には旅客鉄道会社に経営の過重な負担とならない限度において余剰人員の一部を移籍し、その他は旧国鉄の所属とした上、一定の期間内に集中的に対策を講じて全員が再就職できるよう万全を期する」と記載されているように、国鉄職員は承継法人へ移籍するのであり、移籍されない職員も旧国鉄に所属するのであって、職員の振り分けであることの認識が示されている。また、国会における答弁においても、後記のとおり、職員の「振り分け」という言葉が多く用いられている。

このように、改革法は、引き継がれるべき職員に関して新たに「採用」するという形式をとったものの、それは国鉄職員振り分けの法技術的な表現にすぎず、また、国鉄の名簿作成行為も、承継法人に移行する職員と清算事業団に移る職員とを振り分ける作業の一環であった。

国鉄の分割民営化が一般の会社解散や新会社設立とは大きく性格を異にする事象であり、また承継法人への「採用」が一般の新規採用とは全く異なったものであることは、実態的には明らかであるし、また、二三条の解釈上も純粋な意味での「新規採用」と解釈することは不可能である。そのことを無視して、改革法の文理解釈のみから「採用」とは「新規採用」であると解釈し、二三条の文理を一人歩きさせることは、改革法の立法目的ないし立法事実に著しく違背する法解釈であるといわなければならない。

(二) 設立委員の責任に関する立法者意思

被告が、本件各命令において、職員の募集から採用に至る過程において最終的な権限と責任を負うのは設立委員であると解し、設立委員と国鉄の関係について国鉄を「補助機関」と見たのは、改革法の率直な読み方であるとともに、国会審議における法立案者(政府)や立法者(国会)の意思に即するものである。

すなわち、採用手続における設立委員に対する国鉄の関係は、国会審議において、繰り返し、「補助者」、「準委任」、「代行」であるとの説明がされた。これらの説明は、新会社における「採用」において基本的かつ最終的な責任を負うのは設立委員であり、国鉄は設立委員との関係においては補助的な地位にあること、すなわち、国鉄のした行為に関して設立委員がその責任主体であることを明確にしたものであるから、国鉄のした行為の責任が設立委員に及ぶということは、法立案者の明白な意思であった。また、法案審議を通して、立法者(国会)もそのことを了解して、改革法を法律として制定させた。

(三) 組合差別禁止に関する立法者意思

また、改革法二三条による職員採用手続において、組合差別を禁止するというのも、明白な立法者意思であった。

国会審議の経過の中で、労働組合の所属によって差別的に振り分けられるのではないかという危ぐに基づく質問が集中した。それは、当時、職員管理調書の作成、その中での国労組合員に対する差別的評価が問題とされ、また、人活センターに国労組合員が集中的に収容されるという事態が生じており、国鉄に名簿を作成させれば、国労組合員を不利益に取り扱い、新会社への移籍が不公正になされるのではないかと危ぐされたからである。改革法二三条に関する国会審議の最大の焦点は、まさにそこにあった。

そのような危ぐが生じた背景には、次のような事情があった。

(1)  昭和六一年一月一三日、国鉄当局は、鉄労、動労、全施労と労使共同宣言を締結し、同年七月一八日には、鉄労、動労、全施労等が改革労協を結成、同年八月二七日には、国鉄当局との間で、新会社への移行後も争議行為は自粛すること等も盛り込んだ第二次労使共同宣言を締結した。改革労協の結成総会には、国鉄当局の最高責任者で、後の設立委員である杉浦総裁も出席し、「私としても心強く、感謝している。」と発言する一方、国労に対しては嫌悪感を露骨に表すようになった。

(2)  国鉄本社の岡田圭司車両局機械課長は、「良い子、悪い子に職場を二極分化する」などの本社管理者の指示を出すなど、国労差別を職場の管理者に指示している。職員管理調書は、昭和六一年四月、全国一斉に国鉄職員を対象に、昭和五八年からの三年間の処分歴を調査したものであるが、そこでは、労働処分も査定の対象とされていること、労働組合活動への参加をマイナス査定していることなど、通常の人事考課においては見られない異常な考課査定が行われ、現実に国労組合員は不当に査定された。

(3)  人活センターは、昭和六一年七月一日から全国一斉に国鉄の各現業機関一〇一〇箇所に設置された。その配属にあたって職員管理調書が用いられ、同年八月一日現在で収容人員は一万二七三〇名であったが、そのうち、約八割が国労組合員であった(当時の国労の組織率は約四八パーセント)。

その結果、国会における政府の答弁においても、橋本運輸大臣は、「新たな会杜の職員は、国鉄職員の中から新会社の設立委員が提示する採用の基準に従い新規に採用される仕組みとなっておるところでありまして、その際所属組合等による差別があってはならない」と答弁せざるを得ず、また、「あくまでもこの基準というものは設立委員などがお決めになるものではありますけれども、私は、その内容について、所属する労働組合によって差別が行われるようなものではあってはならない」と述べている。

このように、改革法二三条については、組合差別をしてはならないと明白な国会答弁がされているのであって、承継法人への職員採用には、組合差別禁止という意味において採用の自由が制限されている。

さらに、参議院附帯決議においても、「各会社における職員の採用基準及び選定方法については、客観的かつ公正なものとするよう配慮するとともに、本人の希望を尊重し、所属労働組合による差別等が行われることのないよう特段の留意をすること」という決議がわざわざ行われている。

したがって、改革法を通過させた国会の意思は、不当労働行為を厳しく抑制し、禁止するというものであったのであり、その後の改革法二三条の解釈に当たっても、その趣旨が没却されるような法解釈が許される余地はない。

(四) 以上のとおりの改革法二三条の立法目的及び立法者意思に照らせば、改革法二三条における採用手続、すなわち、設立委員による採用の基準の作成、国鉄による採用候補者の名簿作成、設立委員による採用という一連の手続は、国鉄を分割し民営化するための職員振り分け手続であり、それを法技術的に定めたものにすぎず、また、一般に論じられる採用の自由論は、改革法二三条の手続には当てはまらず、むしろ、営業譲渡の法理を適用するのがふさわしいものであるといわなければならないから、採用候補者名簿の作成過程で組合差別の不当労働行為があった場合には、その責任は、設立委員、ひいては承継法人がこれを負わなければならない。

2  使用者性及び設立委員への帰責

(一) 労働組合法七条の不当労働行為制度は、憲法二八条の団結権及び団体行動権の保障を最も効果的に実現するとの目的から創設されたものである。そうすると、不当労働行為制度における「使用者」の概念も、当然のことながら「労働者の団結権及び団体行動権の保護」の観点から合理的に解釈されなければならない。したがって、労働組合法七条の「使用者」については、直接の労働契約関係にあるものにとどまらず、それに近似ないし隣接し、あるいは強い影響力を与えるものについても、「使用者」であることを肯定しない限り、労働組合法の制度目的を実現することができないというべきである。

労働組合法七条の「使用者」であるかどうかについては、一般に次の、過去・未来の労働契約の当事者は「使用者」たり得るか(時間的射程距離)、企業内部におけるだれの行為が「使用者」たり得るか(対内的射程距離)、企業外における第三者のうちだれが「使用者」たり得るか(対外的射程距離)の三つの局面における問題がある。

(1)  時間的射程距離の問題

団結権保障を実現するために、仮に労働契約上の使用者でないとしても、不当労働行為によってもたらされた違法状態を、迅速かつ的確に排除し、将来の正常な集団的労使関係の秩序の形成を図るためには、より実効的な相手方を使用者として、その者の支配介入を排除し、あるべき集団的労使関係を構築しなければならない。したがって、近い過去あるいは近い将来における労働契約の可能性ある者について、その使用者性が肯定される。例えば、営業譲渡や会社解散、新会社の設立、合併などの場合、直接の労働契約関係が存在しない新企業を「使用者」と見なければ、不当労働行為に対して実効性のある救済措置を講ずることは困難である。

(2)  対外的な射程距離の問題

一方、朝日放送事件判決(最高裁平成七年二月二七日第三小法廷判決・民集四九巻二号五五九頁)は、専ら対外的な射程距離の問題についての判断である。すなわち、同判決は、雇用契約上の雇用主の派遣元がその雇用する労働者を派遣先企業に派遣した場合、派遣先企業が当該労働者の労働条件について現実的かつ具体的に支配し決定することができる関係にあったとして、派遣先企業に団交応諾義務及び支配介入を認めた事案であり、労働条件の決定という事柄の性格上、現実かつ具体的な支配力がある場合については使用性を肯定するとの結論に至ったものである。右判決は、雇用契約上の使用者が存在している場合であっても、労働関係の実態からみて、第三者が労働組合法七条の「使用者」たり得ることを示したものであり、不当労働行為の制度趣旨を踏まえたものである。

このように、労働組合法七条の使用者の解釈は、現に行われている組合活動侵害行為に対して、組合活動侵害行為によって生じた状態を直接是正し、正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復かつ確保を図るために、支配力ないし影響力を有するだれに対して是正を命ずることが必要であるかという観点から決せられるべきであり、直ちに直接の雇用関係の存否に拘束されるものではない。

(3)  実質的同一性論

企業体の変動に際しての不当労働行為の成否について、労働委員会のとってきた伝統的な手法が「実質的同一性論」と呼ばれる理論である。この理論は、解散した旧会社と新会社とが営業実態や会社役員の構成その他の面で実質的に同一であると判断される場合は、旧会社の従業員に対する解雇が不当労働行為である以上、新会社に旧会社との労働関係は承継されているものとし、不当労働行為責任を負わせることができるという見解であり、企業変動の実態に即して、雇用契約の成立という視点のみにとらわれることなく、妥当な結論を導き出す理論である。

本件に即していえば、承継法人はその事業に必要な資産、施設、機構、営業の免許等のすべてを国鉄から引き継ぎ、事業は瞬時も休むことなく継続されるように法的に手当てがされていること、承継法人は国鉄からその資産の約八五パーセント、長期債務の約三五パーセントを引き繕いでいること(改革法六条から一一条まで、一三条)、承継法人の役員については代表取締役等の一部に国鉄出身者以外の者が就任しているものの、常任役員のほとんどは国鉄出身者で占められており、かつ職員はすべて国鉄から募集されていること、国鉄における労働関係、特に組合との労使関係、労務管理、労務政策等は実質上承継法人にそのまま承継されていること、国鉄の行った懲戒処分が承継法人に採用された後も継続され、さらに未処理の国鉄時代の服務規定違反の行為に対して清算事業団から「委任」を受けて承継法人が懲戒処分を行い得るものとされていること(改革法施行法二九条一項)、承継法人の職員となるものは退職金が支給されず、通算して承継されていること(改革法二三条六項、七項)などからすれば、国鉄と承継法人とは社会的、経済的に見れば実質的に同一であったということができる。

したがって、設立委員の地位は、実質的同一性のある企業の発起人に準ずる立場にあるものとして、再採用における使用者の地位と同視でき、労働組合法七条の使用者性をこの観点からも認めることができる。

(二) 改革法二三条は一項において、設立委員が国鉄を通じ、その職員に対し、承継法人の職員の労働条件及び職員の採用の基準を提示して、職員の募集を行う旨を定め、二項において国鉄は右の採用の基準に従い職員となるべきものを選定し、その名簿を作成して設立委員に提出するものとすると定めている。そして、名簿に登載された者のうち、設立委員から採用する旨の通知を受けた者が承継法人の職員として採用される旨が三項において規定されている。

このような改革法二三条の規定について、参加人は、同条の各段階における設立委員と国鉄の権限の範囲とその主体が法定され、相互に他の者の権限行使を規制し得る規定は存在しないので、国鉄の採用候補者の選定と名簿の作成は専ら国鉄の権限と責任にゆだねられており、設立委員の権限に属する採用候補者の選定及び名簿の作成行為を補助ないし代行しているとは解されないと主張する。しかし、右のように同条の形式的文言的解釈によって職員採用過程を分断し、設立委員と国鉄を全く切り離して理解することは、職員の採用行為・手続の実態に合致しない。募集、名簿作成、採用決定という一連の過程は一体のものと理解されるべきであるし、規定の文言、立法者の明確な意思からも、新会社における採用において、基本的かつ最終的な責任を負うのは設立委員であると解されるからである。

また、改革法二三条は全体として、国鉄職員と設立委員(承継法人)との間の「採用」、すなわち、労働契約の成立という私法上の関係を規定している。この私法上の契約の成立についての当事者(法主体)は、設立委員と国鉄職員である。したがって、国鉄は、本件採用によって成立する労働契約の当事者ではなく、また、労働組合法七条に定める使用者でもない。国鉄の果たす採用手続上の役割は、設立委員、国鉄職員間の労働契約の成立に向けてのものであり、採用手続過程における企業側の事実行為という性格を持つものである。

そうすると、設立委員が改革法上、承継法人の職員の募集・採用の主体であり、したがって、採用の全過程において最終責任を負うものであることも疑う余地のないところである。

(三) 不当労働行為制度の特徴は、不当労働行為の実行行為者とは別の法的主体にその責任を帰属させるところにある(管理職の不当労働行為責任が企業それ自体に帰属する)。そのことによって、団結権侵害の事態を除去することができ、原状回復を図ることができるからであり、この点こそが、不法行為とは異なった不当労働行為制度上の責任論の特質である。国鉄の行った不当労働行為の責任が設立委員の指揮監督権・支配関係、ましてやその認識の有無にかかわらず、設立委員に帰属すると解される(以上の見地からして、被告が主張するように、国鉄を設立委員の補助機関(代行機関)ととらえて設立委員の責任を論定することも肯定される。むしろ、改革法の趣旨、運用の実態に即した簡明な理解として、適正かつ優れた解釈というべきであり、原告らもこの点についての被告の主張を支持するところである。)。

(四) 設立委員への帰責に関して、自己責任の原則の見地から設立委員に独自の帰責事由の存在を求めることは誤りである。そもそも自己責任の原則の見地とは、自らの行為についてだけ責任を負うという原則であり、過失責任主義とともに、主として不法行為上の損害賠償責任についていわれてきた考え方であり、不当労働行為責任についてこの原則を持ち出すことは誤りである。また、前記のとおり、不当労働行為制度における責任帰属の特徴は、不当労働行為の実行行為者とは別の法的主体にその責任を帰属させるところにあるから、国鉄と前記の関係にあって承継法人の職員の採用にかかわっている設立委員が不当労働行為責任の帰属主体となることは何ら異とするものではない。

しかし、仮に、設立委員について独自の帰責事由の存することが必要であると解する考え方に立っても、次の理由により、本件設立委員について不当労働行為責任の存することは明らかである。

不当労働行為と目される行為を行う者に対し、自らの持つ権能により間接的であれ、直接的であれ、指揮監督し、あるいは支配・決定することができる地位に自己が立っているという客観的関係にあれば、帰責を肯定することができると考えられる。これを本件に即して検討してみると、次の点からして、設立委員に国鉄に対する審査権があるということができる。

(1)  設立委員の設定する採用の基準は資格要件を定めるものであると同時に、人材選択の基準でもあると解される。これは、採用の基準三項「日本国有鉄道在職中の勤務状況からみて、当社の業務にふさわしい者であること。なお勤務の状況については、職務に対する知識技能及び適性、日常の勤務に関する実績等を、日本国有鉄道における既存の資料に基づき、総合的かつ公正に判断すること。」との文言を見ても明らかであるし、国鉄による経営が破綻し、新たな経営体制の確立が必要との判断の下に国鉄改革を実施することとしたのであるから、採用権者としては、新しい承継法人を担う職員として、それにふさわしい者を選定するために、どのような人材を選ぶべきかの選択の基準を設定することは当然のことと解されること、逆に、経営の将来を左右することとなる職員の採用に関し、その判断の根幹である採用候補者選定の判断基準を経営を破綻させた当の国鉄にその権限を付与することは妥当ではないと解されること、以上の点からして明らかである。

一方、国鉄が採用の基準に従って膨大な員数を選別して名簿を作成する以上、国鉄が右採用の基準に示されたところに従って、その範囲内でこれを実施するための運用基準を設定することは、国鉄に許された権限と解される。しかし、採用の基準は右のように解されるから、この運用基準は選択の基準ではない。選択の基準は設立委員によって定められて国鉄に示されているので、国鉄にとっては所与のものである。

そうすると、設立委員は、その定立した採用の基準に合致するものを選定し名簿に登載すべきことを国鉄に求めており、また、国鉄は、示された採用の基準に従って選定し名簿に登載することとされていることになるから、採用の基準は、国鉄を拘束し、一種の規範性を有するというべきである。

したがって、設立委員は、国鉄が設定した運用基準が自ら示した採用の基準と適合しているか否かを審査する責任と権限を有していると解される。

(2)  以上のほか、設立委員が改革法二三条により国鉄に示す採用の基準には、立法者の明確な意思の下、組合活動のゆえにあるいは組合所属によって、採用に関し差別をしてはならない旨が一つの基準として内在していると解されることも併せ考えれば、

ア 設立委員は、国鉄が設定した運用基準が、自ら示した採用の基準と適合しているか否かを審査する責任と権限を有していること

イ 国鉄が立てた運用基準が採用の基準に適合していたとしても、設立委員は、その運用、適用が公正・妥当であるか否かについても、これを審査する責任と権限を有していること

ウ 審査の結果不適正であれば、設立委員は、その運用基準及びそれらの運用、適用の結果についても是正を命ずべき責任と権限を有していること

以上のことが導かれる。

改革法施行規則一二条において、国鉄の作成した採用候補者の名簿には、当該名簿に記載した職員の選定に際し、判断の基礎とした資料を添付するとされているのも、以上に見た審査権の存在を前提としているがゆえであると考えられる。

(3)  本件は、設立委員は、右の審査そのものを、どの段階、機会においても、これをしないまま、国鉄によって作成された名簿に従って採用したのであるから、つまるところ、国鉄による職員としての適格性判断をもって自らの判断として採用を決定した。したがって、その採用・不採用についての不当労働行為の責任を設立委員が負うのは当然である。

国鉄において、採用候補者名簿の作成の中心となったのは職員局である。国鉄職員局は、葛西職員局次長の国労敵視発言に見られるように、国労破壊の先頭に立ってきたところであり、その担当者らによって名簿が作成された。国労に対する不当労働行為を行ってきた当事者が、差別的名簿を作成したというのが実態である。しかも、設立委員会の事務は、運輸大臣官房内に設けられた設立委員会事務局において行われる体制が取られたが、その実務作業は、実質的に国鉄の職員局の担当職員が派遣されて行った。国鉄による名簿作成と設立委員による採用決定は、実質的には、一体となって行われた。

また、国鉄は、名簿を設立委員に提出するに際し、当該名簿に記載した職員の選定に際し、判断の基礎とした資料を添付すべきものと定められていた(改革法施行規則第一二条第二項)。

ところが、これらの採用候補者の選定と名簿作成の過程において、設立委員が、国鉄に対し、不当労働行為防止のための指揮監督権限を行使した事実は全くない。特に、本件を含む本州、四国関係では、定員の欠員状態にあったのであり、採用を希望しながら名簿に登載されなかった者について、設立委員において、国鉄の提出に係る名簿に添付された資料等を調査し、所属組合等により名簿から除外された者の有無について調べ、その除外された者を名簿に登載するよう指揮監督すべき責任があった。しかし、設立委員は、国鉄に対する指揮監督権限を一切行使することなく、国鉄の名簿をそのまま容認して国労の役員・活動家の不採用を決定した。国労は、昭和六一年一二月、二度にわたり、設立委員への要請書を提出し、「採用条件については、参議院における附帯決議の主旨に則り、所属労働組合の相違や過去の労働処分またはこれに類似する行為を内容としないようにしていただくこと」等を要請している。しかし、この要請も設立委員によって無視されている。

これらの経過からしても、新会社の職員採用に当たり、設立委員は、国鉄に対する指揮監督権限を一切行使することなく、国鉄の差別的名簿を容認し、それに基づき採用決定を行ったのであり、指揮監督権限の行使を怠った責任を免れないものである。

(4)  設立委員は、採用の基準三項において前記のとおり定めているが、国鉄は、その運用基準として、「過去三年間に停職六か月以上の処分または二回以上の停職処分を受けた者は、新会社の業務にふさわしいものとはいえず、採用候補者から除外する」との基準を定めて選定・名簿登載をした。しかし、右の運用基準は採用の基準三項に適合しない。その理由は、

ア 業務にふさわしい者を選定するについて、停職処分等を受けた者を、一律に画一的に業務にふさわしいものとはいえないとするのは、採用の基準のいう総合的判定・判断ではない。そもそも、停職処分は免職処分とは異なり、企業体からの排除まで企図された処分ではないのであり、一層右の不当性が著しい。原告らは、停職六か月の処分を受け、さらに選定されず、名簿に登載されなかったことによる予告付解雇の二重の処分を被る結果となる。

イ 過去三年間の停職処分に限定し、かつ、過去三年間の労働処分について職員管理調書に示された評定結果を基にすることは、動労と比較しての組合間差別を意図したものである。したがって、労働組合法七条の不当労働行為を禁圧する趣旨をその内在的原理としている採用の基準に反している。

ウ 右の処分には、いわゆる労働処分を含んでいる。これは労働者の職業的適格性ないし職業的態度などの労働能力とは関係がなく、むしろ労使関係における紛争による処分を理由に不利益取扱いを行うことになるので、不当労働行為を誘発しかねない。

という点にある。

設立委員は、国鉄から右の運用基準の報告を受けた時点で、これを審査し、是正することによって採用の適正を期するべきであったし、そのことは可能であった。しかし、設立委員は、これについて是正させなぃまま国鉄に選定させ、名簿を作成させている。したがって、不当労働行為責任は設立委員に帰属すると解される。

なお、国労以外の他労組の組合員や、国労の組合員であっても脱退の意思を表明していた一般組合員については、国鉄が名簿に登載した事実があり、その人数は、これまで判明したものだけでも一二名に及んでいる一方、国労の役員、活動家については、国鉄は画一的にこの基準を適用して名簿への登載から除外した。国鉄の定めた運用基準が画一的処理を図るものであって、設立委員の定立した採用の基準に適合しないものであることは前記のとおりであるが、実際には、この運用基準は、国労の役員、活動家を不採用とする不当労働行為目的で恣意的に運用されたのである。

(五) 以上のとおり、設立委員は、国鉄による国労組合員等に対する差別的選定及び名簿の作成について、その事実の認識いかんにかかわらず、採用行為の主体として、当然に不当労働行為責任を負うべきものと解すべきであるが、他方、次のとおり、設立委員自身が右事実を認識していたことが認められる。

(1)  共通設立委員の中で最も重要な役割を果たした杉浦喬也は、国鉄総裁であり、国鉄の最高責任者として国労攻撃を主導した者であり、しかも、名簿作成の最高責任者でもあり、国鉄の一貫した国労攻撃や名簿作成における国労組合員差別を積極的に行ったものである。

同じく共通設立委員の住田正二は、元運輸省鉄道監督局長として、国鉄を監督する立場にあり、国労等国鉄内部の労働組合の動向を熟知していた者である。しかも、昭和六二年四月、東日本旅客鉄道会社の社長に就任したが、その直後に聞かれた東鉄労の大会におけるあいさつで、「東鉄労以外にも二つの組合があり、その中には今なお民営分割反対を叫んでいる時代錯誤の組合もあります。」等と国労非難の発言を公然と行っており、分割民営化の前後を通じ、国労に対する嫌悪感を持っていた。

共通設立委員の亀井正夫は、国鉄再建監理委員会委員長を務め、国鉄の労使関係について熟知していた者である。また、自ら月刊誌において「国労と動労を解体しなければダメだ。戦後の労働運動史の終焉を、国鉄分割によって目指す。」と述べるなど、国鉄分割民営化により国労解体を目指すことを公然と明らかにしていた者であり、国労に対する嫌悪感を持っていた。

その他の設立委員についても、人材活用センターにおける国労組合員に対する人権侵害についての報道や、国会における国鉄の国労攻撃についての質疑等を通じ、国鉄の国労攻撃の実態を知っていたものであり、そのような状況を容認していたものといえる。

(2)  以上に加え、国鉄職員局と設立委員会事務局との関係からすれば、国鉄による名簿作成と設立委員による採用決定は実質的には一体となって行われたことは前記のとおりであり、設立委員会事務局の認識はとりもなおさず設立委員の認識であったと評価されること、前記のとおり、国労が設立委員に対して、採用の条件は参議院附帯決議の趣旨に則ること等を内容とする要請書を提出したこと、以上の事情も挙げることができる。

3  新規採用と不当労働行為

(一) 新規採用において労働組合の組合員であること等を理由とする雇入れの拒否について、採用を行った会社の使用者性及び不利益取扱性を肯認し、労働組合法七条一号の不利益取扱いや同条三号の支配介入に該当するとして、労働者及びその労働者が加入する労働組合を擁護する法理は、労働委員会の命令として定着し、学説上も通説と評しうるまでの多数の支持を受けているところである。

その根拠は、次のとおりである。

(1)  労働組合法七条一号本文前段は、「労働者が労働組合の組合員であること…の故をもって、その労働者…に対して不利益な取扱をすること」を禁止しているのであって、不利益取扱いから不採用を除外する旨の明示の文言がないことはもちろん、同条二号のように、明文で「雇用する労働者」と限定していないのであるから、同条一号本文前段を労働契約締結後の段階に限るものと解釈することは、文理からしても許されない。

(2)  労働組合法七条一号本文後段の黄犬契約の禁止は、企業から特定の、あるいは一切の労働組合を排除することによって最も効果的に労働者の団結権行使を制限する行為として、労働組合運動の初期においてしばしば見られたため、それを特別の不当労働行為の類型として禁止したものである。我が国においては、これまでは企業別組合が支配的であったが、それでも職業別、産業別組合などの労働組合が企業外にある例は多く、雇用の流動化が進む今後はますますその増加が予想される。労働組合法が、そのような企業を横断した労働者の団結権を否定するものとは考えられない。

そして、企業が特定の労働組合の組合員を採用の選考において当該組合員ではない応募者に比してより不利益に取り扱うことを意図して、それを応募者等に明らかにしないまま採用行為を行い、労働組合員の一部については採用し、残りの者については不採用とした場合、形式上は黄犬契約と解することは困難であるが、このような実質的には黄犬契約と同質の使用者の行為が何らの違法評価を受けないと解することは、労働組合に所属する組合員にとっては重大な威嚇であり、労働組合の組織や活動に与える阻害的影響は計り知れない。

(二) 参加人は、新規採用と不当労働行為について、三菱樹脂事件最高裁昭和四八年一二月一二日大法廷判決(民集二七巻一一号一五三六頁)を引用して、本件採用に不当労働行為が成立する余地がない旨主張している。

しかしながら、採用の自由は不当労働行為制度によって一定の制約を免れない。同判決の妥当性についてここでは論ずるものではないが、少なくとも同判決においても、「採用の自由」といえども「法律その他による特別の制限」に服するものであるとし、同判決のいう「法律その他の特別の制限」には不当労働行為に係る制限が当然に課されているのである。その意味では、使用者の私的自治は、憲法、労働組合法の団結権保護を通じて労働組合と使用者との団体交渉で実現していくものであると修正されたものといえるのである。そして、改革法では労働組合法七条を排除していないのであり、このことは国鉄改革における「採用」の自由と労働組合法七条の関係においても妥当するものである。

加えて、そもそも同判決が問題としているのは、思想、信条の自由と採用の自由の関係についてである。同判決は、思想、信条の自由の法的根拠となる規範は、憲法一四条及び同法一九条であるが、それらはいずれも自由権的基本権であり、専ら国または地方公共団体と個人との関係を規律するもので、私人相互の関係を直接規律することを予定するものではないこと、私人間の権利関係の対立の調整は、近代自由社会においては原則として私的自治にゆだねられること等を理由にして、思想、信条を理由とする採用差別を違法とはいえないと判示した。ところが、労働組合等を理由とする採用拒否については、その法律関係を全く異にする。すなわち、憲法二八条の団結権等の労働三権の保障は、自由権的基本権ではない。社会権的基本権である。しかもそれは、プログラム規定でもなく、直接的に労使の私人間の権利関係保障をも規定している。そして、その労働三権の保障によって、労使の対等な関係の実現を図る性格のものとして、「近代自由社会の私的自治」のあり方そのものを修正している。労働組合法一条の目的規定及び同法七条の不当労働行為禁止規定は、憲法二八条をさらに具体化し、使用者の私的自由による労働三権の侵害を積極的に排除したものである。

したがって、最高裁三菱樹脂事件判決に示された判断は、本件についてはその拘束性を有しないものである上、そこで示された判断枠組みにおいても、右憲法二八条ないし労働組合法一条、七条の禁止については、「法律その他の特別の制限」であると解釈されるべきものであり、参加人の主張は理由がない。

(三) ILO条約における採用差別の禁止

雇入段階での不利益取扱いとしての雇入拒否が、団結権侵害に当たるものとして十分な保護を受けるべきものであることは、我が国も批准しているILO条約において承認されているところであって、労働組合法七条一号の不利益取扱いから雇入拒否を排除することは、この条約にも違反する。

すなわち、一九四八年の国際労働機関(ILO)の総会で採決され、その後昭和四一年六月に批准、公布されたILO八七号条約(結社の自由及び団結権の保護に関する条約)一一条では、「この条約の適用を受ける国際労働機関の各加盟国は、労働者及び使用者が団結権を自由に行使できることを確保するために、必要にしてかつ適当なすべての措置をとることを約束する。」と規定している。さらに、一九四九年の総会で採決され、昭和二九年一〇月に批准、公布されたILO九八号条約一条一項及び二項では、労働者は、「組合員であるという理由又は労働時間外に若しくは使用者の同意を得て、労働時間内に組合活動に参加したという理由で労働者を解雇し、その他その者に不利益な取り扱いをすること」から、十分な保護を受けることを規定しており、採用時における反組合的差別が右条約によって禁止されていることは明らかである。

ILO結社の自由委員会では、この点について、「条約に定められている保護は、採用時、および離職時を含む全雇用期間中を対象にするものであると本委員会は考える。」、「九八号条約第一条は、就職時と離職時を含む雇用期間中に、反組合的差別行為に対する適切な保護を保障しており、全ての反組合的差別措置(解雇、配転、降格および他のあらゆる不利益行為)を対象としている」としている。

4  改革法の「採用」と新規採用

(一) 採用の自由の内実は、次の五つの自由が挙げられる。すなわち、<1> 雇入れ人数決定の自由、<2> 募集方法の自由、<3> 選択の自由、<4> 契約締結の自由、<5> 調査の自由である。改革法二三条の採用の性質を考える場合、この五つの自由のメルクマールから、全く私的自治の下での採用といえるか否かが検討されなければならない。

(1)  雇入れ人数決定の自由について

承継法人の雇入れの人数の決定については、承継法人ないし設立委員には、その決定権限が全くない。すなわち、承継法人各社の職員数は、運輸大臣が定める基本計画(改革法一九条二項三号)に従うこととされているところである。これは、改革法がその枠組みの中で(国鉄)職員の雇用を一定保障すべきであるという雇用保障の要請を本来持つ立法であったからであり、通常の新規採用の場合とは全く局面を異にするからである。

(2)  募集方法の自由について

承継法人の社員の採用は、国鉄職員からのみに限定されており(改革法一九条二項三号、二三条)、その募集方法も設立委員が国鉄を通じて、その職員に対し、それぞれの承継法人の職員の労働条件及び職員の採用の基準を提示して募集を行うこととされている(同法二三条一項)。さらに、国鉄が、設立委員から提示された右募集条件を職員に提示した後に、承継法人の職員となることに関する職員の意思を確認し、承継法人別にその職員となる意思を表示した者の中から、当該承継法人に係る採用の基準に従い、その職員となるべき者を選定し、その名簿を作成して設立委員等に提出し、その名簿から設立委員が採用する職員を選定し、採用通知を行う(同法二三条二項、三項)。設立委員が国鉄に示す職員の労働条件の内容、提示の方法、職員の意思確認の方法等、採用手続に関する事項については、運輸省令で定める(同法二三条四項)。そして、改革法施行規則九条では、就業の場所、業務、労働時間、休憩、休日、休暇、賃金、昇給及び退職に関する事項について、運輸省令で定めることとされている。

このように、設立委員の募集は、採用対象者及び採用手続のいずれにおいても、右法令の範囲内で行わざるを得ず、その自由は著しく制限されている。

(3)  選択の自由について

前記のとおり、承継法人の職員は、国鉄職員からのみ採用し、かつ採用の基準の提示が義務づけられている(改革法一九条二項三号、二三条)。さらに、改革法等の制定過程において参議院附帯決議が行われるなど、その選択についてはとりわけ、不当労働行為が行われることがないことが求められていたことは注意しなければならない。

このように、承継法人の採用については、その選択の自由も著しく制限されている。

(4)  契約締結の自由について

前記のとおり、設立委員が国鉄に示す職員の労働条件の内容、提示の方法、職員の意思確認の方法等、採用手続に関する事項については、運輸省令で定める(改革法二三条四項)。そして、改革法施行規則九条では、就業の場所、業務、労働時間、休憩、休日、休暇、賃金、昇給及び退職に関する事項について、運輸省令で定めることとされており、労働契約内容の自由が制限されている。さらに、国鉄の行った懲戒処分は承継法人に引き継がれることとされるし、承継法人の社員になる者には、退職手当を支給せずに、将来承継法人を退職する際に国鉄職員としての在職期間と承継法人での期間を通算して退職手当算定の基礎とし、また有給休暇の扱いも通算すべきものとされている(改革法等施行法二九条一項)ことも、労働契約内容の法令による特別な制限である。

(5)  調査の自由について

設立委員の採用手続は、前記のとおり国鉄にその採用手続の実際をゆだね、国鉄が作成した採用候補者名簿に基づいて、新職員を決定することとされており、その意味で職員採用の調査の自由も制限されている。このように、新規採用の五つのメルクマールから見ても、改革法等が定める承継法人の採用手続は、通常の私企業の新規採用手続とは全く異質なものである。

(二) 承継法人の設立に当たっては、設立委員の採用の自由の前提となる承継法人の営業の自由についても、国鉄から承継する資産・事業の内容(改革法六条から一一条まで)、国鉄から承継する債務の内容(同法一三条)、新会社への事業等の引継に関する基本計画(同法一九条)などにより様々な制約が付されている。これら改革法等の規定の結果として、承継法人は、車両、線路、駅舎、通信施設などの施設、料金表、時刻表等のシステムを承継して、事業活動を中断することなく続行することとされた。

(三) このように、改革法の定める設立委員の権限、責務及び承継法人の営業の自由は、すべて改革法等関連法令の制限の枠内で与えられたものであり、分割・民営化の実態は、商法でいうところの、国鉄の承継法人への営業譲渡の実質を有し、また、国鉄と承継法人との実質的な同一性、連続性を基礎とすれば、職員の再採用の場合に極めて類似する実質を有している。そして、承継法人への採用は、実質的に継続性を有する企業体の経営形態を改革するに当たって、従来の国鉄職員から承継法人に承継される者を選定するための手続であったが、実際のところは本州における採用手続の実際にみられるとおり、除外すべきものを選別するために「採用」という形式がとられたものにすぎない。そこには、いわゆる「採用の自由」が認められるべき基礎が欠けている。

(四) したがって、原告は、純然たる新規採用についても黄犬契約以外についても労働組合法七条の不当労働行為は成立するとの解釈に立つものであるが、仮に新規採用について労働組合法七条の適用を制限する立場に立ったとしても、本件採用については、新規採用と見ることはできない。したがって、設立委員の本件採用に関する行為については、労働組合法七条の不当労働行為性が認められる。

5  予備的主張

仮に、採用拒否は一般的には不利益取扱いに該当しないとの見解を採るとしても、労働組合法七条一号本文後段の黄犬契約禁止規定に該当する不当労働行為の成立が認められるというべきである。

すなわち、国鉄当局は、杉浦総裁を先頭に、国労の弱体化、壊滅を企図し、改革法案上採用候補者の選定及び名簿の作成を行うという立場にあって、分割民営化時点で大量の人員が承継法人から排除されるということを最大のてことして、国労にいては承継法人に採用されないという強制的威嚇を行い続けた。具体的には、後記7、(一)、(1) から(10)までの事実が挙げられ、さらに、本件転換教育について、国鉄の分割民営化に反対している国労組合員と二人の全動労組合員に限って、一方的に指名して受講命令が出され、余剰人員への特定化がされた事実が挙げられる。

このような国鉄当局の間断ない攻撃の中で、一人一人の国労組合員が、不採用を覚悟で国労に残るか、国労を脱退して承継法人への「パスポート」を得るかの極限的な選択を迫られた。

したがって、国鉄はそのような国労組合員を不利益に取り扱って名簿に登載しなかったのであり、原告らはその結果承継法人に不採用となったのであるから、本件不採用は実質的に見て国労組合員でないことを募集・採用の条件としたものということができ、黄犬契約に該当若しくはこれと同視し得るものとして不当労働行為が成立するというべきである。

6  最近のILO勧告について

国際労働機関(ILO)の結社の自由委員会は、平成一一年一一月四日、五日及び一二日にジュネーブにおいて開催され、国労と全動労から申立てのあった案件について報告をとりまとめ、同報告は、同月一六日から一九日にかけて開催されたILO理事会本会議に提出され、採択され、正式に日本政府に勧告された。

勧告内容(結社の自由委員会報告二七一項)は、

<1> 鉄道会社各社が多くの国労及び全動労組合員の採用を拒否した理由に関する日本政府への情報提供の要請。

<2> 関係労働者の救済のために、鉄道会社各社と申立組合との間の交渉を促進することの要請。

<3> 条約は自由意思で批准されているのだから、司法機関を含むすべての国家機関は結社の自由に関するILO条約の適用を保障する責任が日本政府にあること、裁判所の決定が、九八号条約と調和すべきこと。

<4> 反組合差別に関する案件が効果的に救済されることを求めること。

などの内容となっている。

また、結社の自由委員会報告二六九項は、国労事件、全動労事件が東京高裁、東京地裁に係属中であることに強い関心を示し、その結果が、九八号条約に沿ったものとなることを信じていると報告している。

改革法二三条をいたずらに形式的に解釈し、労働基本権への配慮を欠落させるような判断は、右ILO勧告に反する。ILO勧告の趣旨に即した改革法二三条の実質的な法解釈が求められる。

7  国鉄による不当労働行為

(一) 分割民営化に向けた一連の不当労働行為

再建監理委員会が政府に出した答申により、当時の国鉄職員の実に三分の一にあたる八万五〇〇〇人の削減が実施されることになった。この大量人員削減を含む分割民営化実施のために、それに反対した国労や全動労に対し、国鉄当局から激しい弾圧や差別攻撃が加えられた。これらの攻撃は、分割民営化の強行による国労等の破壊という一貫した目的を持った一連の不当労働行為として行われた。それは、国鉄が行った各施策のすべてにおいて、必ず、国労や国労組合員に対する差別扱いが組み込まれ、それらの施策の強行によって、国労破壊を完成させるという、いわば構造的な不当労働行為として行われた。具体的には次のとおりである。

(1)  第一次労使共同宣言は、国鉄当局が国労を弾圧し、その組織を縮小させ、ついには、分割民営化反対とその背景にある労働組合の自立性の堅持、労働条件の維持、向上という国労の基本的方針の変更を迫り、国労を変質、解体することを目的として露骨かつ強力に推進していくに当たり、その象徴的なものであるということができる。杉浦総裁は、昭和六一年一〇月二一日の衆議院日本国有鉄道改革に関する特別委員会(以下「衆議院特別委員会」という。)において、「過去一年あるいは一年半の出来事を振り返ると信頼関係を樹立することができる組合とそうでない組合とが明瞭に分かれてきた」、「労使共同宣言に調印できないあるいはすることに反対である組合に対しては信頼は持てない」と明言し、労使共同宣言に賛成か反対かによって決定的な差異があることを明確に述べている。

(2)  職員管理調書の処分の記入は、昭和五八年四月一日以降で通告日ベースである一方、動労が闘争に関して受けた最後の労働処分は、昭和五八年三月二六日に通告されたものである。動労との労使共同宣言締結後に職員管理調書の作成が通達されたことも考え併せると、職員管理調書の作成が国労組合員を不利に扱うように仕組まれたことは明らかである。

しかも、職員管理調書作成の実態は、分割民営化に反対している国労にいると点数が悪くなるとか、分割民営化反対の集会に参加した者については評定を下げるなどというものであった。

(3)  葛西職員局次長は、昭和六一年五月二一日に、動労の会議において、「山崎の腹をぶん殴ってやろうと思っています。」と述べた。

(4)  岡田車両局機械課長は、昭和六一年五月、全国の各機械区所長に対し、国労攻撃を指示する文書を送付した。

(5)  全国で、国鉄現場において、管理職による国労脱退工作が行われた。

(6)  昭和六一年七月一日から人活センターが設置されたが、そこでの実態は、ベテランの車両修理技術者や運転士に、竹細工や文鎮作りをさせたり、駅員に元の職場の床掃除をさせるなど、まさに嫌がらせとしか考えられないようなものであった。

また、人活センターへの配置は即承継法人への不採用に通じるとの考えが一般的になっていった。

国鉄当局は、そのような人活センターに、国労組合員を集中的に配置した。すなわち、昭和六一年一一月一日現在で、国労は四八パーセントの組織率であったのに、人活センターへ配置された者の八一パーセントが国労組合員で占められた。

(7)  国鉄は、動労等他労組との一体化の進展を図り、杉浦総裁は他労組を賛美する発言を行った。

(8)  昭和六一年八月二七日、国鉄当局と改革労協は、第二次労使共同宣言に調印した。この宣言は、民営分割による国鉄改革を共通の目標として明示した上、「労使は国鉄改革労使協議会が今後の鉄道事業における労使関係の機軸として発展的に位置づけられるよう、緊密な連携、協議を行う。」として、露骨な国労排除の意図を表明した。

(9)  国鉄当局は、第二次労使共同宣言締結の翌日、動労のみに対して二〇二億円訴訟を取り下げ、国労敵視の意図を露骨に表明した。

(10) その後も、国鉄当局は、国鉄改革法の成立とともに、国労攻撃を熾烈化させ、大量の国労組合員につき承継法人への採用拒否、採用差別を行った。

(二) 甲事件における停職処分の不当労働行為性

三電車区の分会は、国労大阪地方本部の中でも国労組合員の比率が高く、ストライキや組合活動への参加率も高いなど、同地方本部を支える中心的分会であった。三電車区が運転業務上大鉄局の最も枢要部分を担当していることにも照らすと、本件転換教育が三電車区に対して実施されたのは、国鉄当局が国労破壊の意図の下に行ったことは明らかである。

ところで、いわゆる広域異動は昭和六一年五月から始まったが、これによって大阪に異動してきた総人員数は合計一〇二七人に上った。第一陣の広域異動によって大阪に異動してきた七四五人のうち二五四人が、高槻、宮原、明石、網干、淀川、森ノ宮、向日町の各電車区に配属された。この中でも宮原電車区に対する配属は異常に高率であった。そして、これらの配属者の組合別内訳は圧倒的に動労組合員であり、そのほとんどが電車区に配属された。その結果、電車区職場における組合別構成比率に大きな変化が生じ、国労の比率が大きく低下した(血の入替え)。この結果、従来の運転士等が余剰人員化され、職場では、分割民営化により余剰人員は承継法人に採用されないとして、雇用不安が渦巻いていた。

さらに、国鉄は、これら動労組合員の電気機関士に電車運転士への転換教育(ELからECへの転換教育)を受けさせ、電車(EC)の鉄道本来業務に就かせる一方、原告中島及び同大矢を含む国労組合員(しかも、主として国労の役員・活動家)に対しては本件転換教育(ECからELへの転換教育)を受けさせた。しかし、電気機関車は貨物列車や夜行列車の削減によりどんどん減らされており、電気機関車の機関士や検査係の要員を転換養成する必要性はなかった。

このような転換教育受講の命令は、事実上、受講者に対する余剰人員としての特定化の決定であった。当局は、国労の抗議により、その意図を隠ぺいするために、後日他の電車区における第二回、第三回の転換教育を形式上実施したが、第二回、第三回の転換教育は、第一回の転換教育実施当時計画されていなかったものである。

これに対し、国労大阪地方本部が、転換教育が強行されたことに抗議し、転換教育の必要性、元職場復帰等について釈明要求する等の行動を行ったことは正当なものである。そして、国労大阪地方本部の下部組織の分会役員として、同地方本部の指示に従い、これらの行動に参加した原告中島及び同大矢の行動は正当なものであり、その行動に対する停職六か月処分はそれ自体不当であるが、さらに、処分の内容は、行動を指示した上部組織である地本役員の処分よりも重い上、昭和五〇年に行われたスト権ストに対する処分と比較しても著しく過酷な処分であるということができる。これは、右両名の正当な行為に対する報復的処分といわざるを得ず、不当労働行為に該当するものである。

(三) 乙事件における停職処分の不当労働行為性

原告柴田が参加人に採用されなかった理由は、国鉄の前記運用基準を適用された結果、国鉄の採用候補者名簿に登載されなかったためである。しかし、原告柴田に関しては、この運用基準の適用は全く不合理なものであった。すなわち、設立委員の決めた採用の基準は、「日本国有鉄道在職中の勤務状況からみて、当社の業務にふさわしい者であること」ということであったが、原告柴田は昭和五八年四月以降ほとんどの期間(昭和五八年一〇月三日から昭和六一年九月二日まで)国鉄の職場で勤務しておらず、労働組合の専従休職者であったから、「日本国有鉄道在職中の勤務状況からみて」との判断期間は、昭和五八年四月から同年一〇月二日までと、昭和六一年九月三日以降の、原告柴田が国鉄に勤務していた時期とならなければならないはずである。しかし、その期間においては、原告柴田は何ら懲戒処分(停職処分)を受けていない。したがって、原告柴田は、国鉄により採用候補者名簿に登載され、設立委員から採用通知を受けるべき者であったというべきである。

これがあえて不採用となったのは、原告柴田が国労の役員であったことを理由とする国労嫌悪の不利益取扱いとしての不当労働行為以外の何ものでもない。

二  被告の主張

1  本件各命令の理由の要旨

(一) 承継法人の職員採用手続における国鉄と設立委員及び承継法人の関係について

改革法が承継法人の職員の採用手続に国鉄を関与させたのは、国鉄改革に当たり承継法人には、その発足と同時に鉄道輸送業務などの国鉄の主要な業務を引き継がせ、その事業を中断することなく継続させることが要請されるという業務上の特殊性が存し、また、経営の破綻状態から脱却させるための国鉄改革を緊急に行うべく、昭和六二年四月一日に新事業体による業務の開始日が法定されているという事情があり、かつ、承継法人の職員の募集の対象者は国鉄職員に限定され、採用者を選定する資料は国鉄のみが有しており、設立委員自らが採用者の選定を行うことができない事情にあったことから、本来設立委員のなすべき手続の一部を国鉄にゆだねたものと解するのが相当である。このことは、<1> 承継法人の設立委員は承継法人の職員の労働条件及び採用の基準を国鉄に提示すると規定し、また、同項が承継法人の職員の募集は設立委員等が「国鉄を通じ」て行うと規定していること、<2> 実際にも、昭和六一年一二月一一日及び同月一九日に開催された鉄道会社合同の設立委員会において、承継法人の職員の労働条件及び採用の基準を決定し、国鉄に提示していること、<3> 承継法人の職員の採用に向けて短期間に大量の事務を遂行しなければならなかった事情にあったこと、<4> 国鉄の行う前記採用候補者の選定等の事務は、国鉄自体の職員との労働関係に変動をもたらすものでなく、使用者としての立場で行われたものとはいえないことからも是認できる。

そして、改革法等の参議院特別委員会での審議において、同法案を主管する運輸大臣及び政府委員が、「国鉄の立場は、設立委員を補助するもの」との趣旨を繰り返し答弁していること等を併せ考えると、改革法は実行行為に限って採用候補者の選定事務を国鉄に行わせたとみられ、かつ、設立委員のなすべき手続の一部をゆだねられた国鉄の立場は、設立委員の補助機関の地位にあったものと解される。

また、国鉄及び設立委員が承継法人とは別個の法主体として構成されているとはいえ、前記承継法人の職員の採用手続は、国鉄を通じての職員の募集に始まり、最終的に承継法人の職員に採用されるという一連の過程を経て完結するものであり、参議院特別委員会において、運輸大臣及び政府委員が、設立委員に対する国鉄の関係をいわば「準委任」ないし「代行」と繰り返し答弁しているのは、単に説明の便宜によるというよりは、国鉄が設立委員の補助機関の地位にあることを平明に説明したもので、国鉄の行為の責任は設立委員に帰属されるべきものと解することができる。

これらのことからすると、国鉄が行った採用候補者の選定及び採用候補者名簿の作成の過程において、労働組合の所属等による差別的取扱いと目される行為があり、設立委員がその採用候補者名簿に基づき採用予定者を決定して採用を通知した結果、それが不当労働行為に該当すると判断される場合、その責任は設立委員に帰属させることが法の趣旨に沿うものと解さざるを得ない。

改革法二三条五項は、商法上の発起人に相当する設立委員の行ういわゆる開業準備行為としての従業員の雇入契約の法的効果を承継法人に帰属させるためであると限定的に解釈することは相当ではなく、採用に関する最終的な権限を有する設立委員が負うべき不当労働行為とされる行為の責任は、同項により、採用に関する設立委員に係る行為の効果とともに承継法人に帰属すると解するのが相当である。

加えて、<1> 国鉄と承継法人は、改革法施行時を境としてそれぞれ別個の法主体であるとはいえ、国鉄総裁が共通設立委員に加わり、国鉄内に承継法人の設立移行準備室が設置されて設立事務が進められ、承継法人が発足していること、<2> 清算事業団を唯一の株主として鉄道会社が設立されていること、<3> 承継法人の職員の募集対象者は国鉄職員に限定され、その退職金や有給休暇の取扱いはすべて通算され、国鉄当時の非違行為に対する懲戒処分も承継法人に引き継ぐことができる仕組みとなっていること、<4> 鉄道会社は、鉄道事業に関し国鉄から人的のみならず物的なもの一切を承継して瞬時たりとも休むことなくその事業を遂行し、その受益は今日に及んでいること、<5> 国鉄による採用候補者の選定及び設立委員による採用決定によって承継法人は現に利益を受けていること等にかんがみると、本件の場合、通常の会社の解散や新会社の設立とは性格を異にするものであり、参加人に被申立人適格がないとすることは妥当ではない。

(二) 原告中島及び同大矢の不採用と不当労働行為の成否について

(1)  吹田機関区の管理職らに対する国労受講者らの本件行動は、国労大阪地方本部から派遣された役員の指導を受けていたとはいうものの、昭和六一年七月一日の行動、同月四日の年休申込み及び同月七日の集会を除いて、抗議や釈明要求などの具体的な内容は国労受講者らにゆだねられていたと認められ、このことと、管理職らが国労受講者らには授業を受ける意思がないと判断して、待機を命ずるなどの措置を執ったこともやむを得ないと認められること等も併せ考えると、国労受講者らは、業務命令を無視して職場秩序を混乱させ、本件仮処分申請事件の動向とも関連して、実質的には本件転換教育の開始を妨害することを目的に、本件行動を取り、その結果、本件転換教育は実質的にその開始が四日間遅れているとみるのが相当である。

原告中島及び同大矢は、国労大阪地方本部梅田支部宮原電車区分会の副委員長及び執行委員としての立場のみならず、田岡とともにクラス代表として受講者の中心となって抗議行動の先頭に立って、本件転換教育の受講を拒否しただけでなく、本件転換教育を阻止するにも等しい本件行動を取ったのであって、このことは、業務の正常な運営を著しく阻害するものであって、正当な組合活動と評価し得るものではない。

再審査被申立人ら(甲事件原告ら)は、業務命令に違反したとして賃金カットを受けた時間数と処分の程度が対応していなければならないのに、原告中島及び同大矢と他の受講者とでその対応の均衡が破れている、また、国労大阪地方本部の役員に対する処分(戒告処分)との均衡上、原告中島及び同大矢に対する処分は過酷に過ぎる旨主張する。しかし、原告中島及び同大矢に対する処分の相当性は、両名が本件行動の中心となって三電車区や吹田機関区の管理職に抗議したことなど、行動態様や内容に即して判断されるべきであって、賃金カットの対象とされた時間の長短のみをもって処分の程度の相当性を判断することはできない。また、国労大阪地方本部から派遣されて本件行動の指導に当たった人見執行委員及び波部執行委員については、当時国鉄に籍がなかったため懲戒処分の対象となり得ず、上村執行委員ら四名については、昭和六一年七月一日に検査教室から退去しなかったこと及び抗議したことを理由に戒告処分に付されているが、その行動の態様や内容からすると、原告中島及び同大矢に対する一〇・一処分がこれらの者の処分と均衡を失しているとまではいえない。

したがって、本件転換教育に係る業務運営の阻害を理由に、国鉄が田岡とともに原告中島及び同大矢を停職六か月の処分に付したこと(一〇・一処分)をもって処分の相当性に欠けるとまでいうことはできない。

(2)  ところで、国鉄は、承継法人の職員の採用候補者名簿を作成するに当たって、一定の重い処分を受けた者は明らかに承継法人の業務にふさわしくない者として採用候補者名簿に登載しないとの選定方針を定め、その方針により採用候補者名簿を作成して設立委員に提出した。原告中島及び同大矢は、停職六か月の処分を受けるような行為をした者は会社の業務にふさわしくないとの理由により採用候補者名簿に登載されず、設立委員より採用通知を受けなかったため、承継法人の職員に採用されなかったことが認められる。そして、原告中島及び同大矢に対する一〇・一処分が相当性に欠けるとまでは認められないことは前記のとおりであるから、国鉄が右両名を承継法人の職員としてふさわしくないとして採用候補者名簿に登載せず、その結果、右両名が承継法人の職員として採用されなかったことをもって不当労働行為に該当するということはできない。

(三) 原告の不採用と不当労働行為の成否について

原告柴田は、昭和五八年四月一日以降、順法闘争やストライキを計画、指導し、実施させたとして三か月の停職処分を三回受けているが、これらの懲戒処分は、当時公労法下にあって国鉄職員及び組合は争議行為が禁止されていたこと、原告柴田が国労岡山地方本部の執行副委員長であったこと等を併せ考えると、いずれも相当性に欠けるということはできない。

国鉄は、承継法人の職員の採用候補者名簿を作成し、設立委員にこれを提出するに当たり、一定の重い処分を受けた者は明らかに承継法人の業務にふさわしくない者として採用候補者名簿に登載しないとの方針を取ったが、国鉄が原告柴田を採用候補者名簿に登載しなかったのは、正に、三か月の停職処分を三回受けるような行為をした者は参加人西日本会社の業務にふさわしくないとの理由によるものであった。したがって、原告柴田が国労組合員であること又は労働組合の正当な行為をしたことによるものとは認められない。

再審査被申立人ら(乙事件原告ら)は、採用候補者名簿に登載しない基準が適用された処分が昭和五八年四月一日以降の処分とされたこと及び同基準の適用に当たり労働処分をも含めたことは、組合間差別をもたらすものであると主張するが、職場規律の総点検がある程度浸透した時期以降の同日以後の処分とされたことが特に不合理であるとはいえず、また、当時国鉄職員には争議行為が禁じられていたことにかんがみれば、国鉄が採用候補者名簿作成等において取った方針を適用するに当たり、右三回の停職処分を参酌したことを不当ということはできない。

したがって、当時国鉄と国労との対立が激化していた状況であったにしても、国鉄が原告柴田を採用候補者名簿に登載せず、その結果、設立委員が原告柴田を参加人西日本会社の職員として採用しなかったことをもって不当労働行為であるとすることはできない。

2  本件訴訟において補充した被告の主張

(一) 改革法の立法者意思

改革法案に関する国会審議においては、承継法人の職員の採用に関する設立委員と国鉄との関係及び国鉄改革において不当労働行為が行われた場合の法的取扱いが論議の対象とされ、これらに関する立法者意思が幾度となく明確に表明されている。すなわち、設立委員と国鉄との関係については、法案の提出者である政府は、国会審議において、承継法人の職員の採用において基本的かつ最終的な責任を負うのは設立委員であること、国鉄は設立委員との関係においては補助的な地位にあることを説明した。また、不当労働行為が行われた場合の法的取扱いについては、参議院特別委員会において運輸大臣が、「所属する労働組合によって差別が行われるようなものであってはならない」旨答弁し、さらに、同委員会は、国鉄改革関連八法の採択に当たり、「所属する労働組合等による差別等が行われることのないよう特段の留意をすること」という附帯決議を行った。

このような国会審議における答弁や附帯決議は、右審議前及び審議中の期間において、次のような実情が存在したことから、立法者が、所属する労働組合等によって承継法人への採用について差別が行われる可能性があることを危ぐし、又は強く意識したために行われたものである。すなわち、

(1)  国労は、一貫して国鉄の分割民営化に反対の立場を取り、余剰人員調整策等の国鉄改革に係る国鉄の諸施策に反対してストライキやワッペン着用闘争、「やめない、休まない、出向かない」と書いた壁新聞を掲示するなどの「三ない運動」などを行い、また、国鉄の実施した進路希望アンケート調査において白紙回答するなどの非協力闘争を行い、労使共同宣言への調印も拒否するなどした。国鉄は、右のような動きに対して、職場規律の是正を強く打ち出し、ストライキ等に参加した国労の組合員の処分を行った。

一方、動労、全施労は、分割民営化容認の立場に転じ、鉄労、真国労とともに改革労協を結成し、国鉄の求めに応じて第一次及び第二次の労使共同宣言に調印するなど、国鉄改革に協力する姿勢を取るに至った。

(2)  昭和六一年七月、全国に人活センターが設置され、同センターに配属された者のうち約八割が国労組合員(当時の国労の組織率は約六割)であった。大阪鉄道管理局関係の人活センターにおける仕事は、竹細工作り、コンコースのモップかけ、銘板磨き、草むしり等であり、ほとんど一日中何も仕事がない状態にあることもしばしばであった。岡山鉄道管理局管内においては、昭和六一年一〇月末現在、三八箇所の人活センターに担務指定された者の総数は三七五人で、そのうち国労組合員は二八九人(約七七パーセント)に上った。

人活センターには、余剰人員とされた者が集中的に配属されたことから、同センターに配属されると承継法人に採用されないとのうわさが広まった。

(3)  国鉄の役員、管理職らは、次のような言動を行った。

ア 昭和六〇年六月に国鉄総裁に就任した杉浦総裁は、同年八月の鉄労定期大会に、国鉄総裁として初めて出席し、翌昭和六一年六月にも鉄労、動労の大会に出席して、国鉄改革の諸施策への協力に感謝する旨のあいさつを行った。

イ 国鉄本社職員局次長は、同年五月に、動労東京地方本部の会議に出席して、「不当労働行為を…うまくやる」と発言した。

ウ 国鉄車両局機械課長は、管下の機械区所長に「…良い子、悪い子に職場を二極分化する」などといった内容の書簡を送付した。

(4)  昭和六一年一一月一〇日、いわゆる横浜人活センター事件が起き、国労組合員らが逮捕、起訴され、また、懲戒処分(解雇、停職)が行われた(同事件の刑事裁判においては無罪判決が言い渡され、懲戒処分(解雇)の禁止を求めた仮処分申請事件においても、処分を無効とする判決が言い渡されている。)。

(5)  このような動向は国労組合員に動揺を与え、昭和六一年七月当時組合員数約一五万七〇〇〇人であったところが、人活センターが設置された同月以降毎月一万人以上の脱退があり、昭和六二年三月一日時点で約六万一〇〇〇人(組織率二七・九パーセント)に、承継法人発足時(同年四月一日)には約四万四〇〇〇人(組織率二四・四パーセント)にと、組合員数で約一一万三〇〇〇人、組織率で約四二ポイントという大幅な減少となった。

なお、国労岡山地方本部における国労の組合員数は、昭和六一年一〇月当時約三〇〇〇人(組織率約五二・九パーセント)であったが、昭和六二年四月時点では約八三〇人(約一七・七パーセント)となり、約二一七〇人(マイナス三五・二ポイント)の減少となった。

(6)  国鉄は、承継法人の採用候補者の選定及び採用候補者名簿の作成に当たって、職員管理調書を資料として用いたが、同調書には組合活動に直接又は間接に関係する項目が多く含まれ、評価者と被評価者が所属組合を異にすれば、評価者の専断となり、公正な評価が行われない危険性が高いなど、公正、適切な資料となり得るかについて疑問があった。

以上のように、改革法の立法に際しては、承継法人の職員の採用について労働組合所属等による差別が行われないことが強く要請され、そのような組合差別には労働組合法七条の規範が及ぶことが当然の前提とされていたのである。

以上に照らせば、承継法人の職員の採用において基本的かつ最終的な責任を負うのは設立委員であり、国鉄はこの設立委員を補助する立場にあったこと、承継法人の職員の採用に際して労働組合差別等の不利益取扱いが行われてはならず、行われた場合には労働組合法七条の責任が問われるべきことが、明確な立法意思として表明されているということができる。

(二) 改革法二三条の解釈

改革法二三条によれば、承継法人の職員の採用に関する手続のうち、採用候補者の選定及びその名簿の作成の権限は国鉄に付与されているが、採用に関する手続の基本となる採用の基準の決定及びその提示の権限と採用の最終的な権限と責任は、設立委員にある。改革法が承継法人の職員の採用に関する手続に国鉄を関与させたのは、承継法人の発足に当たり鉄道輸送業務など国鉄の主要な業務を瞬時も中断することなく継続させることが要請されていたこと、国鉄改革を緊急に行うべく、新会社による業務の開始日が法定されていたこと、承継法人の職員の募集の対象は国鉄の職員のみで、採用すべき者を選定する資料は国鉄のみが有しており、設立委員自らが採用すべき者を選定することができないという特殊事情があったこと等によるものであるから、承継法人の職員の採用に関する設立委員と国鉄との関係は、本来設立委員のなすべき手続の一部を国鉄にゆだねたものであり、国鉄の立場は採用の最終的な権限と責任を有する設立委員の補助機関の地位にあったものと解するのが相当である。改革法は、国鉄による鉄道事業その他の事業の経営が破綻し、新たな経営体制の確立が必要であるとの認識の下に国鉄改革を実施することとしたのであるから、同法が、経営の将来を左右することとなる職員の採用手続のうち、採用候補者の選定及び採用候補者名簿の作成という最も重要な段階に関して、経営を破綻させた国鉄に独自の権限と責任をゆだねたと解することは当を得ない。設立委員は、採用の最終的な権限と責任を有するから、国鉄の行う採用候補者の選定過程において、所属労働組合等による差別等が行われることのないよう指導監督する権限と義務を有し、国鉄による不当労働行為の行われたことが認められる場合は、少なくとも採用の基準に合致するよう、その是正を促し、又は指示する権限と義務を有する。

以上の解釈は、改革法二三条の文理解釈からしても導かれる。すなわち、同条一項は、「設立委員は、日本国有鉄道を通じ、その職員に対し、それぞれの承継法人の職員の労働条件及び職員の採用の基準を提示して、職員の募集を行う」とし、また、同条三項は、「設立委員等から採用する旨の通知を受けた者」として、承継法人の職員として採用される者に対する採用通知は設立委員が行うこととしている。したがって、設立委員には採用通知権限が付与されていることになるが、採用通知は採用候補者名簿からの採用者の決定を前提とするから、右権限には、採用候補者名簿から採用者を決定する権限を含むことはいうまでもない。また、同条三項は、設立委員に採用候補者名簿登載者のうちの不適任者と考えられる者については採用決定しない権限を留保しているとみることができる。このように、同条は、承継法人の職員の採用に関する権限と責任が設立委員にあり、設立委員が採用手続の主体であることを示している。

一方、国鉄については、同条二項は、国鉄は設立委員から「労働条件及び採用の基準が提示されたときは、…採用の基準に従い、その職員となるべき者を選定し、その名簿を作成して設立委員に提出する」として、文理上明確に、国鉄は設立委員から採用の基準の提示がない限り課せられた採用事務を自ら行うことができないこと、国鉄の行う採用候補者の選定は設立委員の定める採用の基準に従うこと、国鉄が作成した採用候補者名簿は必ず設立委員に提出することが定められている。そうすると、国鉄は設立委員の行う採用行為の一部である内部的事実行為を担当していたにすぎず、設立委員から独立して独自の権限を有し、又は行使する立場にはなかったというべきである。同条一項の「日本国有鉄道を通じ」との表現は、国鉄が独自の代理権限を有するものではなく、国鉄が設立委員の「使者」又は「機関」のような従属的な立場にあることを示しているものと解される。

(三) 改革法と労働組合法との調和的解釈

国鉄による採用候補者の選定と採用候補者名簿の作成の過程で行われた労働組合の所属等を理由とする差別取扱いに関しては、承継法人の職員の採用手続を定めた改革法二三条と、勤労者の団結権等を擁護する憲法二八条、労働組合法七条とが矛盾することのないよう合理的に解釈し、その責任の所在、すなわち、救済を命じられるべき使用者がだれであるのかを適切に定めなければならない。改革法が、労働組合法七条の適用を排除していると解したり、結果的に不当労働行為を容認するのと異ならない解釈を採ったりすることは、憲法二八条及び労働組合法七条を無視する結果となり、極めて不当である。

改革法二三条においては、国鉄による採用候補者の選定及び採用候補者名簿の作成は労働組合法の趣旨に抵触しないで行われるべきであることが当然の前提とされていた。このことは、前記の立法者意思から明白である。そうすると、国鉄が承継法人の職員の採用について設立委員を補助する立場にあり、このような国鉄が、承継法人の採用候補者の選定、採用候補者名簿の作成に当たって、労働組合の所属等による差別的取扱いを行ったことの責任は、設立委員に帰属すると解するのが、改革法と憲法、労働組合法との間の調和的かつ整合的な解釈であるというべきである。

(四) 使用者性

労働組合法七条の使用者としては、近い過去に労働契約上の使用者であった者、近い将来における労働契約の可能性のある者もこれに当たると解される。本件では、国鉄という公社の分割民営化に伴い、その営業が幾つかの承継法人に分割して承継される過程での承継法人の職員の採用に関する労働組合差別の責任が問われているから、設立委員、ひいては参加人が、右の近い将来における労働契約の可能性のある使用者に該当する。ただし、本件においては、採用の過程での労働組合差別は、承継法人(設立委員)によってではなく、国鉄の採用候補者選定、採用候補者名簿作成行為の中で行われているが、国鉄は前記のとおりこれらの行為を設立委員の補助機関として行ったのであるから、その行為については採用者である設立委員が責任を負う。

他方、国鉄が原告中島、同大矢及び同柴田の使用者に該当しないことは、国鉄が、採用候補者の選定及び採用候補者名簿の作成を設立委員の補助機関として分担したにすぎないこと、通常の営業譲渡において、譲渡元企業が譲渡先企業への従業員採用問題について使用者となり得るのは、譲渡先企業への採用の問題についてではなく、譲渡元企業からの解雇、退職等をめぐる問題についてであるが、本件で争われているのは後者の問題ではなく前者の問題であることからして明らかである。

国鉄が本件採用問題について使用者たる地位にない以上、清算事業団が労働組合法七条の使用者たり得ないことも明らかである。

(五) 労働組合法七条と採用拒否

(1)  新規採用において労働組合の組合員であること等を理由とする雇入れの拒否が労働組合法七条一号の不利益取扱いや同条三号の支配介入に該当するとの法理は、既に労働委員会の命令例として定着したいわば命令法理を形成しているとともに、学説においても圧倒的多数の支持を受けている。その理論的根拠は、

ア 労働組合法七条一号本文前段は、「労働者が労働組合の組合員であること…の故をもって、その労働者…に対して不利益な取扱をすること」を禁止しているのであって、不利益取扱いから不採用を除外する旨の明示の文言がない上、同条二号のように、明文で「雇用する労働者」と限定していないのであるから、同条一号本文前段を労働契約締結後の段階に限るものと解釈することは、文理として許されない。

イ 労働組合法の労働組合は、使用者による雇入れ後に労働者が加入する企業別組合のみならず、雇入れ以前から労働者が加入している職能別組合、雇用契約の締結以前から労働者が加入していることの多い産業別組合や合同労組等すべての形態の労働組合を含む。労働組合法七条一号は、解雇のみならず雇入れ段階における差別取扱いを禁止しているものと解さなければ、使用者の団結権に対する侵害行為を直接是正し排除するという立法目的は達成できない。

ウ 労働組合法七条一号本文後段は、「労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること」(黄犬契約)を禁止している。企業が特定の労働組合の組合員を採用の選考において当該組合員でない応募者に比してより不利益に取り扱うことを企図して、しかしこれを応募者等に明らかにしないまま採用活動を行い、労働組合の組合員の一部の者については採用し、残りの者については不採用とした場合、黄犬契約に該当すると解することは困難である。しかし、このような、実質的に黄犬契約と同質の使用者の行為が何らの違法評価も受けないと解することは、到底容認され得るものではない。憲法及び労働組合法の団結権保障の趣旨に照らせば、労働組合法七条一号本文前段は当然にこのような行為を不利益な取扱いとして禁止したものと解さなければならない。

という点にある。

参加人が引用する三菱樹脂事件最高裁判決によれば、採用の自由といえども「法律その他による特別の制限」に服するものとされる。この「法律その他による特別の制限」には不当労働行為救済制度が当然に含まれる。使用者の採用の自由に付された労働組合法による右の制限が、国鉄改革における採用差別については、改革法によって排除されたものと解することは到底できない。前記のとおり、改革法は労働組合法七条を排除していないのであり、このことは国鉄改革における採用の自由と労働組合法七条の関係についても妥当する。

(2)  改革法二三条においては、承継法人の職員は設立委員によって「採用」されるという形式を定めてはいるが、ここにいう「採用」には、対象が国鉄の職員に限定され、職員の退職金、有給休暇の扱いが通算され、国鉄時代の懲戒処分も承継法人に引き継ぐことができることとされたこと(日本国有鉄道改革法等施行法二九条一項)、現に稼働していた国鉄の事業はそのまま各旅客鉄道会社等の承継法人に承継され、労使関係を含む人的関係も、少なくとも実態としては、ほとんどそのまま承継法人に承継されていること等の事情が存在するから、通常の企業等における新規採用とは全く異なった手続、実態が存在したのであって、通常の新規採用に関する法理を単純に類推適用して本件採用問題を処理するのは適切でない。

むしろ、本件における採用は、再採用の拒否、営業譲渡等に極めて類似しており、それらに関する法理が援用されるべきであり、営業譲渡の場合に組合所属等を理由に譲渡先会社による採用がされないことは、不当労働行為に該当するものである。

(六) 以上のとおりであって、国鉄の採用候補者の選定及び採用候補者名簿の作成過程における不当労働行為の責任は、国鉄の不当労働行為についての設立委員の認識の有無を問わず、承継法人の職員の採用に関する最終的な権限と責任を有する設立委員に帰属すると解するのが相当である。

三  参加人の主張

1  新規採用と不当労働行為について

(一) 三菱樹脂事件最高裁昭和四八年一二月一二日大法廷判決(民集二七巻一一号一五三六頁)は、私企業者の雇入れの拒否ないし採用の自由に係る原則を認めたものであるが、それは、「私人間の関係においては、各人の有する自由と平等の権利自体が具体的場合に相互に矛盾、対立する可能性があり、このような場合におけるその対立の調整は、近代自由社会においては、原則として私的自治に委ねられ、ただ、一方の他方に対する侵害の態様、程度が社会的に許容しうる一定の限界を超える場合にのみ、法がこれに介入しその間の調整をはかるという建前がとられている」ことを明らかにし、さらに、「憲法は、思想、信条の自由や法の下の平等を保障すると同時に、他方、二三条、二九条等において、財産権の行使、営業その他広く経済活動の自由をも基本的人権として保障している。それゆえ、企業者は、かような経済活動の一環としてする契約締結の自由を有し、自己の営業のために労働者を雇用するにあたり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができるのであって、企業者が特定の思想、信条を有する者をそのゆえをもって雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできないのである。」、「思想、信条を理由とする雇入れの拒否を直ちに民法上の不法行為とすることができないことは明らかであり、その他これを公序良俗違反と解すべき根拠も見出すことはできない。」と判示し、採用の自由の原則を認めるとともに、雇入れ拒否が直ちに不法行為を構成しないことにも言及しているのである。このように、右判決は、企業者の雇用の自由について雇入れ段階と雇入れ後の段階との間に区別を設け、前者については企業者の自由を広く認める反面、後者については、当該労働者の既得の地位と利益を重視してその権衡を図ることを基本的趣旨としているのであるから、雇入れの拒否について労働組合法七条一号前段の不利益取扱いに係る不当労働行為を認め得ないことはいうまでもない。

米国の例においては、「雇入れ」の場合につき不当労働行為が成立する旨が明文をもって規定され、採用の自由が原則的に認められることを前提に特段の立法措置が講じられているのであるから、かかる明文の立法の存しない我が国においては、本件における新規採用につき前記のように不当労働行為の成立を否定することは当然の帰結である。

(二) 原告らは、右最高裁判例にいう「法律その他による制限」には、労働組合法七条所定の不当労働行為の禁止も該当すると主張する。

しかしながら、改革法二三条の規定に基づく設立委員による新規採用に係る規定が、右労働組合法の定めはもとより、憲法二七条一項、二八条との整合性を考慮して制定されたものであることはいうまでもなく、また、本件における承継法人職員の採用は正に「新規採用」であるから、採用者たる参加人をはじめとする承継法人が「使用者」として採用に係る不当労働行為責任を負う余地はない。

(三) また、原告らは、本件における採用は、純粋の公募による「新規採用」とは異なり、<1>募集対象が国鉄職員に限定されていること、<2>退職手当等の通算取扱い、<3>国鉄当時の非違行為に対する懲戒処分の引継ぎ、<4>国鉄の事業の承継及び労使関係を含む人的関係の実態の承継等を理由に、新規採用ではない旨主張する。

しかしながら、たとえその採用者の利益等を考慮した通算規定等便宜的措置が講ぜられていても、その採用の法的性格及び手続の実態は、到底「再採用の拒否」などと同一に論じ得るものでない。要するに、改革法は、従来の国鉄と国鉄職員との労働契約関係を承継法人に承継させることなく、承継法人の職員については、設立委員等が国鉄を通じて新規に募集することとしたもので、承継法人に採用されなかった国鉄職員との労働契約関係については、承継法人に事業等を引き継いだ後の国鉄が、法人格の同一性を有した組織及び名称が変更される清算事業団との間でそのまま存続させることとしたということができ、また、国鉄改革においては、国鉄の抱える膨大な余剰人員の可及的解消を図るため、法律によって国鉄と国鉄職員との労働契約関係は承継法人に承継させず、承継法人との間に新たな労働契約関係を創設することにしたというべきなのである。

なお、原告らが新規採用を否定する理由として掲げる前記<1>については、国鉄改革の趣旨から採用社員が国鉄職員に限定されることは当然の要請であり、そのゆえに新規採用が否定される余地はなく、また、<2>については、採用者に対する不利益を回避するための措置であり、例えば国家公務員から地方自治体その他特定の機関に派遣される場合等にも同様の規定(国家公務員退職手当法一三条等)が存することを考えれば容易に理解しうるはずであるし、<3>については、改革法等施行法二九条一項の規定は、国鉄との間の労働契約関係を、国鉄が法人格を保持したまま移行した清算事業団との間においてそのまま存続させた職員に適用される規定であるにすぎず、承継法人に新規に採用された者に適用されるものではなく、したがって、国鉄が承継法人設立前に行った国鉄職員に対する懲戒処分が承継法人に採用された後の職員について継続することを定めたものでないから、原告らの主張はその前提において誤りがあるのである。さらに、<4>については、国鉄と参加人ら承継法人は別個の法人格を有し、しかも、複数の承継法人に対し、国鉄が各国鉄職員の複数の採用申込希望を全般的に調整、配分した結果(各承継法人ごとの採用候補者名簿記載)に基づき、その範囲内において設立委員が採用者を決定した経過に照らせば、原告らのこの点に関する主張もまた誤りである。

以上のとおりであるから、本件における参加人の発足時における職員の採用が法律的見地からみて、全く新たな労働契約の締結であり、いわゆる新規採用であるから、採用の自由の法理により、本件採用過程において不当労働行為は成立する余地はないというべきである。

2  設立委員の不当労働行為責任

(一) 設立委員の使用者性

労働組合法七条にいう「使用者」概念について、最高裁は、「雇用主以外の事業主であっても、雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、右事業主は同条(労働組合法七条)の「使用者」に当たるものと解するのが相当である。」とする(朝日放送事件判決最高裁平成七年二月二七日第三小法廷判決・民集四九巻二号五五九頁)。

右判決は、使用者該当性は、問題となった労働関係領域に相応して、部分的、相対的に決定すべきとする立場に立っているものと考えられるから、これを本件についてみれば、本件では労働者の新規採用が問題となっており、改革法に基づく国鉄職員の承継法人への採用手続ないし採用過程という労働関係領域において、仮にその場面で不当労働行為と目される行為が存するとすれば、当該職員の採否を現実的かつ具体的に支配・決定し得る者が、労働組合法七条にいう使用者として不当労働行為責任を負うことになる。

しかし、設立委員は国鉄のした採用候補者の選定につき、これを審査是正することは客観的、物理的に不可能であるし、改革法及びその関連法令を見ても、設立委員の審査是正権限ないしその根拠となる指揮、監督権限は全く法定されていないのであるから、国鉄の採用候補者選定につき、審査是正権限を有すると解することはできず、したがって、設立委員は採用過程において、現実的具体的支配権を有しないというべきであり、国鉄のした採用候補者選定及び名簿登載行為につき、使用者として責任を負うことはあり得ない。具体的には次のとおりである。

(1)  国鉄改革において、国鉄は、承継法人への採用を希望する約二二万人の国鉄職員の中から、一一の承継法人ごとに、採用候補者を選定し、その名簿を作成したのであるが、大多数の国鉄職員は採用を希望する意思を表明する際は、相手方として複数の承継法人を順位を付して掲げたのであって、その国鉄職員について、複数の承継法人の中から特定の一つの承継法人への採用候補者であることを決定したのは、外ならぬ国鉄であって設立委員ではない。このように、改革法二三条の解釈上、国鉄のみがかかる選別をなし得る専権を有し、承継法人の設立委員は選別権限を有していない。

(2)  国鉄がした二〇万人を越える国鉄職員の承継法人への選定について、設立委員においてその当否を判断することは客観的にも不可能なことであり、その選定につき審査、是正を求める権限を有しないことは明らかである。すなわち、国鉄は承継法人の職員となる意思を表明した国鉄職員について、それぞれ当該承継法人にふさわしいか否かを国鉄の有する資料、知識、経験等に基づき、国鉄に専属する合理的裁量権を行使して採用候補者として決定したのであるが、かかる大量の個々の国鉄職員について、国鉄とは別の法主体である設立委員が、国鉄のした選定結果が採用の基準に合致しているか否か、すなわち、国鉄の選定の妥当性を判断することは事実上不可能である。法が具体的選定を国鉄の専権とし、特に設立委員に国鉄の選定ないし名簿作成に関する指揮監督ないし審査是正権限を付与する規定を置いていない趣旨もここにあると考えられる。

(3)  設立委員は改革法上、そもそも採用候補者名簿に登載されなかった者(他の承継法人の採用候補者名簿に登載された者及び、どの承継法人の採用候補者名簿にも登載されなかった者)を採用することはできない。設立委員は国鉄の作成した採用候補者名簿の中からのみ、採用者を決定することができるが、名簿に登載されていない者を採用することは法律上不可能である。

さらに、設立委員が、国鉄により組合所属ないし組合活動による差別が行われたとして、当該選定行為が不当労働行為に該当するか否かについて審査しようにも、国鉄から提出される資料は、採用候補者に関する判断資料に限定され、登載されなかった者の資料は提出されないから(改革法施行規則一二条二項)、その審査はもともと不可能であるし、名簿に登載しなかった職員の資料の提出を求めたとしても、設立委員にはその提出を命じる権限の存在を認めるに足る法令上の根拠がないから、国鉄から提出される限りではない。そもそも、不当労働行為があったか否かは、本来専門的行政機関である労働委員会における審査手続を経て、はじめてその判断が可能となるのであって、かかる行政機関でもない設立委員は、不当労働行為の成否を決定し、その是正を求めるための能力、体制を有していない。

(二) 国鉄のなした採用候補者の選定行為に関する設立委員の責任

設立委員が国鉄に対して指揮監督権限ないし審査是正権限を有しないとの前記法律解釈から出発すると、設立委員は国鉄の採用候補者選定行為及び名簿作成行為について、「使用者としての不当労働行為責任」を負うことはあり得ない。

すなわち、設立委員が使用者として国鉄のした採用候補者選定行為につき不当労働行為責任を負うためには、設立委員が国鉄に対して、この選定に関し指揮監督権を有し、あるいは具体的かつ現実的に支配・決定する地位にあり、国鉄のした選定行為の結果を変更させることが可能であったことを要すると解すべきである。行為者に法律上の責任を問うには、ある行為者がある行為をするべきであり、かつすることが可能であったのにしなかったことが必要とされ、このことは、民事、刑事、行政の法分野を問わず、すべての法律上の責任について妥当するから、設立委員に国鉄のした行為につき不当労働行為責任を認めるためには、設立委員において右の事由(帰責事由)が必要であることは当然のことである。

したがって、設立委員が、国鉄に対して採用候補者選定を委託したのでもなく、国鉄の具体的選定につき意思の疎通があったわけでもなく、また国鉄の選定に対して指揮、監督権を行使し、又は前記具体的・現実的支配力を及ぼす地位にもなかった本件においては、国鉄の行為について設立委員に責任を帰属させることは到底認められない。

被告が補助機関論を採るのも、不当労働行為責任を負わせるには、当該使用者に帰責事由が必要であるとの考えに基づいていると思われる。補助機関と被補助者との間には通例指揮監督関係が存するから、被告はこれを根拠に設立委員に国鉄のした行為の責任を帰属させたと見られるが、国鉄と設立委員との間に行政組織法上の補助機関と被補助機関との関係が存しないことは明白である上、この見解が誤りであることは前記の諸点らも容易に理解されるというべきである。

3  以上のとおり、改革法二三条に基づいて参加人ら承継法人の採用が行われた本件においては、採用の自由の法理から見ても、使用者性ないし責任帰属(帰責)の点から見ても、参加人ら承継法人が不当労働行為責任を負うと解する余地はない。

4  ところで、労働組合法七条一号本文後段は、「労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること」(いわゆる黄犬契約)は不当労働行為に該当するとしている。新規採用の場合であっても、この黄犬契約の場合には採用の自由として保障される範囲外にあり、不当労働行為が成立する余地があるということになる。

しかし、この場合に不当労働行為が成立するためには、(1)  それが雇用条件ないし募集条件として外部に表示され、(2)  採用に際し、積極的に労働組合不加入ないし脱退を労働者に要求することがその要件となる。本件の事実関係を見ても、本件採用の基準として国鉄職員に示されたものの中は、特定の労働組合の不加入ないし労働組合活動をしないことを採用の基準とする趣旨の事項はなく、国鉄の採った適用基準(一定の重い処分を受けた者、具体的には、昭和五八年四月以降の非違行為により停職六か月以上の処分又は二回以上の停職処分を受けた者は明らかに承継法人の業務にふさわしくない者とする)も、国鉄における採用候補者選定の際の内部指針ともいうべきものであって、その内容自体に組合差別をうかがわせるものはなく、この適用基準が一般に国鉄職員に表示された事実も存しない。さらに、設立委員又は国鉄が改革法二三条二項所定の意思確認書を提出した国鉄職員に対して、労働組合脱退ないし不加入を求めた事実も全く存しない。すなわち、本件においては右(1) 及び(2) の要件を満たす事実は全く存在しないのである。

したがって、本件において労働組合法七条一号本文後段の不当労働行為の成立を認める余地もないというべきである。

第四当裁判所の判断

一  新規採用と不当労働行為

1  採用の自由と団結権の保障

労働組合法七条一号が新規採用と不当労働行為についてどのように規定しているかを考えるために、まず、採用の自由と団結権の保障の関係について検討する。

憲法は二二条、二九条等により財産権の行使、営業その他広く経済活動の自由を基本的人権として保障しており、採用の自由についてもその一環として保障している。他方、憲法二八条は団結権を保障している。そこで、採用の自由の保障と憲法二八条による団結権の保障との間の調整が問題となる。憲法二二条一項は「公共の福祉に反しない限り」職業選択の自由を有すると規定しているから、団結権を保障するために法による規制として使用者に対して採用に関する行為を不当労働行為として禁止することは一般論として憲法の許容するところであるが、採用の自由も基本的な自由であるから、立法者は、労働組合法をもって採用に関する行為を不当労働行為として禁止するに当たり、採用の自由の保障と団結権の保障とを調和させるために、採用に関してどのような要件の下にいかなる行為を不当労働行為として禁止する必要があるか、その行為を不当労働行為として禁止することにより企業が事業を遂行する上でどのような影響を受けることになるか、それによって経済活動が阻害されないか、禁止の目的及び必要性と採用の自由を制約する程度との間に権衡が取れているか等の観点から検討し、比較考量を行って法規制の内容を決定することになる。これは法律をもって憲法の保障する基本的な自由と労働者の団結権の保障との調整を行うことであるから、国権の最高機関であり、国の唯一の立法機関である国会が決定すべきことであり、採用に関してどのような要件の下にいかなる行為を不当労働行為として禁止するかは法律により明確に規定されることを要する。採用の自由は憲法の保障する他の基本的人権や基本原理との間でも調整が問題となるが、思想・信条の自由、平等原理との調整については、労働基準法三条、四条、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律六条ないし八条と、国家公務員法二七条を受けた同法四六条、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律五条とを対比すれば、立法者が採用の自由を制約する必要があると判断した場合には明文の規定をもってこれを行っていることが明らかである。

立法者が労働組合法七条一号を規定するに当たって行った比較考量の中身を知る上で手がかりとなるのは、最高裁昭和四八年一二月一二日大法廷判決(民集二七巻一一号一五三六頁)である。この判決は、労働組合法七条について判示しているものではないが、企業者が契約締結の自由を有し、いかなる者を雇い入れるかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができ、特定の思想、信条を有することを理由にその者の雇入れを拒んでも、それを当然に違法とすることはできないとし、思想、信条を理由とする雇入れの拒否をもって直ちに民法上の不法行為とすることができず、これを公序良俗違反と解すべき根拠も見出すことはできないとし、企業者が、労働者の雇入れそのものについては、広い範囲の自由を有するけれども、いったん労働者を雇い入れ、その者に雇用関係上の一定の地位を与えた後においては、その地位を一方的に奪うことにつき、雇入れの場合のような広い範囲の自由を有するものではないとし、法が、企業者の雇用の自由について雇入れの段階と雇入れ後の段階との間に区別を設け、前者については企業者の自由を広く認める反面、後者については、当該労働者の既得の地位と利益を重視して、その保護のために、一定の限度で企業者の解雇の自由に制約を課すべきであるとする態度をとっていると判示している。

憲法二八条による団結権の保障の趣旨からすれば、労働者が労働組合の組合員であること等を理由として(決定的動機として)採用しないことを不当労働行為として禁止する必要性は肯定できるが、その反面、使用者の内心にとどまるものであってもその労働者が労働組合の組合員であること等を理由として不採用とすることは許されないこととなるから、採用の自由は大きな制約を受けることになる。禁止の目的及び必要性と採用の自由を制約する程度との間に権衡が取れているかの判断、比較考量が不可欠となる。採用の自由と思想・信条の自由、平等原理との調整に関する前記の法律の規定、右最高裁判所判決の趣旨にかんがみれば、労働組合法七条についても、既に雇用関係上の一定の地位にある者と雇入れの段階にある者とを区別し、両者の間に類型的な差を設けることも立法裁量として十分あり得ることに注意しなければならない。したがって、立法者が、労働者が労働組合の組合員であること等を理由とする不採用を不当労働行為として禁止することとしたか否かは、労働組合法七条一号の文言上どのように規定されているかによって判断することを要する。

次に労働組合法七条一号の文言に即して規定内容を検討する。

2  新規採用と不当労働行為

労働組合法七条一号は前段において「労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱をすること」と規定し、後段において「又は労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること」と規定し、両者を択一的に規定しており、前段が採用についての差別的取扱いに何ら言及していないのに対し、後段が採用に関する規定であることは明らかであり、それらの内容は既に雇用関係上の一定の地位にある者についての規定と雇入れの段階にある者についての規定とに区分、対応しているのであって、仮に前段の不利益取扱いに不採用も含まれるとすれば、後段は前記のような雇用条件を定めるという労働組合敵視の露骨な行為類型だけをわざわざ取り出して規定したことになるが、後段でここまで明記しながら、前段では不採用について明示的に規定しなかったことがいかにも均衡を失することとなる。したがって、同号は労働契約締結前の段階と締結後の段階とを意識的に区別したものであり、前者については、「労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること」(同号後段)だけが不当労働行為を構成するものとし、同号前段の規定は労働契約締結後の段階を対象とするものと解するのが相当である。同号後段の趣旨は、労働者が労働組合に加入せず、又は労働組合から脱退することを内容とする特約は公序良俗に反して無効であるが、それが不当労働行為であることをも明らかにして労働委員会による救済を受けられるようにすることにある。

ここで注意しなければならないのは、同号後段は労働者に契約をもって前記の内容を強制することが憲法の保障する団結権を侵害するものとして無効となることとしているのであり、ここに法の趣旨が表われているということである。すなわち、同号後段の趣旨は、使用者が自らの採用の自由の行使にとどまらず、相手方に労働組合に加入しないように働きかけ、その結果労働組合に加入しないことを約束させることが、相手方に不当な制約を課し、もって団結権を侵害するものであるとして、これを禁止することとしたことにあると解するのが相当である。労働者が労働組合に加入しないこと等を雇用条件とすることは、使用者が労働契約を締結しようとする者に対して採用するための代償条件として、労働組合に加入しないよう働きかけることにほかならないのであり、使用者の組合嫌悪の意思が明確に外部に表示されるにとどまらず、さらに、労働契約を締結しようとする者に対し、採用する、しないを突きつけて労働組合に加入しないこと等を約束させようという積極的な行為態様である点で、団結権の保障を著しく侵害するものであるから、単なる採用の自由の発現にとどまらないものというべきである。採用の自由は営業の自由の一内容であり、営業の自由の中でも基本的な自由であるから、労働組合法七条一号において既に雇用関係上の一定の地位にある者に対する不利益取扱いの禁止と異なる要件を定めることには合理性があり、労働組合法七条一号の文言に照らし右のように解するのが相当である。なお、採用の自由と団結権の保障の調和の仕方はこれだけに限定されるものではなく、合理的な内容のものである限り、別の内容を規定することは立法裁量の発現として可能である。

右のように解するとすれば、組合員でないことを募集条件に掲げた上で組合員を不採用とすることも、労働組合法七条一号後段に準じ、許されないものと解するのが相当である。労働組合法七条一号後段は前記のような雇用条件を付して雇用した場合を直接の対象として規定しているが、組合員でないことを募集条件に掲げた上で採用する場合、さらには、組合員でないことを募集条件に掲げた上で組合員を不採用とする場合にも、前記と同様に、使用者の組合嫌悪の意思が明確に外部に表示されるにとどまらず、さらに、労働契約を締結しようとする者に対し、採用する、しないを突きつけて労働組合に加入しないこと等を約束させようとしたり、労働組合からの脱退を余儀なくさせるという積極的な行為態様である点で、団結権の保障を著しく侵害するものであり、これに対する救済の必要性はこのような約束を受け入れた者だけでなく、圧力に屈しなかったために不採用となった者についても存するということができるからである。これに対し、使用者の組合嫌悪の意思が外部から推断できるというだけでは、組合員でないことを雇用条件又は募集条件としたものと認めるに足りないから、使用者の組合嫌悪の意思が認められる場合において組合員が不採用とされたときであっても、このような場合が労働組合法七条一号後段による禁止の対象となるということはできない。このような場合まで労働組合法七条一号後段による禁止の対象に含まれるとすることはこの規定の文言に照らして無理があり、労働組合法七条一号前段にいう不利益取扱いに不採用が含まれると解することと同じこととなるから、右のように解するのが相当である。

したがって、新規採用は、「労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること」(一号)に当たる場合を除き、不当労働行為に該当せず、労働者の再採用の拒否、営業譲渡等の場合は、既に存する労働契約関係における不利益取扱いとして不当労働行為該当性を肯定することができるか否かの問題として検討すべきである。

二  設立委員の採用に関する行為の法的性質

改革法は、国鉄による鉄道事業その他の事業の経営が破綻し、公共企業体による全国一元的経営体制の下においてはその事業の適切かつ健全な運営を確保することが困難となっている事態に対処すべく、輸送需要の動向に的確に対応し得る新たな効率的な経営体制を確立するための国鉄の抜本的な改革に関する基本的な事項について定めることとしており(一条)、これを受けて、同法一九条は、運輸大臣は、国鉄の事業等の承継法人への適正かつ円滑な引継ぎを図るため、閣議の決定を経て、その事業等の引継ぎ並びに権利及び義務の承継等に関する基本計画を定め(一項)、その基本計画においては、国鉄の職員のうち承継法人の職員となるものの総数及び承継法人ごとの数について定めることとしている(二項三号)。右のとおり、承継法人の職員については、承継法人に引き継がせる事業等、承継法人に承継させる資産、債務、権利、義務と区別されているのであって(同条二項一号、二号、四号、三項から四項までと対比)、事業等の引継ぎについては、同法一九条五項の認可を受けた実施計画(承継計画)において定められた国鉄の事業等は、承継法人の成立の時において、それぞれ、承継法人に引き継がれるものとされ(同法二一条)、権利及び義務の承継についても、承継法人は、それぞれ、承継法人の成立の時において、国鉄の権利及び義務のうち承継計画において定められたものを、承継計画において定めるところに従い承継することとされているのに(同法二二条)、承継法人の職員については、設立委員が承継法人の職員の募集、採用を行う等の採用に関する規定が手当てされている(同法二三条)。そして、同法一七条は、国鉄の改革の実施に伴い一時に多数の国鉄の職員が再就職を必要とする事態を想定し、同法一五条は、国鉄が承継法人に事業等を引き継いだ後に清算事業団に移行し、承継法人に承継されない資産、債務等を処理するための業務等を行わせるほか、臨時に、その職員の再就職の促進を図るための業務を行うこととしている。

改革法の右各規定と同法二三条とを併せて考えれば、改革法は、前記の国鉄改革の目的のために、承継法人の職員については国鉄の職員で承継法人の職員となることを希望する者をそのまま承継せず、相当と認められる人員数に絞り込むこととし、他方、国鉄の職員で承継法人の職員に採用されなかった者が職を失う事態に備えて清算事業団に職員の再就職の促進を図るための業務を行わせる措置を執ったものであるから、国鉄の職員で承継法人の職員として働くことを希望する者であっても承継法人がその全員を承継することを規定しているわけではないことは明らかであって、国鉄の職員で承継法人の職員として働くことを希望する者の意思にかかわらず、採用を決定する側の一方的な判断で、採否を決定することを規定しているものであり、しかも、その判断次第で採用されない者が多数生じることを想定しているというべきである。これは要するに、改革法が承継法人の職員の採用については専ら採用を決定する側に自由があると規定していることを意味するものであるから、同法二三条はこれに基づく採用予定者の決定につき採用を決定する側に採用の自由を付与したものと解するのが相当である。この点が核心であり、承継法人の職員の採用の対象がすべて国鉄の職員であり、国鉄の職員の立場からすれば採用されないことが解雇されるに等しい実質を持つことや、鉄道事業を構成する資産等が承継法人に承継され、その面では営業譲渡の実質を有することによって右の判断が左右されるものではない。このように採用の自由が確保されている以上同法二三条に基づく採用を法的に新規採用と表現するに特に問題はない。同法二三条は、設立委員が承継法人の職員の募集、採用を行うこととしており、かつ、設立委員から採用する旨の通知を受けた者であって附則第二項の規定の施行の際現に国鉄の職員であるものは、承継法人の成立の時において、当該承継法人の職員として採用されることとしているのであって、これは、同法二三条による採用を新規採用として行うものとする趣旨であると解するのが相当である。

三  改革法二三条に基づく採用と採用の自由

改革法二三条がこれに基づく採用候補者の決定につき採用の自由を付与したものと解するのが相当であり、その意味で新規採用に当たることは右に述べたとおりであり、設立委員は採用予定者の決定につき採用の自由を有し、国鉄も採用候補者の選定及び名簿の作成に当たり採用の自由の実質を有するが、前記の改革法の国会審議における運輸大臣の答弁や参議院附帯決議の内容に乙第一九四号証を併せて考えると、国会の審議の際に、改革法二三条に基づく採用について、併存する組合のうち、国鉄改革に反対した組合の組合員よりも国鉄改革に賛成した組合の組合員を優先的に採用候補者として選定し、さらには採用予定者として決定してはならないという立法趣旨が明確に付加され、採用の自由に一定の制約が加えられたものと解するのが相当である。したがって、設立委員も国鉄も採用の自由(又はその実質)を有するが、その採用の自由は国鉄の職員の所属組合によって差別をしてはならないという制約を受けていたというべきである。

採用の基準の内容に組合差別を織り込むことができないことは次の点からも肯定することができる。すなわち、改革法は、設立委員が採用の基準を定め、これを国鉄の職員に提示することを規定しており、採用の基準を国鉄の職員に提示することは、人材選定の基準を外部に表白することにほかならない。このことによれば、設立委員が採用の自由を有するといっても、採用の基準として提示することにより団結権を侵害してはならないという制約を受けるのであり(労働組合法七条一号後段の法意)、併存する組合のうち、国鉄改革に反対した組合の組合員よりも国鉄改革に賛成した組合の組合員を優先的に採用予定者とすることを採用の基準として提示し、これを外部に表白することは、国鉄改革に反対した組合の団結権を侵害する意味を持つから許されないと解するのが相当である。

このように設立委員の有する採用の自由は、採用の基準の設定段階においても、また、前記の立法趣旨に照らせば採用予定者の決定段階においても、国鉄の職員の所属組合によって差別をしてはならないという制約を受けていたものである。

国鉄は、設立委員の定めた採用の基準に従い、採用候補者の選定及び名簿の作成を行うこととされており、採用候補者の選定を行うのに必要な限度で採用の自由の実質を有するが、設立委員の有する採用の自由が右のような制約を受けることからすれば、採用の基準に従って採用候補者の選定及び名簿の作成を行う国鉄も、採用の自由の実質を行使するに当たり右のような制約を受けていたのであり、このことは前記の立法趣旨に含まれていたものと解するのが相当である。

四  改革法二三条に基づく採用と労働組合法七条一号

右に述べたとおり、設立委員も国鉄も採用の自由(又はその実質)を有するが、国鉄の職員の所属組合によって差別をしてはならないという制約を受けていた。しかし、設立委員や国鉄がこのような制約を受けるからといって、それゆえに直ちにその行為に労働組合法七条の適用があるということにはならない。同条の適用の有無は同条の要件がどのように定められているか、その要件を充足する具体的事実があるかによって決まる。そこで、前記の制約に反し採用候補者の選定及び名簿の作成段階で組合差別が行われたとした場合に、労働組合法七条一号の適用上次のような問題点が生じることとなった。すなわち、改革法二三条に基づく採用は、採用の自由に前記のような一定の制約が加えられたとはいえ、新規採用であるという基本的な性質には変更がないから、「労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること」(労働組合法七条一号後段)に当たる場合を除き、労働組合法七条一号の禁止する不当労働行為に該当しないこととなる。また、仮に労働組合法七条一号前段の適用があるとしても、設立委員は通常の雇用主のように包括的かつ単一の、全能の権限を有するものではないから、労働組合法七条一号にいう使用者に当たるか否かが問題となる。前記のように改革法の国会審議の際に組合差別禁止を内容とする立法趣旨が付加されたのであるから、右のような問題点を解消するためには、改革法において、例えば、「二三条二項に基づき国鉄の行う採用候補者の選定に関する労働組合法七条一号の適用については、設立委員を使用者として同号前段の適用があるものとみなす」というような特則を規定することが必要であったと考えられるが、改革法の国会の審議においては、前記の立法趣旨が折角付加されたにもかかわらず、法案に労働組合法七条一号の適用を確保するための修正がされるまでには至らず、改革法二三条の定める採用手続に関し労働組合法七条一号を適用する上での特則が何ら手当てされなかった。そのため、改革法二三条によって労働組合法七条一号の適用が排除されたということではないが、改革法二三条の定める採用手続に関して労働組合法七条一号を適用しようとする段階に至って同号による不当労働行為の法規制の限界が浮き彫りになった。特則が手当てされなかった以上、労働組合法七条一号の規定するところに従って判断するほかはない。

以下、まず、仮に労働組合法七条一号前段の適用があるとして、設立委員が労働組合法七条一号にいう使用者に当たるか否かについて検討し、次に、労働組合法七条一号後段の適用について検討する。

五  労働組合法七条一号にいう使用者

設立委員は、改革法上、採用の基準を設定する権限を有し、国鉄が作成した採用候補者名簿に記載された者の中から承継法人の職員の採用予定者を決定することとされているが、採用候補者の選定については国鉄がこれを行い、これに基づいて名簿を作成することとされていて、設立委員は通常の雇用主のように包括的かつ単一の、全能の権限を有するものではないから、労働組合法七条一号にいう使用者に当たるか否かが問題となる。

1  労働組合法七条一号前段にいう使用者

労働組合法七条一号にいう使用者とは、同法七条一号前段が規定する雇用契約関係にある労働者に対する解雇その他の不利益な取扱いについていうならば、原則として、雇用契約上の地位に基づき労働者の労働条件の全部又は一部を決定することができ、労働者に対し解雇その他の不利益な取扱いをすることができる法的権限を有する者を指す。原則として雇用契約の一方当事者である雇用主がこれに当たるが、その者が雇用主ではなくても、その者が労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には使用者に当たるものと解するのが相当である(朝日放送事件についての最高裁平成七年二月二八日第三小法廷判決民集四九巻二号五五九頁)。

同法七条一号前段がいまだ雇用契約関係にない労働者の新規採用についてもこれを「不利益な取扱」に含める趣旨であると解することができるのであれば、採用しなかったことが不利益な取扱いに当たるということになる。このように解するとすれば、採用に関する権限が異なる主体間で分配されており、どの主体も限定された部分的な権限しか持たない場合については、採用に関し分配されているそれらの権限のうち、どの主体のどういう権限が行使された結果不採用となったのかを判断し、不採用の結果をもたらした権限を有する主体が(部分的に)使用者に当たることを肯定することになる。最高裁平成七年二月二八日第三小法廷判決は、労働条件の一部についてであっても、これを決定できる地位にある者ならば、その限度で使用者性を認めたものと解すべきであるし、また、「雇用主以外の事業主であっても、(中略)雇用主と(中略)同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、(中略)右事業主は同条の「使用者」に当たるものと解するのが相当である。」と判示しており、法的な権限を持っていなくても、事実上これと同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあれば、使用者に当たるとしている。そうであるとすれば、採用に関する権限が異なる主体間で分配されており、各主体がいずれも限定された権限しか持っていない場合であっても、不採用に関して使用者性の有無が問題とされる者が採用に関し限定されているとはいえ一定の法的な権限を持っており、かつ、その権限を行使した結果不採用となったということができる限り、同様のことが当てはまるといえるからである。ここで注意しなければならないのは、部分的使用者性を肯定できるのはその者が自ら決定することのできる事項に関してであることである(最高裁平成七年二月二八日第三小法廷判決参照)。

2  承継法人の職員の採用に関する改革法二三条の規定(権限の分配)と設立委員の使用者性

改革法二三条は、一項において設立委員が採用の基準を提示することを規定し、二項において国鉄が設立委員が定めた採用の基準に従い採用候補者の選定及び名簿の作成を行うことを規定しているから、採用候補者の選定については、どういう選び方をするかは設立委員が決定する権限を有し、具体的な部署に応じて実際にだれを選ぶかは国鉄が決定する権限を有することとしたものと解するのが相当である。このように、改革法上、採用候補者の選定に関して権限が分配されていることを直視して使用者性を考える必要がある。

1で述べたとおり、労働組合法七条一号前段がいまだ雇用契約関係にない労働者の不採用についてもこれを「不利益な取扱」に含める趣旨であると解することができるのであれば、通常の雇用主のように包括的かつ単一の、全能の権限を有する主体がおり、これがその意思に基づいて採用に関する権限を別の主体に委譲したような場合は別として、法令により採用に関する権限が異なる主体間で分配されており、どの主体も限定された部分的な権限しか持たない場合については、採用に関し分配されているそれらの権限のうち、どの主体のどういう権限が行使された結果不採用となったのかを判断し、不採用の結果をもたらした権限を有する主体が(部分的に)使用者に当たることを肯定することになる。改革法二三条は、採用候補者の選定及び名簿の作成については、設立委員が定めた採用の基準に従い、国鉄が採用候補者の選定及び名簿の作成を行うことと規定しているのであるから、設立委員と国鉄とで、どちらの権限行使の結果として問題とされる不採用の結果が生じたのか次第で不当労働行為責任の帰属主体が決まる。設立委員は、<1>採用候補者名簿の中から採用予定者を決定する権限を有するのみならず、<2>採用の基準を決定する権限を有し、採用の基準の内容次第では国鉄に採用候補者の選定に当たって一定の範疇の者を除外させることとすることが可能であり、そうすることによりあらかじめ採用候補者名簿の中からそのような範疇の者を除外させておけば、自ら採用予定者としないという決定をするまでもなくそのような範疇の者を採用予定者から排除する目的を達成することができるから、このことを考えれば、設立委員は自らの権限として有する採用の基準の決定の仕方次第で採用候補者の選定及び名簿の作成を支配することが可能な地位にあるということができるのであって、どういう選び方をするかの範疇に属するものと認められる限り、その故意又は過失や審査是正の権限を問題とすることなく、使用者性の点はこれを肯定することができる。

採用候補者の選定に関し設立委員の使用者性を一切否定する参加人の主張は採用できない。

3  本件各命令中設立委員の使用者性に関する判断の趣旨は次のとおりである。すなわち、改革法が承継法人の職員の採用手続に国鉄を関与させた趣旨、理由からすれば、本来設立委員のなすべき手続のうち実行行為に限って採用候補者の選定事務を国鉄にゆだねたものであり、国鉄の立場は設立委員の補助機関の地位にあった。国鉄が行った採用候補者の選定及び採用候補者名簿の作成の過程において、労働組合の所属等による差別的取扱いと目される行為があり、設立委員がその採用候補者名簿に基づき採用予定者を決定して採用を通知した結果、それが不当労働行為に該当すると判断される場合、その責任は設立委員に帰属させることが法の趣旨に沿うものと解さざるを得ない。

原告らは、設立委員の使用者性については、本件各命令中右の判断部分を援用する趣旨と解されるので、以下この点について検討する(なお、被告もこの点に関し同旨を主張するが、救済申立てを棄却した本件各命令の維持のために必要な主張とはいえない。)。

改革法は承継法人の職員の採用手続に段階を設け、各段階ごとに行う事務手続の内容とその主体及び権限を規定し、採用候補者の選定及び名簿の作成については採用の基準に従い国鉄がこれを行うものと規定し、明文の規定では設立委員による指揮監督権限を定めておらず、設立委員を通常の雇用主のように包括的かつ単一の、全能の権限を有するものと規定していない。これは次の理由による。承継法人を発足させるに際し、鉄道輸送事業の継続性を確保するためには、承継法人の具体的な部署への配置を考えてその職員を採用するという膨大な事務を短期間に遂行することが必要であり、短期間にこれをこなすことができるのは、承継法人の引き継ぐ鉄道事業の各部署に必要な人員、国鉄職員の能力、勤務状況等について熟知している国鉄をおいて他にはなかった。また、承継法人の職員の募集の対象は国鉄の職員のみで、これに関する資料は国鉄が有しているため、国鉄にこれを行わせることが実際上便利であると考えられた。このような理由と改革法の趣旨とを併せて考えると、改革法は、設立委員に採用候補者選定の判断基準を決定する権限を付与して国鉄がどのような点に着目して選ぶべきかの大局的見地からの選び方の視点を決定させることとし、国鉄には、採用の基準に従い、その枠組みの中で具体的にどの部署にだれを配置するかという観点から採用候補者を選定させ、もって、実際にだれを選ぶかを決定させることとし、これらを踏まえて設立委員には国鉄の作成した採用候補者名簿の中から採用予定者を決定させることとしたものと解することができる。そして、採用候補者の選定及び名簿の作成段階では、国鉄はその職員との関係において雇用契約上の使用者としての立場からは法的に切り離され、改革法によって付与された法定の特別の権限を行使して特別の使命を果たす法的主体として採用手続に関与するのであり、設立委員が定めていた採用の基準に従うべきことを除けば、設立委員による指揮監督下にあることを根拠付ける規定はない。他方、設立委員は採用予定者決定の段階では国鉄によって完成された採用候補者名簿の中から採用予定者を決定することとされていて、採用候補者名簿に登載された者についてはこれが採用の基準に従って選定、登載されたか否かを審査する権限を有するものと解されるが、採用候補者名簿に登載されなかった者についてまでこれを審査の対象に含むことをうかがわせる規定はなく(改革法施行規則一二条二項は「前項の名簿には、当該名簿に記載した職員の選定に際し判断の基礎とした資料を添付するものとする。」と規定し、名簿に記載しなかった職員に関し判断の基礎とした資料を添付することを義務付けていない。なお、人事院規則八-一二(職員の任免)四九条参照)、このような規定に照らして考えれば、改革法は、国鉄による採用候補者の選定については採用候補者名簿に登載された者の範囲で、それらの者の中から採用予定者を決定するという目的の限度で設立委員が審査する趣旨であると解する方が、同法の立法者意思に適合する解釈であると考えられる。以上のような趣旨及び改革法の規定の構造に照らして考えると、同法が前記のとおり採用手続に段階を設け、各段階ごとに行う事務手続の内容とその主体及び権限を規定し、採用候補者の選定及び名簿の作成については採用の基準に従い国鉄がこれを行うものと規定しているのは、国鉄には、設定された採用の基準の枠組みの中で、具体的にどの部署にだれを配置するかという観点から独立に権限を行使させて採用候補者の選定及び名簿の作成をさせることとし、設立委員にはこのようにして作成された採用候補者名簿の中から採用予定者を決定させることとして、段階ごとに行われるそれらの独立した権限行使の集積によって承継法人の採用予定者が決定されるという採用手続の構造を採ったものと解するのが相当である。

また、本件各命令中には、設立委員が本来的には募集から採用予定者の決定までのすべての権限を持っていてしかるべきところ、前記のような理由から採用候補者の選定が国鉄にゆだねられたものであり、これが立法者の意思であることは、改革法の法案の国会審議において運輸大臣が設立委員と国鉄との関係を準委任、代行と表現したことに表われているとして、改革法二三条が、国鉄による採用候補者の選定及び名簿の作成につき、これをもって最終的な採用予定者の決定の権限を有する設立委員の行為と見ることとし、これに責任を帰属させることとしたものであるとする部分がある。しかしながら、改革法は、採用手続に段階を設け、各段階ごとに行う事務手続の内容とその主体及び権限を規定している。法令によって採用手続に段階が設けられ、その段階に応じて各主体の権限が別々に規定されている以上、その規定内容に即して両者の関係を考えざるを得ないのであり、設立委員が採用の基準の設定と採用予定者の決定について権限を有することだけでは、国鉄による採用候補者の選定及び名簿の作成につき設立委員に不当労働行為責任が帰属することの根拠として不十分である。また、各主体の権限が別々に規定されているのに、改革法の法案の国会審議において運輸大臣が設立委員と国鉄との関係を準委任、代行と表現したからといって、これを根拠に改革法二三条が国鉄による採用候補者の選定及び名簿の作成につきこれをもって設立委員の行為と見ることとしたということは、困難である。運輸大臣の右国会答弁は、右に述べた改革法の規定内容を法的に正確に表現する趣旨のものではなく、設立委員と国鉄との関係を平易に説明したものに過ぎないと解されるから、これを根拠に右と異なる解釈をすることはできない。

以上述べたことを労働組合法七条一号の適用の見地から見るならば、設立委員と国鉄との間で右のとおり採用に関する権限が分配されているのに、設立委員が権限外のことに関して不当労働行為責任を負うと解することは困難であるから、本件各命令のように、国鉄の立場が設立委員の補助機関の地位にあったことを理由に、国鉄が行った採用候補者の選定及び採用候補者名簿の作成の過程において、労働組合の所属等による差別的取扱いと目される行為があり、設立委員がその採用候補者名簿に基づき採用予定者を決定して採用を通知した結果、それが不当労働行為に該当すると判断される場合、その責任は設立委員に帰属すると解することは困難であって、各権限の保有主体はそれぞれの権限の行使に関して労働組合法七条一号の使用者性が認められ、それぞれの権限の行使に応じて不当労働行為責任が帰属するものと解するのが相当である。すなわち、国鉄が行った採用候補者の選定及び採用候補者名簿の作成の過程において労働組合の所属等による差別的取扱いと目される行為があったとしても設立委員が当然に不当労働行為責任を負うわけではなく、設立委員が設定した採用の基準を国鉄が適用した結果そのような差別的取扱いがされたということができる場合にはじめて、設立委員に不当労働行為責任が帰属するのであり、国鉄が採用の基準とは無関係に独自の判断で採用候補者の選定を行った結果労働組合の所属等による差別的取扱いがもたらされたのであれば、設立委員が当然に不当労働行為責任を負うものではないと解するのが相当である。このように改革法が分配した採用に関する権限の帰属に応じ、その権限行使の結果として組合差別的と目される採用候補者の選定が行われたか否か次第で使用者性の有無を判断するのが相当であるから、設立委員が定めた採用の基準の内容及び国鉄がした組合差別的と目される採用候補者の選定の結果との結び付きと切り離して、設立委員が国鉄のした組合差別的な採用候補者の選定の責任を負うものと解することはできないが、本件各命令の前記部分は、設立委員が決定した採用の基準を適用した結果労働組合の所属等による差別的取扱いがもたらされた場合には設立委員が不当労働行為責任を負うという考え方と矛盾抵触するものではなく、これをも包含しているものと解する余地があり、そうであるとすれば、この限度では使用者性を肯定する論拠となるものと解される。

六  採用の基準の設定と不当労働行為

設立委員が決定した採用の基準のうち、「国鉄在職中の勤務の状況からみて当社の業務にふさわしい者であること」という基準は、その文言によれば国鉄在職中の勤務態度、勤務成績が一般の水準よりも劣らない者であることを意味するものと解され、この認定に反する証拠はない。この基準は組合差別的な採用候補者の選定と直ちに結び付くものではない。しかしながら、国鉄は、この基準の運用として、昭和五八年四月一日以降に停職六箇月以上の処分又は二回以上の停職処分を受けた者は、明らかに承継法人の業務にふさわしくない者として採用候補者から除外する扱いとしたのであり、原告らはこのような運用が組合差別に他ならないと主張するところである。このような運用は右採用の基準を逸脱するものとはいえず、右採用の基準を具体的に適用したものと見ることができるから、仮にそれが具体的事実関係の下で差別的取扱いの意味を持つとすれば、設立委員が設定した採用の基準を国鉄が適用した結果差別的取扱いがされたと解することができる(就職申込総数が基本計画上の要員数を大幅に上回る中で採用候補者の選定が行われた場合とは事情が異なる。)。

しかしながら、改革法二三条に基づく採用が新規採用に当たり、労働組合法七条一号後段に当たる場合を除き、同号の禁止する不当労働行為に該当しないことは既に述べたとおりである。そこで、以下同号後段該当性について判断する。

七  労働組合法七条一号後段に該当する場合の使用者

設立委員は採用の基準を決定する権限を有し、これから雇用契約を締結することのできる地位にあり、この地位に基づき同法七条一号後段にいう「雇用条件」を定めることのできる者として、同法七条一号にいう「使用者」に当たることになる。

八  募集段階における組合差別を内容とする募集条件の提示と不当労働行為

1  既に述べたとおり、新規採用は、使用者に採用の自由があることに照らし、不当労働行為に当たらないと解すべきであるが、新規採用であっても、黄犬契約は禁止されており(労働組合法七条一号後段)、その趣旨に照らせば、組合員でないことを募集条件に掲げた上で、組合員を不採用とすることも、労働組合法七条一号後段に準じ、許されないものと解するのが相当である。

改革法二三条に基づく採用については、設立委員が、募集条件であり、かつ、採用候補者選定の判断基準としての意義を有する採用の基準を定め、これに従って募集、具体的な採用候補者の選定が行われるのであるから、設立委員が組合差別を内容とする採用の基準を定めた場合は、これが労働組合法七条一号の禁止する雇用条件を定めることに相当するものと解することができる。

承継法人の設立委員は、国鉄を通じ、その職員に対し、それぞれの承継法人の職員の労働条件及び職員の採用の基準を提示して、職員の募集を行うものとされている(改革法二三条一項)。このように承継法人の職員の労働条件及び職員の採用の基準の決定権限は設立委員にあり、設立委員が募集の主体であることが明記されているから、国鉄は事実行為だけを行うものであり、行政組織法上の補助機関、民法上の履行補助者に相当する実質がある。したがって、設立委員は、組合差別的な採用の基準を自ら提示しなくても、国鉄が組合差別的な募集条件を付加したものと認められる場合(外形的・客観的に見て募集条件として提示されたと認めることのできるものであることを要するが、必ずしも明示的に募集条件として提示したわけではなくても、国鉄が承継法人の職員の採用候補者の選定に関し組合差別的な言動を行い、そのことが具体的な事実関係の下では国鉄が右募集に当たり特定の労働組合の組合員であることを理由に承継法人の職員の採用候補者の選定に当たって不利に取り扱う意思を外部に表白したことに等しいと認められる場合を含む。)には、改革法二三条一項に基づき職員の募集に当たる国鉄の行為についてはこれをもって承継法人の設立委員の行為と見ることができるから、承継法人の設立委員がその職員の募集条件のうちに特定の労働組合の組合員であることを除外事由として定めたものと同視することができ、設立委員に国鉄のした採用候補者の選定及び名簿の作成に関する審査是正権限又は作為義務の有無を問わずに不当労働行為の成立を肯定できる。承継法人の職員の採用は、設立委員が国鉄を通じ労働条件及び職員の採用の基準を提示して職員の募集を行うことを不可欠の手続として内包しているから、募集段階において設立委員の行為と見ることができる国鉄の行為は、承継法人の職員の採用について当該承継法人の設立委員がした行為に当たり、同法二三条五項により当該承継法人がした行為とされるものと解するのが相当である。同法二三条五項にいう「当該承継法人の設立委員に対してなされた行為」とは、同法二三条二項所定の国鉄の職員のした承継法人の職員となる旨の意思表示(国鉄の職員のした応募、すなわち申込の意思表示)を指すものと解され、この意思表示の相手方は法的には職員の募集の主体である設立委員である(実際の事務手続は国鉄が行う。)から、このことと対比すると、同法二三条五項にいう「承継法人(中略)の職員の採用について、当該承継法人の設立委員がした行為」とは同法二三条三項所定の設立委員による採用する旨の通知だけを指すかのように見えないではないが、同法二三条一項所定の設立委員による承継法人の職員の労働条件の提示が右に含まれることは明らかであるから、同法二三条一項所定の承継法人の職員の労働条件及び職員の採用の基準を提示して行う職員の募集は同法二三条五項にいう「当該承継法人の設立委員がした行為」に含まれるものと解される。そうであるとすれば、募集段階において国鉄がした募集条件の付加が設立委員の行為と見ることができるのであれば、この行為は同法二三条五項により当該承継法人がした行為とされることになる。

国鉄の立場が設立委員の補助機関の地位にあったとする本件各命令の理由は、採用候補者の選定及び名簿の作成については当てはまらないが、労働条件及び採用の基準を提示して募集を行うことに関しては右のとおり理由がある。

2  設立委員が決定した採用の基準のうち、「国鉄在職中の勤務の状況からみて当社の業務にふさわしい者であること」という基準は、これを外部に表白される募集条件という観点から見れば、その文言に照らし組合差別的な募集条件に当たるということはできない。このことは、国鉄職員、殊に国労又は全動労の組合員が当時これを組合差別的な募集条件として受け止めなかったこと(弁論の全趣旨によりこの事実を認める。)によって裏付けられる。

3  そこで、国鉄が組合差別的な募集条件を付加したものと認められるか否かが問題となる。以下原告らの主張のうち、組合嫌悪が外部へ表白されたことを意味するにとどまらず、国鉄が組合差別を内容とする募集条件を定めたということができる可能性のある主張を取り上げ、その主張に理由があるか否かについて判断する。

(一) 労使共同宣言及び雇用安定協約に関する事実

甲事件の乙第八一号証並びに乙事件の乙第九三号証、第九四号証及び第一二三号証によれば、第一次労使共同宣言の前文には、「昭和六一年は、今後の鉄道事業の健全な運営に向けた国鉄改革が国民的課題となる重要な年であるが、なかでも余剰人員問題の解決は今年度の最大のテーマとなる。また、これは同時に、国鉄を愛し続けてきた職員一人ひとりの生活の場を確保するという問題でもある。国鉄改革にあたり、真面目に働く意思のある職員がその生活の基盤を失うことがあってはならないという点について、労使の認識は全く共通である。それらの職員に十分な雇用の場を確保するためには、労使一致した雇用確保の努力に加えて、政府・一般産業界など関係各方面の積極的な支援が不可欠であり、これは経営全般にわたる労使の自助努力に対する国民各層の信頼と共感を得て初めて可能となるものである。このような共通の認識に立ち、雇用安定の基盤を守るという立場から、国鉄改革が成し遂げられるまでの間、労使は、信頼関係を基礎として、以下の項目について一致協力して取り組むことを宣言する。」との記載があり、本文の余剰人員対策の項には、前記の内容のほか、「職員の将来の雇用の場の確保、拡充について労使が一致協力する。」との記載があることが認められる。また、第二次労使共同宣言の内容は前記のとおりである。これらの労使共同宣言、殊に第二次労使共同宣言において、鉄道事業のあるべき方向として、民営・分割による国鉄改革を基本とするほかはないことを述べた上で、望ましい職員像について、「今後の鉄道事業は、その健全な発展を遂げるためには、業務遂行に必要な知識と技能に優れていることはもちろん、企業人としての自覚を有し、向上心と意欲にあふれる職員により担われるべきであることについて、労使は完全に認識を一にしている。この考え方に立ち、労使はこれまでも積極的に派遣・休職制度等いわゆる三本柱、直営売店、広域異動等を推進し、さらには「労使共同宣言」に則り、着実な努力を重ねてきた。今後は、さらに必要な教育の一層の推進を図るとともに、労使それぞれの立場において職員の指導を徹底する。」との記載があること(この事実は甲事件の乙第八三号証及び乙事件の乙第九五号証により認める。)は、改革法が可決成立した上で行われることになる国鉄による採用候補者の選定及び名簿の作成において、右各労使共同宣言を締結した組合の組合員で右のような指導を受けた者が承継法人(新会社)の職員としてふさわしいとの趣旨を示しているとうかがわれないではない。さらに、乙事件の乙第二八号証によれば、昭和六一年一〇月二一日の衆議院特別委員会において、杉浦総裁が説明員として、「労使共同宣言というものは、いわば今雇用問題の大変重要な時期でございますので、一般の国民に対しまして労使一体となってやるんだという姿勢を示す、こういうようなことが両方で一致することが信頼関係のもとであるというふうに私どもは思っておるわけでございまして、そうした労使共同宣言に調印のできないあるいはすることに反対である組合に対しましては、私ども信頼を持てません。したがいまして、雇用安定協約を結ぶことができないということでございます。」と述べたことが認められる。

しかしながら、他方、乙事件の乙第二八号証によれば、同じ審議の場において、東中委員の「今提案されている分割・民営の法律の適用について、日鉄法じゃなくて(雇用安定)協約に基づいて差別扱いをするということはあるのですか。」との質問に対し、杉浦総裁が説明員として、「どの協約かはちょっとわかりませんが、雇用安定協約というものは二十九条四号のいわば例外規定であるということでございまして、その協約を結んでいる組合とそうでない組合の違いは、二十九条四号の発動があるかないかの違いであります。」と答え、また、橋本運輸大臣が、「現在私どもが御審議を願っております法律案、まさに今回の国鉄改革の中で、新たな会社の職員は、国鉄職員の中から新会社の設立委員が提示する採用の基準に従い新規に採用される仕組みとなっておるところでありまして、その際、所属組合等による差別があってはならないと思います。」と述べ、東中委員が「今の御答弁でわかりました。この法律の、分割・民営法案の適用に際しては、例えば従業員を選別、名簿を選定するとかそういう場合には、労働組合の所属によって、あるいは思想、信条によって差別するようなことはしないということだと言われたことは、しかと承っておくわけでありますけれども…」、「あの労働協約では、新法の適用については、労働協約はあってもなくても、雇用安定に関する協約というのは全く関係がないんだということを実質的に今言われたことになるわけです、差別をしないということですから。そう言われたわけです。それはそれでいいんです。」と述べたことが認められる。

国鉄が組合差別的な募集条件を付加したといえるかどうかは、改革法二三条一項が規定する職員の募集段階において判断すべきである。したがって、本来はこの段階で国鉄に組合差別的な言動があったか否かが問題になるのであり、この段階より前に国鉄が組合差別的な言動を行っていたとすれば、具体的事実関係の下ではそれも募集条件の意味を持ち得るが、これを肯定するには、右の段階において受け手である国鉄の職員が組合差別的な募集条件を付加されたものと受け止めたことが必要である。この見地から検討すると、承継法人の採用候補者の選定は改革法二三条の付与する特別の権限に基づいて行われるのであるから、その法案を所管する運輸大臣が同条の立法趣旨に所属組合等による差別があってはならないことが含まれていることを明言した以上、仮に国鉄が前記のように第一次及び第二次労使共同宣言を締結した組合の組合員であって指導を受けた者が承継法人(新会社)の職員としてふさわしいとの趣旨を外部に表示したとしても、そのような表示は、改革法二三条一項が規定する職員の募集段階においては、受け手である国鉄の職員、殊に国労又は全動労の組合員にとって、運輸大臣の右の答弁によって既に打ち消されたものであり、組合差別的な募集条件が付加されたものと受け止められなかったものということができる。

さらに、乙事件の乙第七四号証、第七五号証、第二一一号証、第二一四号証、第三六二号証によれば、昭和六一年一二月二日、国労三役は杉浦総裁と会見し、その際杉浦総裁は、労働組合による差別は絶対にしない、安心してほしい旨述べたこと、同年一二月五日、国労は、杉浦総裁に対し、「採用の基準については、参議院における附帯決議の主旨に則り、所属労働組合の相違や過去の労働処分またはこれに類する行為を内容としないようにしていただくこと」を、同総裁を通じて設立委員等に対して要請として伝えてくれるよう申し入れていること、昭和六二年一月三〇日、広瀬秀吉衆議院議員(国労議員団長)及び国労家族会(国労組合員の家族で構成される全国組織)の代表らは、橋本運輸大臣と会見し、その際橋本運輸大臣は、参議院附帯決議については重んじる旨述べたこと、以上の事実が認められる。国鉄がその職員に対し承継法人の労働条件と採用の基準を記載した書面及び承継法人の職員となる意思を表明する意思確認書の用紙を配付したのは昭和六一年一二月二四日であり、これに先立って国労が杉浦総裁に対し右のとおり申し入れ、杉浦総裁から組合差別をしないとの回答を得たのは、橋本運輸大臣の国会答弁を踏まえて杉浦総裁から組合差別をしないという言質を取るためであったと考えられる。このような事実の積み重ねがあったにもかかわらず、募集段階で労使共同宣言等に関する事実が組合差別的な募集条件としての意味を有していたと認めることはできない。すなわち、杉浦総裁は、改革法二三条一項及び二項に基づいて承継法人の職員の募集の事務を遂行し、採用候補者の選定を行う国鉄の最高責任者であるから、杉浦総裁が右のとおり述べたことは改革法に基づいて右の任務を遂行する国鉄の意思を外部に示したという意味を持つことは明らかである。橋本運輸大臣の国会における前記答弁等のほか、さらに杉浦総裁が右のように述べていることに照らせば、国鉄が組合差別的な募集条件を付加したとみることはできないというほかはない。確かに募集条件は外部に示されたものであり、内心では国労の活動家であることを決定的動機としていた可能性があるが、それは労働組合法七条一号後段の雇用条件(募集条件)には当てはまらず、新規採用についても同号前段の不利益取扱いに含まれると解することができてはじめて同号前段に該当する事実の有無として問題になるのである。

したがって、第一次及び第二次労使共同宣言並びに杉浦総裁の衆議院特別委員会における前記の発言を根拠に、国鉄が改革法二三条一項所定の募集に先立ち、第一次及び第二次労使共同宣言を締結しなかった労働組合の組合員であることを理由に、承継法人の職員の採用候補者の選定に当たって不利に取り扱う意思をあらかじめ外部に表白したに等しいものと認めることはできないから、国鉄が組合差別的な募集条件を付加したものということはできない。

(二) 余剰人員対策、転換教育及び人活センターの設置に関する事実

(1)  前記第二、二、6、(九)の事実、同(一一)の事実及び同8の事実に、甲事件の乙第七一号証から第七三号証まで、第七八号証・七五一頁・七五二頁、第八九号証から第九一号証まで、第九七号証、第一一〇号証、第一三八号証、第一三九号証、第二二六号証、第二八三号証・二二頁から二五頁まで、第三〇九号証、第三一〇号証、第三一五号証から第三二八号証まで、第三三〇号証、第三三一号証、第三三八号証から第三四二号証まで、第三五八号証、第三五九号証、第五八八号証から第五九四号証まで、第五九六号証、乙事件の乙第一二二号証、第一二五号証、第一五二号証から第一五八号証まで、第四六二号証から第四六八号証まで及び第四七〇号証並びに弁論の全趣旨を併せ考えれば、次の事実が認められる。

ア 昭和六一年五月一日、国鉄は、北海道及び九州の職員三四六人に対し、東京、大阪等への広域異動を行い、その後、同年一二月までの間に、合計三八一八人の職員の広域異動を行った。そのうち、国労組合員は五六一人であり、動労組合員は一七九一人、鉄労組合員は六五三人、全施労組合員は六九人であった。

大阪地区には主として九州から合計一〇二七人が転入し、主に運転系統の現業機関に配属されたが、特に昭和六一年六月当時には、転入者一三〇名余り全員がEC関係職場に配属された。その結果、EC関係では、運転士は、所要員九二二人に対し実在員一〇八四人と、一六二人の余剰人員があり、検査係は、所要員三八〇人に対し実在員四九八人と、一一八人の余剰人員があった。また、EL関係では、電気機関士は、所要員五三五人に対し実在員六四四人と、一〇九人の余剰人員があり、検査係は、所要員一八一人に対し実在員二七一人と、九〇人の余剰人員があった。なお、右のように転入者が主に運転系統の現業機関に配属されたことに伴い、その配属先現場の国労組合員が人活センターに担務指定されるなどの人事異動が行われたこともあった。

三電車区においては、右広域異動により、運転士として六九人(動労組合員六六人、鉄労組合員三人)、検査係として二九人(動労組合員二六人、国労組合員二人、鉄労組合員一人)の計九八人を受け入れ、同人らにECの資格を取得させるための転換教育を順次行い、配属した。この転換教育(ELからECへの転換教育)は昭和六二年三月までの間に六回にわたり、国労組合員を含め一六〇人余りを対象に行われ、同教育終了者は、順次三電車区などに配属された。同年三月までに高槻電車区に三七人、宮原電車区に四二人、向日町運転所に四人の計八三人(動労組合員六五人、鉄労組合員一四人、鉄産労組合員三人、全動労一人)が各EC職場に配属された。

三電車区の分会は、国労大阪地方本部の中でも国労組合員の比率が高く、同本部内でも重要な活動拠点であったが、以上の結果国労組合員の占める割合は低下した。すなわち、宮原電車区の運転士については、昭和六一年四月一日当時二六六人が配属されており、うち一五七人が国労組合員であったが、右広域異動により、動労組合員五八人、鉄労組合員一人が転入し、また、同電車区の検修(検査係等)については、昭和六一年四月一日当時一五九人が配属されており、うち一二〇人が国労組合員であったが、右広域異動により、動労組合員一一人が転入した。高槻電車区の運転士については、昭和六一年四月一日当時二四〇人が配属されており、うち一六〇人が国労組合員であったが、右広域異動により、動労組合員九人、鉄労組合員二人が転入した。

一方、国鉄は、昭和六一年六月二四日、本件転換教育(ECからELへの転換教育)の受講者五五人(原告中島、同大矢及び田岡を含む。)を指名した(ただし、原告中島に対しては同月二七日に指名)が、受講者として指名された者は、二人の全動労組合員を除きいずれも国労組合員であり、しかも、うち三一人は、当時国労において何らかの役職に就いていた者であった。

イ 国鉄は、昭和六一年七月一日、全国一〇一〇箇所に人活センターを設置したが、昭和六一年一一月一日当時の人活センターの設置個所は一五四七箇所、同センターに担務指定された職員は、一般職員一万八八八二人、管理職員二一八八人の合計二万一〇七〇人であり、その約八〇パーセントを国労組合員が占めていた。

岡山鉄道管理局管内においては、昭和六一年一〇月三〇日現在、人活センターは三八箇所設置され、これらの人活センターに担務指定された者の総数は三七五人で、これを組合別に見ると、国労が二八九人(七七パーセント)、動労らが八一人(二二パーセント)、その他が五人(一パーセント)であった。

国鉄は、分割民営化直前の昭和六二年三月上旬に実施した人事異動において人活センターへの担務指定を解き、同時に人活センターを廃止した。

大鉄局関係の人活センターにおける仕事は、竹細工作り、コンコースのモップかけ、銘板磨き及び草むしりなどであり、ほとんど一日中何も仕事がなく待機状態にあることもしばしばあった。

大鉄局の運転関係職場の職員は、同センターに担務指定されることは、余剰人員として固定化されることになるのではないかと危ぐしていた。

(2)  (1) の認定によれば、国鉄は、国労大阪地方本部のいわば拠点であった三電車区に、広域異動によって多くの動労組合員を転入させ、三電車区において余剰人員を生じさせたこと、しかも、転入してきた動労組合員に対してはECへの転換教育を受けさせる一方、従来からいた国労組合員、しかも主として国労の役職者等に対してはELへの転換教育(本件転換教育)を受けさせたこと、その後に行われた人活センターへの担務指定を受けた者の多くは国労組合員であったが、大鉄局関係の人活センターにおける仕事は、竹細工作り、コンコースのモップかけ、銘板磨き及び草むしりなどであり、ほとんど一日中何も仕事がなく待機状態にあることもしばしばあったこともあり、大鉄局の運転関係職場の職員は、同センターに担務指定されることは、余剰人員として固定化されることになるのではないかと危ぐしていたこと、以上の事実が認められる。しかしながら、前記のとおり、国鉄が組合差別的な募集条件を付加したといえるかどうかは、改革法二三条一項が規定する職員の募集段階において判断すべきである。以上の事実は、国鉄が国労に所属している限り承継法人には採用しないことを黙示に外部へ表白したと解する余地はあるが、(一)において述べたと同様の理由により、改革法二三条一項が規定する職員の募集段階においては、受け手である国鉄の職員、殊に国労又は全動労の組合員にとって組合差別的な募集条件が付加されたとまでは受け止められなかったものということができる。

以上によれば、余剰人員対策、転換教育及び人活センターの設置に関する事実につき、国鉄が組合差別を内容とする募集条件を定めたと認めることはできない。

(三) 国鉄の幹部職員及び職制の言動に関する事実

(1) ア 乙事件の乙第一五一号証及び弁論の全趣旨によれば、昭和六一年四月、杉浦総裁は国鉄職員全員に対して手紙を送付したこと、同手紙には、「すでに政府は国鉄改革について御基本方針を決定し、そのための法律案もすべて国会に提出いたしました。私は、この法案に盛られた改革案が今日考えられる唯一最善の道であると確信しています。それは国鉄を破壊することでは決してなく、国鉄を新しい鉄道として生き返らせることなのです。このことを皆さんよく考えてください。」、「雇用対策の完璧を期するためには、広く国民の皆様の御理解と御支援を得ることがどうしても必要でありますが、そのためには、まず私どもは最大限の自助努力を尽くさねばなりません。そして、これまでの労使の壁を越え、この際労使一体となって雇用確保の努力をすることを国民の皆様に示すことが必要と考え、先般、各組合に対し、労使共同宣言の提起もいたしました。」との記載があることが認められる。

イ 甲事件の乙第八八号証及び乙事件の乙第一二四号証によれば、国鉄職員局次長葛西敬之(以下「葛西次長」という。)は昭和六一年四月二二日に「国鉄余剰人員対策について」と題する講演を行い、この内容が昭和六一年八月発刊の雑誌「汎交通」に掲載されたこと、そこには、葛西次長の発言として、「我々としては分割前提で、分割が既成事実になったかのような作業を進めるということは、これは非常に国会の審議においても、いろんな問題がありますし、そういうことはできないわけでありまして、そういうこと以外に、例えば、いまの鉄道が将来活性化された形で運営される場合に必要なこと、あるいは、いまのままでも必要なことについては先にやっておかなければならないということで、いろいろなことをやっております。広域異動というのも一つにはそういう付帯効果をもち得るわけで、三四〇〇人の人は本人の希望最優先で配慮してもらえるということでありますから、事実上本人の希望のところに一応行ける可能性が強いのでありまして、その点が保証されたというふうに考えていいと思います。もちろんこれがストライキをやるとか、ワッペンをつけるとか、上司に対して逆らうとかいうことをやれば配慮しようがなくなってしまうことになりますが…。また、例えば派遣というのをやります。現在も一万人以上が派遣されておりますが、帰ってきたものも含めますと、一万三、四千人がすでに派遣を経験しております。派遣というのは、国鉄にとって重要な民間の企業での働きぶりを学んでこいということで、教育的なものとして、本来の職務に専念するものをクリアーして派遣しているわけでありますから、これは選ばれて教育された人間ということで、当然、新事業体として必要な人間であろうということになりましょうから、まあ蓋然性の問題としてみると、新事業体が引っ張りだこでとるだろうということで、これもすでに一定の評価が進んでいます。それから、現在民間企業のための企業人意識をもたせるために、七万人ほど九月末までに教育を完了する。ここで教育がなされますと、本人も希望し、あるいは成績を判定し、教育に触れて民間人としての気持ちをもたせるようにしたいということでありますから、当然本人の希望が優先的に配慮されるような条件を整えた形になり得る。それが例外なしということになるわけではございませんけれども、プロパビリテイの問題としてはそういったことであります。」との記載があることが認められる。

ウ 甲事件の乙第三六七号証及び第三六八号証並びに乙事件の甲第三〇号証の一及び同号証の二によれば、国鉄車両局機械課長岡田圭司は、昭和六一年五月、各機械区所長にあてて書簡を送付したこと、同書簡には、「ここで、次の諸点を再度認識する必要があります。

<1> 国鉄改革を完遂するには、職員の意識改革が大前提である。

<2> 職員の意識改革とは、端的に言えば、当局側の考え方を理解でき、行動できる職員であり、新事業体と運命共同体的意識を持ち得る職員であり、まじめに働く意志のある職員を、日常の生産活動を通じて作り込むということである。

このような職員のみが、新事業体に明るい未来を約束する。

<3> したがって、当面職員の意識改革を行うということは、過去の労働慣行に基づく職員の意識と新事業体の進むべき道との間の闘いであり、必ずそこに労使の対決が生じ、これを避けて通ることは不可能である。

<4> 逆に言えば、労使対決、あるいは対決とまでゆかなくとも職員に対して言いにくいことを言うなどということを恐れていては、職員の意識改革は不可能であるということを肝に銘ずべきである。

<5> そのためには、管理者は自分の機械区は自分の責任においてつぶすのだという居直りが必要不可欠である。この居直りが事態を改善してゆく。

先刻承知のことでもあるでしょうが、更に具体的施策としては、

<1> 現在の機械区程度の技術力では、何時でも他系統の職員と入れ替わり得ること。

<2> 現在の機械区の職員の意識レベルでは、何時でも前号<1>の可能性が高いこと。

<3> 余剰人員対策に伴う再雇用のかぎを握っているのは管理者であって、組合ではないこと。

<4> 処分歴があっては、どこの企業でも再雇用に対し難色を示すこと。むしろ採用はしない。

<5> したがって、自分の現在あるいは将来に対しては、自分自身で主体性を持って決めるべきである。

等を、心ある一人一人の職員に十分理解させることが必要となります。区所の職員全体が不良職員というわけではなく、心ならずも大勢に引きずられている職員が多いというのが実態でもあるからです。

是非、個別に心ある職員と話し合い、理解を深めさせていただきたい。

イデオロギーの強い職員や話をしても最初から理解しようとしない職員、意識転換に望みを託し得ない職員等は、もうあきらめて結構です。

いま大切なことは、良い職員をますます良くすること、中間帯で迷っている職員をこちら側に引きずり込むことなのです。そして、良い子、悪い子に職場を二分化することなのです。」との記載があることが認められる。

エ 甲事件の乙第三六九号証によれば、葛西次長は、昭和六一年五月二一日、動労役員らに対し講演を行ったこと、同講演中の葛西次長の発言には、「私はこれから、山崎(注・国労委員長)の腹をぶんなぐってやろうと思っています。みんなを不幸にし、道連れにされないようにやっていかなければならないと思うんでありますが、不当労働行為をやれば法律で禁止されていますので、私は不当労働行為をやらないという時点で、つまり、やらないということはうまくやるということでありまして…」との部分があることが認められる。

オ 甲事件の乙第三七一号証及び弁論の全趣旨によれば、杉浦総裁は、昭和六一年七月八日から開催された動労全国大会に出席し、そこで、「私どもは、大変革の事案を完成するために、皆さんにいろいろな問題を矢継ぎ早に提案してきました。三本柱、労使共同宣言、あるいは広域異動の大変な事柄を、動労の皆さんには積極果敢に処置を講じていただきました。この姿勢が私どもにとりましてはありがたく思います。動労の皆さんの″知性と勇気″に心から御礼申し上げます。国鉄の組合の中にも「体は大きいが、非常に対応の遅い組合」があります。この組合と仮に、昔「鬼の動労」といわれたままの動労さんが、今ここで手を結んだといたしますと、これは国鉄改革どころではない。そのことを想像するたびに、私は背筋が寒くなるような感じがします。世の中の激流に臨機応変、弾力的に対応できる動労の体質が、国鉄改革路線の大きな牽引力となっていると、断言しても差しつかえないと思います。あらためて動労の皆さんに絶大なる敬意と賞賛の言葉を申し上げます。(中略)私は総裁としての最大の責務のひとつは、真面目に仕事をしている職員を、一人たりとも絶対に路頭に迷わせないようにすることだと思います。新しい会杜にむけて、具体的な準備にいよいよ本格的に取りかかる必要があります。真面目に働く方に新しい事業体へ行っていただき、健全な鉄道として生まれ変わっていく。国鉄は分解整理されるのではなく、新しい鉄道として再生されるということです。そのことを目指して私も精一杯、残り少ない時間を有効に活用して全身全霊をあげて邁進するつもりです。動労の皆さん、他の三組合ともども新しい鉄道にむかい、国鉄改革への道を邁進していただくようお願い申し上げ、あいさつといたします。」と発言したこと、右発言中「他の三組合」とは鉄労、全施労及び真国労を指すことが認められる。

カ 甲事件の乙第三七〇号証、乙事件の甲第三七号証及び弁論の全趣旨によれば、杉浦総裁は、昭和六一年七月八日から開催された鉄労全国大会に出席し、そこで、「難局を乗り切るためにいろいろな施策、問題提起を矢継ぎ早に行ったが、鉄労のスピーディーな対応には感謝に耐えない。国鉄改革の大きな原動力である。国鉄はマル生運動以降、苦難の歴史が刻み込まれた。生産性運動はまことに当然なことであるが、これをなぜ完遂できなかったのか、と反省している。しかし、この苦難のなかで終始一貫した信念と勇気と行動力の鉄労の存在は画期的であり、絶賛称賛したい。ほめてもほめてもほめすぎることはない。(中略)余剰人員対策には万全を期したい。真面目な職員をー人たりとも路頭に迷わせてはならない。これは私の信念である。政府、産業界挙げて応援してくれている。難問を克服しつつ、新会社移行の準備を進めたい。立派な職員が新会社に行けるようにしたい。」と発言したことが認められる。

キ 甲事件の甲第三八号証及び乙第三七二号証によれば、昭和六一年八月二八日に開催された全施労の大会に杉浦総裁が出席したこと、同総裁は、同席上で、「全施労の皆様方の今日の国鉄改革への協力につきまして心から感謝申し上げます。先般来、ご存じのように労使共同宣言に加え、更に昨日の第二次労使共同宣言として生まれたわけであります。このことは、戦後の労働運動の中では正に画期的な内容であることは言を待ちません。将来の健全な企業体を目指して、健全経営が定着するまではスト権を留保するということは、まさに画期的なことではないかと信じています。(中略)これらの問題の解決のためには私どもも努力すると同時に全施労の皆様方のご協力をいただきながら、真面目に働く職員が路頭に迷うようなことのないよう、万全を期して参りたいと思いますので一層のご支援、ご協力を賜りたいと思います。」と述べたことが認められる。

(2)  しかし、(1) の各事実は、国鉄が組合差別的な募集条件を付加したものと認めるに足りないものであるか、改革法の法案の国会における審議を通じて改革法二三条の立法趣旨に所属組合等による差別があってはならないことが含まれていることが明確にされたことにより、同条一項が規定する職員の募集段階においては、受け手である国鉄の職員、殊に国労又は全動労の組合員にとって組合差別的な募集条件が付加されたものと受け止められず、その意味が失われたものであるか、又は募集の時期終了後の言動であり募集条件とは結び付かないものであるから、国鉄が承継法人の職員の採用候補者の選定に当たって全動労、国労の組合員を不利に取り扱う意思をあらかじめ外部に表白したに等しいことの根拠とはならない。

4  その他国鉄が組合差別的な募集条件を付加したことを認めるに足りる証拠はない。そうすると、原告らの予備的主張は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

九  実質的同一性の法理の適用の有無

原告らは本件に実質的同一性の法理が適用されると主張するが、改革法が承継法人の職員の採用については専ら採用を決定する側に自由があることを規定しており、同法二三条はこれに基づく採用候補者の決定につき採用の自由を付与したものと解するのが相当であること、この点が核心であり、承継法人の職員の採用の対象がすべて国鉄の職員であり、国鉄の職員の立場からすれば採用されないことが解雇されるに等しい実質を持つことや、鉄道事業を構成する資産等が承継法人に承継され、その面では営業譲渡の実質を有することによって右の判断が左右されるものではないこと、同法二三条による採用は新規採用に当たること、以上の各点は既に述べたとおりである。原告らの主張する実質的同一性の法理を肯定することができるか否かはともかくとして、右に述べた各点によれば、国鉄と原告らとが実質的に同一であることを理由に国鉄が行った採用候補者の選定及び名簿の作成につき原告らに不当労働行為責任が帰属するものということはできない。

原告らのこの点の主張は理由がない。

一〇  ILO条約及び勧告について

1  原告らは、(1)  ILO八七号条約一一条において、加盟国は、労働者及び使用者が団結権を自由に行使できることを確保するために、必要にしてかつ適当なすべての措置をとることを約束する旨規定され、また、ILO九八号条約一条一項及び二項では、労働者は、組合員であるという理由又は労働時間外に若しくは使用者の同意を得て、労働時間内に組合活動に参加したという理由で労働者を解雇し、その他その者に不利益な取扱いをすることから、十分な保護を受ける旨規定されている、このように、採用時における反組合的差別は禁止されており、そうだとすると、新規採用の場合にあっても雇入段階での不利益取扱いとしての雇入拒否は団結権侵害に当たるものとして十分な保護を受けるべきである、(2)  平成一一年一一月、ILO結社の自由委員会は、日本政府に対して、鉄道会社(承継法人)が国労及び全動労の組合員の採用を拒否したことにつき、裁判所の判断が右条約と調和すべき旨勧告した、以上のとおり主張する。

2  我が国は結社の自由及び団結権の保護に関する条約(ILO八七号条約)を批准しているが、同条約一一条は次のとおり規定する。

「この条約の適用を受ける国際労働機関の各加盟国は、労働者及び使用者が団結権を自由に行使することができることを確保するために、必要にしてかつ適当な措置をとることを約束する。」

また、我が国は団結権及び団体交渉権についての原則の適用に関する条約(ILO九八号条約)を批准しているが、同条約一条は次のとおり規定する。「一項 労働者は、雇用に関する反組合的な差別待遇に対して充分な保護を受ける。

二項 前記の保護は、特に次のことを目的とする行為について適用する。

(a) 労働組合に加入せず、又は労働組合から脱退することを労働者の雇用条件とすること。

(b) 組合員であるという理由又は労働時間外に若しくは使用者の同意を得て労働時間内に組合活動に参加したという理由で労働者を解雇し、その他そのものに対し不利益な取扱をすること。」

次に、甲事件の甲第七八号証及び第七九号証並びに弁論の全趣旨によれば、平成一一年一一月、ILO結社の自由委員会が勧告(以下「ILO勧告」という。)を出したこと、同勧告中には、結社の自由に関するILO諸条約は、我が国が自由意思で批准した条約であり、司法機関を含むすべての国家機関が尊重しなければならないものであるから、右諸条約の適用を保障することは日本政府の責任である、同委員会は、国労及び全動労組合員の解雇に関する裁判所の判決がILO九八号条約に沿ったものとなることを信じている旨の記載があることが認められる。

3  ILO九八号条約一条二項は前記のとおり規定しており、同条二項(a)及び同条二項(b)は、その内容に照らせば、雇用契約締結前の段階と締結後の段階とにそれぞれ対応しているから、同条一項は、雇用契約締結前の段階については、同条二項(a)が直接取り上げて規定している黄犬契約から労働者が「充分な保護を受ける」ことを規定しているのであり、それ以外の態様については条約加盟国各国の立法政策にゆだねる趣旨であると解するのが相当である。条約加盟国が自国の法律をもって労働者が労働組合の組合員であること等を理由として(決定的動機として)採用しないことを不当労働行為として禁止することは同条一項及び二項にかなうものであるが、実際には立証が困難であり救済の実効性に乏しいという問題があるから、ILO九八号条約は救済に当たる機関及び手続の整備と併せて条約加盟国の立法政策にゆだねることとしたものと解するのが相当である。

以上によれば、ILO九八号条約一条一項の定めは、新規採用の場合が労働組合法七条一号前段の不当労働行為には該当しないとの前記解釈の妨げにはならないというべきである。

ILO八七号条約一一条は右に述べたことを左右するものではない。

ILO勧告については、あくまで、日本政府に対して、ILO条約の趣旨に沿い適切な措置を執るよう求めているにとどまるものである。同勧告は、ILO九八号条約の尊重をうたっているが、同条約一条一項及び二項の規定する内容は前記のとおりであるから、労働組合法七条一号を前記のとおり解し、これを踏まえて本件について前記のように判断したことは同条約に何ら違反するものではない。

一一  結論

以上の次第であって、設立委員、参加人に不当労働行為責任が帰属する根拠となる事実は見出し難いから、原告中島、同大矢及び同柴田に対する国鉄の組合差別的取扱いの事実等、原告らが主張するその余の点について判断するまでもなく、原告らの請求は理由がない。

(裁判官 鈴木正紀 裁判官 吉崎佳弥 裁判長裁判官 高世三郎は、転補のため署名押印することができない。裁判官 鈴木正紀)

別表<省略>

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